焼け付くような朝日が、心の地図の上で起こる全ての出来事を照らすよ

不遇な境遇にいる人の様子や心情が深く描かれている。
嫌いだった我妻村だったけど好きになる展開は、読んでいて救われる。
情景を用いた心情の書き方よかった。

円は先月、転校してきたばかり。
クラスメイトだろうとなかろうと、円にとっては「全然知らない子です」。
彼女が伝えたかったのは、知らない子から毎日いじめられている、だと思う。

円と雄は、事実を知らない周りの人間に疎まれている存在として描かれている。
さらに、二人と同じ立場の人間がいる。
それが東川紀明。
孤児院に置き去りにされていた雄を最初に見つけた巡査部長。
その後も気にかけて交流があったに違いない。
事件が起きたときには警察を退役していると思われる。
だから、雄の相談を受けても力になることができなかったのだ。
少年院に入っている間に「俺のせいだ」と悔やんで、紀明は雄を引き取るために保護司になったのだと邪推する。
雄はきっと知らない。
二年ほど暮らしていても紀明が優しくて暖かい人だということを知らず、誤解していたにちがいない。
さらに、母親も同じだと思う。
当時は生活が苦しくて育てられなくて、置き去りにしたのだ。
十七年経って、宮田という人に会って、ようやく家族がもてるようになったときにネットで調べたら、事件のことが検索で出てきて、我妻村に来たのだろう。
薄情な親だったら、調べたりしない。
だからといって突然現れ、自分を捨てた人を許せるかは難しい。
苛立つ気持ちもよくわかる。

円と紀明に謝るとき、気持ちがようやくほぐれた感じがよく書けている。

これから雄の未来地図が、明るく広がっていくのを感じさせられる話だった。