第5話

バシュンという音がして、私達は時空の穴に吐き出されるようにして地に降り立った。見ると、壁、床、天井に森が投影されている。そこはまるで本物の森林のようだった。赤音はあたりを見渡す。

妙に生々しい草の感覚が足に走った。

「これ、まさか…」

「本物の森!?」

そのとき、ライがようやく上体を起こした。

「そんなにビックリしなくていいだろ。異世界の扉に入ったんだから」

「ここは本当に異世界の森、ということね」

メリナも服の埃を払いながら続けた。

「な、なんでふたりともそんなに冷静なの!?」

「私はこれでもうろたえてるわよ」

いや、メリナは今見てもめちゃくちゃ冷静だ。

「慌てるよりもお前らが帰る方法を探したほうが良いだろ」

ライはもっと平然と言った。確かに、こんなところに長くはいられな…

「えっ、さっきの扉から帰れないの?」

私はライが寝返っていい感じに逃げられるとか、思っていたのに。

「扉はもう無いじゃないか」

見ると、確かにさっきまであった扉が某なんとかドアみたく綺麗に消滅していた。

「ウッソー!?」

          ⦿

赤音はガックリ肩を落とし、「今週の陽キャストリートが…」と呟いていた。アニメかなんかだろうか。

私が知らないと言うと陽キャストリートの熱弁をし始めてしまった赤音を横目に、私はライに尋ねた。

「この世界、なんだか不思議な感覚があるわね」

「というと?」

ライが少し目を光らせた。

「体に血液以外の者が流れてるような…そんな感じ」

私がそう言うと、ライは額に手を当て、呆れたような仕草をした。が、顔は笑っている。

「ハッハッハ!まいったなぁ」

「それは魔力だよ」

「えっ、魔力?異世界っぽい!」

赤音が急にこちらの話題に興味を示した。実際異世界なのだが。

「出せる魔法は才能で決まる」

「今から魔法、出したいかい?」

「出すー!!」

赤音は満面の笑みでライに同意した。

…あっちの世界に帰ることは、もう忘れたようだ。

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