最終話 未桜の決意

 曾祖母の部屋でひとしきり泣いたあと、私はほとんど無意識に、祐雅ゆうがに音声通信を掛けていた。

 きっとゲームに夢中で気付かないかと思ったけれど、あいつはすぐに出てくれた。声の向こうで派手な音が聞こえるから、やっぱりゲームはしていたんだろうな。


「どうしたー? 未桜みお?」

「うん、ちょっとね」

 いつも通りの能天気な声にほっとして、思わず私の声が少し震えた。

 祐雅もそれに気付いたのか、あいつは変に狼狽うろたえた様子で、

「ん? お前、なんか泣いてる? 親父にイジメられでもしたのか?」

「ううん。お父さんは今日、帰って来ないみたいだし。……そうじゃなくて、さっきの話。考えてさ、私も諦めずにあがいていこうかなーって思った」

「おっ、おう。そりゃよかった。一緒に頑張ろーぜ。俺は、未桜となら世界を変えて行けるって信じてる」


 私の決意に、祐雅はすごく真面目な声で、恥ずかしいことを言ってきた。

 きっと明日、学校で顔を合わせづらくなる。だけど、今日の私たちはたぶん、本音を言いたい気分なのだろう。

 気付くと私は頷いて、

「うん。だけど、言い出したのはあんたなんだから……途中でいなくなったりしないでよ?」

「約束する。傍にいるさ」


 後から思うと、一生を誓い合ったみたなやり取りのあと、祐雅との通信を切った私は、決意を胸に立ち上がった。

 私はやっぱり自分でイラストを描くのが好きなんだ。

 だから、諦めたくない。


 AIが描くイラストは綺麗だし、正確だし、今のこの利便性重視の世界や、絵を描くのが苦手な人にとっては嬉しい進化なのだろう。

 個性がいらない世界では、私の方が価値観の狂った絶滅危惧種なのも分かっている。

 でも、私はまだ、個性を失くしたくないから。


 私にしか描けない絵で、誰かを笑顔にできたなら、そんなに嬉しいことはないでしょう?


 だから私は、AIが支配するこの世界で、今日もイラストを描き続ける。


 未来で自分だけのはなが咲くと信じて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AIが支配する世界でそれでも私はイラストを描く みんと@お仕事激務につき不在気味 @minta0310

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ