ただし、ソロといっても1人相撲が続くような話では決してありません。
ソロだからこそ臨機応変で臨時パーティを組むことも抵抗なく、ソロだから次々舞い込んでくる話に自己判断ですんなり乗ることができます。
1人で様々な依頼をこなしていく事に対する評価でどんどんと周りにキャラが集います。「ソロ」ですが孤独ではない。そんな不思議さも覚える作品です。
主人公のレニーは、冒険者といって想像するようなスタンダードにアツいキャラとは違います。
感情表現もこざっぱりしているし、熱血漢でもない。かといって陰気でもない。だからこそ他のキャラとの調和がものすごく自然に感じられるし、厳しい冒険者家業の現実の世界観もすんなりと受け止めることができるとても良いキャラクターです。
ときに力強さを見せながら、パッと見が女性に間違えられることもある容姿というのも彼の魅力だと思います。
初めはチートな能力も使わず進む硬派な物語を楽しめて、後々は成長する彼の力に頼もしさを感じながら読み進められるでしょう。
ぜひじっくり読んでいただきたい物語です。
(このレビューは、現在132話のうち、最初の23話のみ(エピソード2「エルフの話」まで)読んだ段階で書かれたものです)
舞台は異世界。とある城下町サティナス。
新興ギルド(兼酒場)のロゼアに集うさまざまな人物たち。
主人公レニー・ユーアーンはパーティを組まず、ソロで活動する冒険者だった。すこし変わり者だが、腕はたしかで、頭も切れる。
——え? どこかで聞いたような話?
そう。ある意味では、そのとおり。
というのも、この作品には世界ファンタジーに欠かせない定番的要素が、ふんだんに盛りこまれているからです。
たとえば、個性豊かな冒険者たちがスキルや魔法を駆使しながら、恐ろしい魔物やあくどい盗賊たちと戦う、とか。
プロットのそこここにスリリングで意表をつく展開や、ひねりの効いたセリフ、ユーモラスな会話が散りばめられ、飽きさせません。
最後は「おお!」と思わせるような伏線や仕掛けもあり。このジャンルが好きな読者なら、きっと満足すること間違いなし!
なにを隠そう、本作『ソロ冒険者レニー』は、ドラゴンノベルス小説コンテストの中間選考に通過した作品なのです(2,676作品中33作品ですよ!)。
ただ評者は、この物語の魅力をもうちょっと別のところにも見ています(話数でいうと6分の1ほどしか読んでいないのですが)。
いわゆる〈なろう系〉の異世界ファンタジーなら、主人公は「誰にでも親しみやすい」キャラに設定するのが定石でしょう。「実力はあるけど、どこか抜けたところがある」とか。
本作の主人公レニーは、どうか? 共感できる部分は多々あるものの、親しみやすいかというと意見が分かれそうです。
飄々(ひょうひょう)として、つかみどころのない性格。それでいて冷静で狡猾、抜け目のないところもある。
「長年、賊どもや賞金首を狩ってきたからわかる。ああいうやつらの治療法はひとつだ」(受付嬢の話「冒険者と治療法」)
これがどんな「治療法」なのかは、作品をお読みいただくとして、自分が最善と考えた解決に向け、まるで詰め将棋を解くかのように行動するレニーは、容赦なく、ときに冷酷です。
考えてみれば、異世界ファンタジーの世界って、なかなかに物騒な社会であります。
剣術やら魔術やら、腕に覚えのある連中がそれぞれ勝手に行動している。政治権力の側からすれば、統率のおよばない準軍事的(パラミリタリー)な組織や個人がウヨウヨしているわけです。
状況次第では、支配者にとっても利用可能な相手かもしれませんが、そういう連中が普段は思い思いに行動しているとなると、これまた状況次第では、社会秩序が危うくなりかねない。
たとえて言うなら、西部劇のような世界でしょうか。公権力の支配がまだ社会の隅々までは行き渡っていない社会。中央の力が直接およばないところでは、腕っぷしの強い者が自分こそ正義だと言いつのる。そこには当事者同士を裁くような上位の権威がないか、あったとしても介入してこない。
そこで求められるものこそ、勝手にふるまう連中を力や策略で凌駕し、「法と正義」を取り戻すような存在です。
見方を変えれば、気を抜くと、いつ誰に寝首を掻かれるかわからない世界ということでもあります。
脱線が長くなりましたが、本作の主人公レニーが保持するロールが「ローグ」、つまり「ならず者」であることは、このような世界観と関係しています。
「ローグを制すは、ローグだ」(エルフの話「冒険者とマジックアイテム」)
一癖も二癖もある連中の跋扈する、物騒な物語世界。最後に頼れるのは、己の腕と頭だけ。あえてソロを貫く、すこし風変りな主人公レニーが、この先どんな活躍を見せてくれるのか、楽しみでなりません。