第124話 この国で起こっていること
「んじゃあらためて。俺はマグナ。よろしくな!」
「……メイフォンだ。〈アドヴィック〉の四剣四杖の1人……だった」
「四剣四杖?」
暗殺組織〈アドヴィック〉。この危険な組織には8人の頂点がいるらしい。それが四剣四杖とのことだ。
メイフォンはその1人とのことだった。
「え……じゃあ〈アドヴィック〉のトップってこと?」
「序列ではな。実際はギラという男が四剣四杖のまとめ役を務めている。玖聖会との折衝業務もギラが行っていた」
メイフォン自身はやはりこの国の出身らしい。もともと暗殺稼業をしていた関係もあり、途中から〈アドヴィック〉に加入したそうだ。
また彼女は予想どおり、ここにはルドレットの精霊を奪いに来たとのことだった。
「契約精霊を奪うなんてこと、できるもんなのか……?」
「ああ。この長剣に魔力を込めると、刀身が青白く光る。その状態でクリスタルの刀身に当てることで、そのまま精霊の力を移すことが可能になる」
「はぁ……そんな魔道具が存在しているのか……」
すげぇな、この星独自の謎技術は。
そう考えていたが、どうやらこれは相当特殊な魔道具になるらしい。メイフォンは長剣についてあらためて教えてくれた。
「普通はそんな魔道具、存在しない。この長剣は玖聖会に加わった、金海工房の職人たちによって作成されたものだ」
「……金海工房?」
「ああ。ギンレイ皇国にある鍛冶工房だよ」
ギンレイ皇国にはかなり技量の高い鍛冶職人たちがいるらしい。工房もいくつかあるが、最も有名なのが〈金海工房〉とのことだった。
玖聖会はその工房から何人かの職人を引き抜き、自分たち専属として雇っているようだ。
「大図書館の地下で、わたしとエンブレストは巨象とともに転移しただろう? あれも金海工房の作成した魔道具によるものさ」
「あー……そういやエンブレスト、あのとき剣で青いラインを引いていたよな」
玖聖会にいる金海工房の職人たちは、こうした摩訶不思議な魔道具をいくつも作り上げているらしい。
そしてそうした魔道具は、通常の魔道具にはない性能を有しているとか。
「普通の魔道具で、転移が可能なものなど存在していない。金海工房だけが特殊な魔道具……いうなればオーパーツを再現した魔道具を作成できるんだ」
「それだけすげぇ技術力を持った集団だということか……」
玖聖会の組織構造が見えてきたな。実行部隊に〈アドヴィック〉を擁し、そしてあやしいクスリなどの作成部門に、エンブレストを中心にした〈月魔の叡智〉がある。
またオーパーツに近しい性能を持つ魔道具作成部門に〈金海工房〉がいるのだろう。
こうしてみると、かなりの大組織だ。国のかかえる研究機関顔負けではないだろうか。
「玖聖会をまとめあげているのは総帥という人物だ。彼女がエンブレストと金海工房の職人たちに特殊な知識を授けている」
「……総帥?」
「ああ。わたしは直接話したことはないが……エンブレストに大図書館の地下への行き方を教えたのも総帥だった」
すっげぇ物知り博士がいるということか。
メイフォンはあらためていま、この国でどういった計画が進んでいるのかを話してくれる。
「四剣四杖の全員がいま、この国にいる。その目的は総帥から下されたある任務を達成するためだ」
「ある任務……?」
「1つ、四聖騎士の精霊強奪。2つ、四聖騎士の暗殺。3つ、アリエ湖の底にある遺跡に入り、そこで〈聖痕〉を開放する」
「はい!? 暗殺ぅ!? 聖痕……!?」
四聖騎士はこの国最強の戦力とはいえ、強いのは精霊の方だ。彼女たち自身は戦いのプロというわけではない。
一方で四剣四杖は全員が最高クラスの暗殺者。1対1ならば、精霊にさえ注意すればまず負けることはない。そこでまず四聖騎士にそれぞれ1人ずつ刺客が放たれた。
だがここで〈アドヴィック〉にとって予想外のことが起こる。それは俺とアハトが居合わせていたということだ。
おかげで四聖騎士の前に現れた刺客4人は、全員が任務失敗することとなった。
まぁ火と水の精霊に関しては、クリスタルの剣から奪うこと自体には成功しているのだが。
「本来ならメイフォンが、新たな風の精霊の契約者になるはずだったと……」
「ああ。といっても、この剣で奪った精霊は操るのにいくつか制限がある」
ルドレットたち四聖騎士であれば、精霊の顕現と維持に魔力を消費し続けるが、おおよその希望を伝えることであとは精霊が勝手に動いてくれるらしい。
一方でメイフォンたちが精霊を動かそうとすると、具体的に「ああしろ」「こうしろ」と指示を出す必要がある。
また長剣にチャージされた魔力がなくなると、自動的に精霊が消えるとのことだった。
『ふむ……興味深い。この長剣はあとでシグニールに送っておけ』
またリリアベルの魔道具収集癖が出てきている……。
でも金海工房製の魔道具だし、これまで集めてきた魔道具とは異なる代物だろう。
「アリエ湖の底にある遺跡と聖痕ってのは?」
「……これも総帥から聞いたんだよ。あの湖は人工的に作られたものだってね」
大神殿の地下は遺跡になっているらしい。そこからアリエ湖の底にある遺跡に行けるのだとか。
そしてそこには〈聖痕〉が封印されているとのことだった。
「〈聖痕〉がなんなのか。それはわたしも詳しくは知らない。だがそれを身に宿すことで、強力な力を得ることができる。玖聖会の幹部は全員、その身に聖痕を宿している」
『そういえばディルバラン聖竜国でガイヤンと対峙したとき、爪の聖痕という単語を口に出していたな』
言われて思い出す。そういやあいつ、片腕を爪がすごいバケモノに変えていたな……。
聖痕はよくわからないが、ああいう超常の力を発揮できるものなのだろうか。
「ただし遺跡に行くには、〈精霊の目〉と呼ばれるオーパーツが必要になる」
「精霊の目……」
「ああ。王家に伝わる大きな貴石で、これは約10年前にある人物によって聖都の外へと持ち出された」
前聖王の弟であるムルファス。彼が〈精霊の目〉を持ち出した張本人だと言われているらしい。
ムルファスは兄を殺すと王家に伝わるオーパーツを持って、聖都リスタリスから逃亡した。
だがこの〈精霊の目〉、いまは精霊たちの首魁である〈エド〉が持っている。……いや、いた。
「ギラだ。彼はすこし前に〈エド〉が拠点としている古城に乗り込み、そこで〈精霊の目〉を奪うことに成功した」
ギラはそのとき、時間的な制限はあるものの、エドを拘束することに成功したそうだ。そして彼は〈精霊の目〉を持ったまま、聖都へと向かった。
拘束から解放されたエドは、古城から出て前線まで押し寄せてきた……ということだったらしい。
「それじゃギラはいま、他の四剣四杖たちと一緒に大神殿に向かっているってことか?」
「そのはずだ。予定ではギラがその身に聖痕を宿すことになっているからな」
「……………………」
どうするか……。放置していてもあんまりいいことにはならなさそうだ。
そもそも玖聖会と俺たちはすでに何度かやり合っているし、六賢者からの依頼もある。ここまで聞いて見て見ぬふりはできないな。
それにギラという男。こいつを確保できれば、メイフォン以上の情報を得られる可能性もある。
すくなくとも総帥については、ギラのほうがくわしいだろう。これも六賢者の依頼を果たすうえで無視できない要素だ。
『おい、聖痕や湖の底の遺跡が気になる。できればこちらで先に確保したい』
どうやらリリアベルさんは、はじめから向かわせるつもりだったみたいだ。まぁこうなれば話は簡単だな。
「……わかった。聖都についたら、ルドレットとルスチーヌに協力してもらおう。なんとか大神殿の地下まで連れていってくれるように……てな」
もうすこしで聖都につくし。ルドレットたちにははやいうちに話をとおしておいたほうがいいな。
「できればアハトとも合流したいところだけど……。向こうはいま、どういう状況なんだ?」
『ちょうどアハトから新たな知らせが届いたぞ。どうやら〈エド〉を自分の契約精霊にしたようだ』
「……………………はい?」
『このエドという精霊もなかなか興味深い。どうやら話に出てきたムルファスの骸が精霊化したもののようだが……最近、ムルファスとして生きていたときの記憶が芽生えたらしい』
意味はよくわからなかったが、リリアベルはエドの情報をまとめてくれる。
今の聖王が王家の血を引いていないとかいろいろ驚きの情報が多すぎて、俺の頭はさらに混乱してしまった。
帝国宇宙軍所属の俺ですが、未開の惑星に遭難しました。〜なんかこの星、魔法とか存在しているんですけど⁉︎〜 ネコミコズッキーニ @kazuto01792
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