第25話救出

 世界の主要都市に【GIN BEE社】という謎の企業が急に頭角を現しだす。現在、価値が高騰しつつある【キューブ】の独自精製技術や。汎用性の高い機巧甲冑のオプションパーツや、新たな脅威となったゾンビ:ノヴァスの広域探査レーダーなど数々の商品を発表。


 地面に突き刺すだけで展開し電磁防壁を構築するものや、空飛ぶバイクのフライトバイク(二輪ではないが……)、民間人でも簡単に操作できる小型重機:ディグスーツなど兵器開発を行っている他社の追従を許さない程の技術力の格差があった。もちろん、動力源は自社生成しているキューブである。


 他の企業は技術を解析しようと購入し分解解析を試みようとも成功しない。唯一分かったのが様々な製品の中核にあるブラックコアという中央演算装置のようなものが機巧甲冑由来の技術である事だ。


 良からぬことを企んだ国の上層部はGIN BEE社の社員の家族でも人質にしようとするも、その社員が自国の機巧甲冑のパイロットであり軽々と返り討ちにあったり、働いている従業員の殆んどがアンドロイドであった為失敗する。その後、命令を出した上層部の首がいつの間にか主要政府施設の門の上に飾られていた為にGIN BEE社への手出しを控えるように、と。一斉に警告が広がった。


「ディグスーツの売り上げが凄まじいな。自国の貨幣価値が下がりそうな勢いで買って行ってるぞ?」


「多分、自国の治安維持部隊でも作りたいんじゃない? 暴徒化した連中とか、犯罪対策用に。あと、GIN BEE社への襲撃用」


「自社を襲わせる為に売ってるんじゃねえぞ? でも、反逆防止措置を組み込んでいるのに買ってくれるならどうぞって感じだな」


「でもでもでも、あのディグスーツすっごい役に立っているよ? そこそこ大きな岩でも人間の動作で持ち上げれるし、そのオートバランサーの技術も凄い。ウチの会社は流通に、防衛に、労働力、――そしてエネルギーを握っているんだ。各製品の製造拠点を持たず、店舗はボロボロの物件をパパッと改修。儲かって儲かって仕方ないけど国には睨まれているけどね」


「ああ、そのオートバランサーの開発者は【赤城あおば】。俺の嫁さんで駆動系のシステム開発を行っている技術者だよ。それと、権力は握るつもりはないけどそろそろ小出しにしている技術を物にして欲しいけどねぇ……」


 今、会話をしているのは【日暮かがみ】所謂ボクッ子で俺が手を付けていた機巧甲冑のパイロットだ。都市に雇われる形でこの都市に在住していたが今回、目出度くヴァルキュリアス入りし、家族の仲間入りだ。身体強化も正式なものとして調整し。今は世界中に展開しているGIN BEE社の各国との折衝などを取り纏めいる。もちろん護衛はレールガンやオプティクスライフルを装備している機巧甲冑を小隊規模で派遣している。操縦はかがみのサポートAIの処理能力のランクを上げて対応している。


 だが、基本的には通信で国家の重要人物と会合を済ませている。食事会はイケメン男子を取りそろえる様々なトラップははなっから断っている。もし、彼女が害されるような事があればその国には消えてもらおう。


 正直年齢層が上の人間はみつことももか、そしてかおるこしかいなかったので、けいことなつこ、かがみがヴァルキュリアスに入って来ていくれて助かっている。


 ただ、けいこ、みつこ、ももかが模擬戦という名の近接格闘で毎日バチバチやられると夜遅くに俺へのしわ寄せがくるのでもう少しお淑やかになって欲しいものだ。


「あ~、今、えっちな事考えていたでしょ? そんなに僕としたいの?」


 夜の戦闘行動を考えているとそう会話するかがみ。ショートに眼鏡と知的な美しさを感じさせる雰囲気に。チロリと唇から覗いている舌がとても艶めかしい。出るとこは出ていないのだが、こう、雰囲気がエロいのだ。仕草というかなんというかちょこちょこ挑発して襲わせようと企んでいる。それでいて襲うと「しょうがないにゃあ~、さ――どうぞ?」と、喜んで受け入れてくれる。魔性の女といっても過言ではないな。そういえばかおるこもそういう所があったような……。


「はいはい、夜にな。――それにしてもようやくか? 国際連合軍――国連に所属している主要国の人口割合による戦力の供出。ゾンビとの生存圏の争いに世界が纏まるのが遅くないか?」


 今表示させている空間投影モニターには全世界同時中継でUNUnited Nations軍の創設が宣言された。各国の代表が映し出されており調印式が行われていた。もちろん、遠隔でデジタルデータ上に署名をしているので締まりがないがな。どこかの誰かがディグスーツというテロリストの連中が欲しがるような便利グッズを販売したからかな? 体制側にも販売しているし自分たちで対策して欲しいけど横流しとかも凄いだろうな。販売していないのにスラム化した地域や国家間の紛争地帯にディグスーツが稼働している信号が出ていたからな。


 あんまり、クソみたいな使い方をしているなら気付かれないように遠隔で爆破させておこう。何か言われれば正規ユーザーではないようですね、とでも言っておこう。


 安価でゾンビ:ノヴァスの広域レーダーを販売したおかげで情報がドンドン入ってきている。販売したデータを横取りできるのは製作者特権だよな?


「――これは……クソガッ!! こいつら機巧甲冑を乗っ取りやがったのか!? 自爆信号は――受け付けないか……あー、無機物有機物関係なしに取り込むならこの事も想定するべきだったか……作りを甘くし過ぎてセキュリティまで脆弱化させてしまったせいか。――人類……救わなきゃダメ? 絶対? 」


 UN軍設立の映像の隣にはノヴァスに取り込まれ肉と機巧の装甲が絡まり合い表面には少女が苦悶の表情を浮かべていた。腹部は縦に割け口のような醜悪な部位から触手が出て蠢いている。


「ジンベエくん……これ以上は……」


 映像内の少女を自身と置き換え心痛を感じているのだろう。あれは、生かされたまま張り付けにされている。まるで“見せしめ”の様じゃないか。


 機巧甲冑が敗北した都市はすでにゾンビ:ノヴァスの苗床と化していた。攻撃衛星へ目標地点への飽和攻撃の指示を出した。ノヴァスに取り込まれた彼女の周囲だけはできる限り避けるように指示を付け加えた。


「見てしまったからには、なぁ……ちょっと行って来る」


「はぁ~い。ジンベエくんのそういう効率的じゃないとこ――好きだな」


「そこは感情的と言えよ。効率だけで生きていたらそれはもう死んでいるのと変わらない」


 拠点を出るとすぐさまA.S.Sを展開。搭乗すると次元跳躍を開始した。


「ちょっと、助けに行くからもう少し待ってろよ」


 座標特定完了。出現場所は目標の上空――いくぞ。



 上空から見える都市は醜悪な肉塊が蠢いていた。まだ生きている機巧甲冑は……やはり、あの少女だけだな。AIと通信接続『今から救助する。一瞬、死ぬかもしれないが必ず再生させる――』と。パイロットは生存率を高めるために一人も漏れなく頭部にメモリーキューブが生成される。AIとの通信ができるという事はまだ頭部は無事のようだな……身体が侵食されても頭部さえ回収できれば彼女達は蘇生が可能なのだ。


 ――『どうか彼女を――お願いします』か。任せておけ。


 A.S.Sの様な大型の期待では彼女の頭部を回収するような繊細な作業はできない。コクピットを開閉し外へ体を投げだした。落下中に背後にある機体を次元保管庫に収納する。少女の期待は触手に掲げられ見せしめにされてており丁度狙いやすいな……貴様らの傲慢が足元を掬うと教えてやるよ。


 ドンドン小さな点であった彼女の姿が大きく瞳に映る。AIから知らされたのかチラリと上空を仰ぎ視線が絡み合う。


 ――安心しろ。迎えに来たから。


 伝わったのであろう、彼女は涙をこぼしながら微笑んだ。顔を下げうなじを見せつけてきた。――AI。痛覚をカットしろ。五秒後だ――ノヴァスに気取らせるな。


 身体を空気の抵抗に晒さないよう姿勢を調整。右腕は鋭い刀の様な状態になり刃先は首筋を狙う。


 落下していく。近づいて来る。四、三、二、一。今――ノヴァスが違和感に気付いた、ビクリと暴れ始めるも、もう遅いッ!! 俺の落下軌道は彼女のすぐ隣をすれ違い、すでに着地している。


 スゥッ――と彼女の首筋に斬り筋が浮かぶ。


 落下して来る彼女の頭部を掴み取ると抱き締め頬を撫でてあげる。


「また後でな? 今はゆっくり眠りなさい」


 見せしめにしていたモノを取られたのが悔しかったのか奇声を上げながら機巧甲冑を動かし始めた。俺の身体を叩き潰すには十分な質量の巨腕が振るい上げられ掌で叩き潰そうと迫って来た。


「――俺は今、機嫌がわりぃんだよ、クソ共がぁッ!!」


 ――縮退炉:第二封印解除


 左手で彼女の頭部を抱き締めているので右手を軽く“はらった”。ガキャァンと、金属音をたてて機巧甲冑の巨腕は弾き飛んだ。俺の右手は何かのエネルギーを纏い黒く変色していた。


 たった今弾き飛ばした機巧甲冑が硬直した瞬間を狙う。


 右腕をリロードするように引き絞り。鷲掴みにするような指の形で掌を開いた。俺の心臓部から抽出されるエネルギーがドンドン溜まっていくと周囲のノヴァスが一斉に止めようと殺到してきた。


「もう、遅せぇよ。消え失せろ塵屑共ッ――重力収束:縮退炉刀」


 サクッ。スナック菓子のように乗っ取られた機巧甲冑の装甲を貫いた。掌の先から伸びた黒刀は音を立てずに地平線まで伸びている。そして刺し込まれた装甲部から塵と化していく。もちろん、機巧甲冑の巻き添えで他のノヴァスも塵と消え失せて行く。


 手に黒刀を軽く握りしめると無造作に振るう。二度、三度。重さを感じさせない黒刀は大地を割り裂き、ノヴァスの群れは塵へと変える。だが、爆発音も鳴らず。ただただ、塵へと還るだけ。


 ゾンビ:ノヴァスが荒らし回っていた戦場とは思えない静けさが漂い始めている。重力収束した縮退炉刀が通過、接近するだけで物質が崩壊する。もし、ここで地表に黒刀を突き立て撹拌させただけで大崩壊が発生するだろう。


「縮退炉刀――解除。第二、第一封印。通常動作へ移行。……ふぅ。これは自身の心臓部ながら冷や汗を掻くな」 


 決して生身でする事じゃないと思う。


 ちょっと、身体が削れてるし。この子の頭部を守るのに一生懸命だったなんて言えないな。ノリで封印解除できるのは第一封印までと心に決めておこう。


 足元から出現させたA.S.Sに乗り込むと救出した彼女を処置を行う為に月面基地へ次元跳躍を行った。

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ゾンビが溢れる世界になりました~おっさんは存分に趣味を堪能します~ 世も末 @k2s200

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