姉の検索履歴
石衣くもん
姉の検索履歴
私が結婚して実家を出てから早二年。
明日まで旦那が出張で、一人でご飯食べるのが寂しかったから実家に帰ってきた。久々の実家なので、一泊して帰るつもりだ。
「おかえり」
出迎えてくれた母と、テレビを見ている父、夕食の手伝いをしている姉。変わらぬ光景。
姉は、まだ実家でのんびり暮らしている。比較的仲はいい方だと思っているが、姉はわりと秘密主義だ。
「姉ちゃんいい人できた?」
「推しならいっぱいいる」
こんな感じで自分の話はのらりくらりと躱すのだった。
ご飯を食べてる間も、ずっと母が喋って、父は無言、時折姉が相槌を打つという、いつもの光景。もしかしたらこの光景は一生続くのではないかと思うくらい、家を出る前と変わってなかった。
翌日、父母は仕事だったので昼御飯は姉と二人で外食することにした。姉が運転してくれるので、私がどこに行くか適当にこの辺の店を探そうと思って、鞄を探り、ポケットも探り、気がついた。
「しまった、家にスマホ忘れた」
そういえば充電器に差しっぱなしにしてきた気がする。
「ご飯食べてから取りに戻ろう」
「ごめん」
「なに食べるか決めた?」
お店を探すのに姉にスマホを借りた。検索画面を開いて「千曲駅 ランチ」と打ち込んだ。
すると、検索窓の下に、最近の検索履歴が自動で表示され、一番上に「綿帽子キーパー」と見慣れぬ単語が現れた。
好奇心に勝てずその履歴をタップしたら、検索結果の一番上に、大量のまち針が刺さった状態の針立てみたいなのを頭に乗せた女の画像が出てきた。
「姉ちゃん何調べてるの」
「あっ、勝手に検索履歴押したな」
大笑いする私に、焦ったように姉が早く店を探せと言う。再びスマホに目を戻し、少し画面をスクロールして漸く気がついた。
「綿帽子って、結婚の?」
姉を見たら、ばつが悪そうな顔。
私は昨日見た、いつもの光景が、次に実家に帰ってくる時にはもう見られないことを知ったのだった。
姉の検索履歴 石衣くもん @sekikumon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます