第179話 温泉女子会

 そろそろ食事も終わり、インプたちの後片付けが始まった。

 皆は寝る準備をするためにそれぞれ移動しだしたが、陛下はレッサーデーモンにワインを注いで貰っている。


 俺は――。


 酒はもういいかな。

 ガレフとリーナが飲んでいた紅茶を飲んでみたい。俺は買った記憶がないので、誰かが買ってきたのだろうか? 

 この孤児院にもお金が回りだしたおかげで、嗜好品にまで手が回りだしたようだ。


 ちょうど俺の近くをリーナが通りかかったので聞いてみよう。


「リーナ、さっき飲んでた紅茶を俺も飲んでみたいんだけど、どこにあるの?」


「え~、マコチンもあれ飲むの? あれはお貴族様がくれた、いいお茶だから飲んでほしくないなあ」


「いやいや、それはおかしいだろう。まずお貴族様って誰だよ」


「使者の人はリシュリュー卿からの贈り物って言ってたかな。孤児院の

 皆で飲んでくださいって言ってたね」


「じゃあ俺が飲んでもいいじゃないか…………。しかも何か貰ったのなら俺に報告してほしいんだが、なんで誰も教えてくれないんだ?」


「それは私がちゃんとマコチンには伝えたよって、ロレッタに嘘をついておいたからだよ!」


「ダメじゃん! 何でそんな嘘をつくんだよ」


「それは本当にあの紅茶が良い奴だから、秘密にしたかったんだよ!」


「そんな事は許可できないな。さあ俺に紅茶をいれてきてくれ」


「このご主人様は横暴だよ~」


 リーナは走ってキッチンに行ってしまった。逃げられたかと思ったが、一応紅茶はいれてくれるらしい。準備をして戻ってきた。

 奴隷と言っても忠誠心がないとあんな感じになってしまうのだろうか? それでも命令さえすれば従ってくれるようだが、ご主人様も意外と大変だな。


「おいしくいれてくれよ」

 茶葉をケチってお湯みたいな紅茶にされてはたまらない。


「当然だよ! 良い茶葉をムダにするわけにはいかないからね。温度と時間、最後の一滴まで注ぎ切るのが大事なんだ――。これがゴールデンドロップだよ!」


 なんか思ったよりも一生懸命、紅茶をいれてくれた。最初からそうしてくれればいいのに…………。


 ドヤ顔で俺に紅茶の入ったカップを差し出すリーナ。

 ふわりと良い香りが漂ってきた。


 味はどうだろう。

 口に入れると心地よい渋みが口の中を満たして、さっぱりとしてくれる。

 あとから香りが口いっぱいに広がり、ホッとリラックスできた。


 紅茶には詳しくないが、確かにこれは高級茶葉なのかもしれない。

 今日の様な高カロリーな食事の後には、ギトギトした口や胃の中が洗われる様で心地よいぞ。


「どう? マコチン、おいしいでしょ? これは良いものだよ」


「いいね。気に入ったよ」

 リーナの偉そうな態度は気に入らないが、紅茶の味は気に入った。またいれて貰おう――。


 紅茶のおかげでリラックスできたので、そろそろ俺は寝たいが署長たちを放っておくわけにもいかない。

 そろそろ戻ってくると思うのだが――、ぼんやり椅子に座って待っているとネムルちゃんが一人で戻ってきた。


「いやー、すごいじゃないですかマコトさん。まさか地下にあんな素敵な温泉があるなんて知らなかったです。あの自然を活かした大浴場は見事ですね。それに泉質もいいですよ。私は職業柄、温泉の効能にはうるさいのです。あの温泉は疲労回復だけではなく、細胞修復力の上昇効果も見られますよ。それによって捻挫や打ち身に効きますし、傷も治りやすいです。さらに美肌効果も当然ありますね!」


 頬を上気させて興奮気味に語ってくるネムルちゃん。湯上りなので余計に顔が赤い。


「気に入ってくれたのなら良かった。でもなんで1人で戻ってきたの? 他の2人は?」


「あの2人は途中から拷問の話で盛り上がりだしたので、私はそっと抜けてきました…………」


 あー、やっぱり……。そんな気がしたがロレッタはそれ目当てで温泉についていった様だ。教育上よくないかと思ったが、まあロレッタの精神年齢は高いから大丈夫だろう。


「食事にお風呂にありがとうございました。今日は帰りますけど、また遊びに来たいです。ちなみにマコトさんはこの孤児院の院長なんですよね? それなら院長夫人を狙うというのも良いかもしれないです! うふふ、冗談ですよ」


 丁寧にお礼を言うと、ネムルちゃんは上機嫌で帰っていった。あの様子ではまた温泉に入りに来そうである。


 今日の様な急な来客に備えて客室やタオルに部屋着などのアメニティを揃えておくのも良いかもしれないな。


 孤児院を訪れた人が良い印象を持って帰ってくれた方が、俺の評判も上がるはずだ。


 次から訪れた客には、まず温泉で汚れや疲れを流して貰って、清潔な部屋着に着替えて、それから酒や食事を振る舞おう。さらに宿泊もできるように客室も常に整えておくのがいいだろう。


 今ならインプやゴーレムという従業員もいるので、それくらいは出来るはず。もっと働き手が増えれば温泉旅館をオープンする事だって夢ではない。


 探索者に疲れたらそれもいいな。景色の良い郊外に新たに温泉旅館を作ってのんびりと暮らすのだ。ガレフがいれば可能だろう。


 でもまずは明日からのダンジョン探索を頑張りたい。


 日本に帰るのも目的だが、もしダメでもダンジョンでお金をたっぷり稼いでおけば異世界スローライフを楽しめそうだ。旅館を建てるにしても内装にはお金が掛かるし、どうせなら調度品もいいものを揃えたい。


 それに早くダンジョンにいって俺の新スキル、魔物の奴隷化を試してみたいじゃないか――――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界サバイバー ~チートスキルとか貰えなかったので奴隷に依存して生きていきます~ アイザック @aizac

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ