第三十七話 蟲の素材
蟲の領域に埼玉大隊が作った拠点。人の領域の外の拠点ということで『領域外拠点』と呼ばれるそれを見上げる。
ちょっと大きめの一軒家といった見た目の建物は、随所に蟲の素材が使われていることで防蟲施設だと判別できる。
広さは、防蟲官小隊二個分がさして不自由なく過ごせるほど。これは領域外拠点としては小規模のもので、大きいのだと一個中隊入れるものもある。
俺は今日からしばらくここを根城とし、防衛大卒業のためのミッションを遂行する。
日比谷司令に提示されたのは『蟲の領域で四泊五日のサバイバル』。
実際は『サバイバル』って言うのは言葉のあやだったらしく、領域外拠点は使ってもいいみたいだ。
今回の試験をまとめると『蟲の領域で三体以上のC級蟲を倒し、蟲の素材を持って帰ること』。
早めに終われば四泊もしなくていいらしい。
これ自体はよくある任務だ。実際俺も姫隊長に連れられて似たようなことをした。
ただ、当然一人でやることはまず無い。こういった任務は少なくとも一個小隊以上で行う。
だからこそ飛び級に足るかを示す試験となりうる。
飛び級するには飛び抜けた実力が必要だ。
本来、一個小隊が必要な任務を一人でこなせるような防蟲官ならば、さっさと偉くして沢山蟲を倒してもらおう、とお偉いさんに思わせればいい。
俺にとっては大して難しくも無い任務だ。
早いとこ終わらせたいが、初日は移動日と決められている。
蟲を倒しに行くのは明日からだ。
今日は一人寂しく、この広い拠点で体を休めよう。
一人を意識するとやはり心細くなってくる。
……幽霊が出てきたら困るので、武器は傍に置いておこう。
■■■
準備万端。いつでも蟲の領域に繰り出せる。
まずは監督役の小隊に連絡を送り、そろそろ出発すると告げる。
防蟲官一人を危険な蟲の領域に送り出すって言うのは、広まれば非難されかねない。
そのため、あくまで試験ですよ、安全には配慮していますよ、と示す監督役がつくことになった。
監督役は一個小隊で、俺が蟲の領域を歩く際こっそりついてきて、怪我をしそうになったら助ける役目。
ちなみに彼らは俺と面識の無い、埼玉大隊の人たちだ。手間をかけさせてしまって申し訳ない。
さて、そろそろ出発。
森林ゾーンのいい感じにC級蟲が居そうなところに輸送車で行く。
輸送車から降り、武器を片手に周囲の気配を探る。
後ろから同じく輸送車でついてきた監督役の気配は無視して……ここらで一番強そうな気配はどこだ?
それっぽい気配を見つけそこへ向かう。
E級蟲 クロヤマアリ
大体俺の腰くらいの体高。その名の通り黒い蟻だ。
一度に複数体現れることの多い蟲で、今回も五体一緒にいる。
──さっさと倒して次を探そう。
ちなみに俺の持ってきた武器はバトルアックス。シミュレータで使っていた奴と同じ感覚で使える物を持ってきた。
特に描写することも無く、倒し終わる。
面倒だが、一応素材は持っていくか。
クロヤマアリの素材は結構人気だ。E級蟲のでも持ち帰る価値はある。
遠隔で輸送車を呼び、積んである機械で蟲の素材を回収。
また、ポイントを変えてC級蟲を探すか。
■■■
そんなんを何度か続けて、やっと見つけたC級蟲。
C級蟲 コクワガタ
コクワガタとか言う名前だが、そんなに小さくない。体高は俺の胸よりちょっと上くらい。
ズバッと頭部を落とし、素材を回収する。
……そもそも蟲の素材とは何か。
目の前のコクワガタの死骸を見る。
これは蟲の死骸であって蟲の素材では無い。
蟲は死ぬと琥珀素を放出する。
すると生きている内は硬く、蟲具でなければ傷つけられなかった外骨格が普通の工具でも加工できる程度になる。もちろん蟲の等級にもよるが。
ただ、一部だけ。
生前の硬さを維持している部位がある。それが蟲の素材。
蟲の素材になる部位は大体決まっていて、クワガタなら大顎、カマキリなら鎌、と言った具合にその蟲の特徴的なところであることが多い。
たまに翅とか脚とかが蟲の素材な時もある。使い道が無いわけじゃないんだが、まあハズレだな。
輸送車が到着した。
輸送車に乗せてある機材は、蟲の素材以外の蟲の死骸を琥珀素に変換し、蟲の素材だけを残すことが出来るものだ。
今回はどこが残るだろうか。
変換には時間が掛かる。ちょっと退屈。
■■■
次に会ったC級蟲は……
C級蟲 ノコギリクワガタ
コクワガタよりも一回りは大きい。
長い大顎の内側にはノコギリのような突起がある。挟まれたら痛そう。サイズ的に俺を挟むことは出来ないだろうが。
スパッと倒し、素材を輸送車にのせる。
ちなみにさっきのコクワガタもこのノコギリクワガタも蟲の素材として大顎が残った。
はーつれぇわ。戦闘が一瞬すぎてつれぇわ。
いいのかなって。こんな簡単に隊長になっていいのかなって。
もっと苦難とか試練とかあった方が隊員たちに語れていいんじゃない?
■■■
B級蟲 マダラサソリ
いいのがいるじゃないか。
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