第三十六話 候補生終了!
毎日が充実しているからか、月日の流れが早く感じる。
もう入隊から三ヶ月経った。
それはつまり、候補生からの卒業を意味する。
「浦和一曹、氷川二曹。君たちの尽力に期待する」
司令室にて宣誓を行った。
やっと俺にも正式な階級がついたぞ。俺と美咲が入隊したのは一番最後だったので、これで埼玉基地の防蟲官全員にちゃんと階級がついたことになる。
ちなみに美咲はいつの間にか高校を飛び級で卒業していたらしい。
今は防衛大目指して勉強中。
「ああ、浦和くん。ちょっと君は残ってくれ」
退室しようとしたら声を掛けられた。
心配そうにこちらを見る美咲に『心配いらない』とジェスチャーで伝え、退室させた。
応接セットに案内され、ソファに座る。
懐かしいな、これ。
「君の評価がね、凄い高いんだよ。偉いね」
褒められた。嬉しい。
早速本題から話しているように感じる。
「この分だと、長くてもあと半年で防衛大を卒業出来るだろうね」
入隊時点だと、長くても一年掛かると言われていた。大体三ヶ月の短縮。
──半年か。
割と長いな。いや、まあ四年が九ヶ月になるんだから凄いんだろうが。
「でもちょっと長いだろう?」
俺の内心を見透かしたように薄く笑う日比谷司令。
「だから防衛大と幕僚監部に話をつけて、ちょっとした試験に合格出来たらすぐに卒業できるようにしました!」
おどけて言う日比谷司令に俺はちょっとビビる。
幕僚監部。この場合は防蟲隊幕僚監部だろうが、ここは防蟲隊の一番偉いところだ。
そこに話をつけるって……。
「どうかな。試験の内容だけでも聞いてみない?」
俺としてもさっさと小隊長になりたい。渡りに船……と言うにはちょっと怪しいが。
まあ、受ける受けないも聞かなければ判断できない。
「うん。浦和くんには蟲の領域で四泊五日のサバイバルをしてもらおうと思うんだ」
──はい……?
「一人で!」
おれにしねともうすか。
■■■
蟲の領域。かつては──大蟲災の前は東都みたいに人が住んでいたはずだが、今はもうその痕跡すら残っていない。
アスファルトの道路もコンクリートの建物も琥珀素を持つ植物に分解されて、栄養となってしまった。
蟲の領域は大雑把に草原ゾーンと森林ゾーンに分けられる。
人の領域の近くは草原ゾーンで、蟲の領域の奥に行くと森林ゾーンになっている。
そして、蟲の領域の植物にはある特徴がある。
──でっかいこと。
もうほんとにでかい。草原とか言ってるけど、高さ二メートルの草がボーボーだ。普通には歩けない。
なのでこれを使う。
『多脚型装甲ステルス輸送車』。長いので大体は輸送車と呼ばれる。
蟲の素材を使った黒光りする直方体に、ダンゴムシみたいな脚がついてる感じの見た目。
この脚は猫靴みたいに足場を作ることが出来る。それで、長い草の上を移動するのだ。
中は、人なら二十人は余裕を持って座れる程度の広さ。
人を輸送する時と、物を輸送する時で内装を変えられる。
今は俺一人なので体感的にはもっと広く感じるな。
この輸送車も完全自動運転で、目的地を入力したら俺にやることは無い。
『蟲除け』機能もついているので、蟲と遭遇してしまうことも無い。
意味もなく輸送車の中央で体育座りをした。
寂しさが押し寄せてきた。
そう。俺は日比谷司令の提案を受けたのだ。
■■■
防蟲隊の仕事とは?
そこらの人に聞けば、国民を蟲から守ること、とか蟲の塔から琥珀石を持ってくること、とか答えるだろう。
間違いでは無い。その通りだ。だけど、それだけじゃない。
忘れては行けない目的。
防蟲隊設立当初からの悲願。
『蟲から人の領域を奪い返すこと』。
各地方基地は、蟲害の対処をしながら、じわじわと人の領域を広げようとしている。
ここで少し異質なのが埼玉基地。県内のどこも蟲の領域と接していないし、そのため蟲害も起こらない。
それなのに『最強の大隊』と呼ばれている。
そう呼ばれるようになったのは、日比谷司令が司令になってからだが、それ以前でもエリートの集まる基地ではあった。
何故なのか。
それは当然別の任務が与えられているから。蟲から人の領域を奪還するための過酷な任務が。
それこそが蟲の領域の奥に殴り込み、橋頭堡を作り出すこと。
付近の蟲の領域には埼玉大隊が作った拠点が点在している。
俺はそのうちの一つを目指していた。
■■■
『蟲の領域の植物』
蟲の領域と人の領域の境界は草原になっているが、人の領域側の植物は普通の大きさ。
これでどこまでが人の領域かを判断している。
幼き日の主人公は『蟲の領域の植物が大きくなるんなら、屋久島とかヤバいんじゃね』とワクワクしていたが、植物が大きくなるのは蟲が生活しやすいように変化したためなので、元から大きい木はそのままだと知り、少し落ち込んだ。
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