第三十八話 俺たちの戦いは

 B級蟲 マダラサソリ


 体高は大体三メートル弱。先日見たヤマトカブトムシは四メートル以上あった。それと比べると小さめ。


 ハサミはエビ等のそれと違い、U字の両端をまっすぐ伸ばしたような形。


 そして最も特徴的なのが尻尾。そしてその先端の毒針。

 鋭く尖った針は制服もコンプレッションウェアも貫き、俺の体に毒を注入するだろう。


 蟲の毒は、虫だった頃と大きく異なっている。


 俺くらい適応深度が高いと、普通の毒なんか効かない。青酸カリをぺろぺろしても、フグを丸呑みしてもピンピンしているだろう。


 ただ、蟲の毒はそういうのじゃない。

 琥珀素を麻痺させ、上手く操れなくさせる。


 防蟲官が蟲と対抗できるだけの力を持つのは琥珀素のおかげだ。

 毒が体に回れば一般人と変わらない身体能力になってしまう。そうしたらもうただのエサだ。


 毒針自体も厄介。

 蟲にとっては『針』かもしれないが、俺たちとっては『槍』だ。

 刺されれば体に穴が空く。


 普段なら【自己治癒能力強化】や治癒薬ですぐに治せるが、毒があるとそうはいかない。

 まずは『解毒薬』を用いて毒を癒してから、治癒薬などを使用しなくてはいけない。


 そんなの蟲にとっては大きな隙だ。故に毒には気をつけなければならない。


 まあ毒があろうがなかろうが俺は一撃だって貰うわけにいかないのには変わりがないんだが。


 もし俺がちょっとでも苦戦したら監督役の人たちが助けに来てしまうだろう。

 そうしたら俺は『彼我の実力差を見極められない無能』と判断され、隊長になる前にもう少し経験を積むよう求められる。


 それは困る。早いとこ隊長になりたい。


 だから俺はB級蟲相手であっても余裕を持ち、鮮やかに勝利することで、お偉いさんに『ケンくんしゅごい!』と言わせる必要があるのだ。


 マダラサソリとはシミュレータで何度か戦ったことがある。勝つこと自体は可能だろう。

 しかし、時間が掛かり過ぎると監督役が助けに来てしまうかもしれない。


 無傷で素早く。いい感じの難易度だ。



 ■■■



 少し開けた場所。

 湿った土の地面。

 周りをでっかい木のでっかい根っこが囲み、スタジアムのようになっている。


 サソリをここにおびき寄せた。

 大体中央付近で対峙している。


 気をつけなければいけないのはハサミだ。


 これに捕まると身動きが取れなくなり、毒針を刺されるだろう。


 かと言って、サソリの側面が安全なわけではない。意外とヤツの尻尾は自在に動くのだ。


 俺の結論は、予備動作の察知しやすい正面でハサミに気をつけながら戦う、というものだ。


 戦闘開始。


 サソリはカサカサとこちらに駆け寄る。

 そのままハサミで俺を捕まえようとするので猫靴で板を作り避けて、サソリの正面上に静止。


 サソリは尻尾を俺に突き出す。


 ──そうすると思った!


 襲い来る尻尾を潜るようにして避け、サソリの頭部に乗る。

 頭上には伸びきったサソリの尻尾。


 構造上、こうなると一度尻尾を戻さなければもう一度繰り出すことはできない。


 バトルアックスを強化!

 上半身の各部位を【追加強化】!


 渾身の力で振り下ろした。

 傷口を広げるようにバトルアックスを動かす。


 尻尾が元の位置に戻っていた。


 一旦離れ、様子を伺う。


 ──虫の息だな。蟲だけに。


 こんな激うまな洒落すら出てくるほど。


 サソリの頭部に戻り、もう一度バトルアックスを振りかざす。

 するとサソリが再び毒針を突き刺そうとしてくる。

 ただ、遅いし力もこもっていない。


 バトルアックスの腹ですくい上げるように弾くとそのまま振り下ろす。


 手応えから琥珀素が抜けていくのを感じた。


 つまりは俺の勝利だ。


 鮮やかで素早い、いい勝ち方だった。


 さて、これで俺の任務は終わりか。一泊二日。


 C級蟲コクワガタにノコギリクワガタ。B級蟲マダラサソリ。計三体。


 ……念の為もう一体C級蟲を倒しておくか?


 結局二泊三日になった。





 ■■■




 防蟲隊埼玉基地 体育館


 埼玉基地の隊員が武官文官問わず全員集合している。


「さて、新しい小隊の紹介をする」


 壇上から日比谷司令の言葉が響く。


「隊長。浦和 賢太郎曹長」


 壇上に上がり、所定の位置で敬礼をする。


「副隊長。大井 文佳一曹」


 副隊長が壇上に上がり、所定の位置で敬礼をする。


「平塚 理亜一曹」


 理亜が壇上に上がり、所定の位置で敬礼をする。


「氷川 美咲二曹」


 美咲が壇上に上がり、所定の位置で敬礼をする。


「金子 流華三曹」


 流華が壇上に上がり、所定の位置で敬礼をする。


「福原 梅子三曹」


 梅子が壇上に上がり、所定の位置で敬礼をする。


「以上六名は今日から埼玉基地 埼玉大隊 一四ヒトヨン小隊だ」


 日比谷司令が拍手を始める。それに呼応して成宮副司令、姫隊長などが拍手をし、次第に全員が拍手をしだす。


 万雷の拍手を浴びながら俺は過去を振り返っていた。


 防蟲官に憧れた幼少期。防蟲官になれないと知ったとき。それでも鍛え続けた日々。土浦の蟲害。防蟲官になれた時。隊員たちとの顔合わせ。隊員たちとの交流。


 これは終わりじゃない。

 今日から改めて始まる。


 俺が最強の隊長になるまでの話が。


 そう。俺たちの戦いはこれからだ!




 ■第一章 完




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蟲の塔 〜最強の大隊でいずれ最強の隊長になる男の話〜 半熟地蔵 @hannjyukujizou

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