最終話 幼馴染令嬢はヤンデレ婚約者に溺愛されている

 転げまわる王子が落ち着くのを待ってから王子を連れて公爵令嬢が馬車を出て席を外してくれた。


 そのすきにリリィが私の馬車から着替えを持って来てくれる。いや、アイテムボックスから出せば着替えくらいダース単位であるけど、何も持ってなかったはずなのにどこからか服を出して着てるなんておかしいから馬車に取りに行ってもらった。


 よく見るとこの赤い馬車はそこかしこに王家の紋章(マンガのタイトルじゃないよ)があって王族のものと分かるのだが、さっきは動転していたのか全く気付かなかった。


「私の鎧も返り血や泥で汚れてたからエミリア様から着替えるように言われて、でもスーのそばを離れたくなかったからエミリア様が着替えを一着貸してくれたの」


 なるほど、それで12歳の服を着せられてるからそんなにパツンパツンなのか。もっとも12歳とはいえ、エミリア様は私と比べるとだいぶ胸があるからリリィも着れたんだろうな。


 ツルペタの私の服じゃそもそも入りもしなかっただろうな。って11歳だから! まだ全然諦めてないから。


 リリィが持って来てくれた自分の服を見ながらそんなことを考える。パンツをはいて肌着を着るが、ツルペタの私にはまだブラは必要ないようだ。


 あ、この世界はゲームだからちゃんとブラもパンツも現代基準だよ。技術的にどうなっているのだろうと思わないこともないけど。いそいそと服を着替える。


「結局スーが倒れてたのもあるし、野盗たちを全員縛り上げて逃げられないようにしてから捕まえているから移動するわけにもいかなくってあの場所からほとんど動けてないのよね」


 リリィが教えてくれる。やっぱり主従としてよりリリィとは友達として話せるほうが嬉しいな。


「王都に救援を求めて騎士が馬を走らせているんだったら夕刻には迎えが来て、遅くなるかもしれないけど今日中には帰れそうね。リリィのおかげで助かったわ。いくら私のドレスが特別製って言っても魔力切れの状態だったらオオカミにでも噛みつかれてた終わりだし」


 よいしょっと、やっと着替え終わって少し人心地ついたわ。

 簡易なワンピースドレスだけどこの格好なら王子様相手でも失礼にならないし。そんなことを思い出すさっきの自分の失態を思い出してまた顔が赤くなってしまう。


 コンコンッ


 再度、馬車の扉がノックされる。どうぞと返すとドアが開いて公爵令嬢がこちらを覗き込む。


「今度こそ大丈夫のようですわね。それじゃあ失礼いたしますわ」


 公爵令嬢が馬車に乗り込んでくる。デバガメ王子は外で赤い顔をしてそっぽを向いている。向こうも思い出してるんじゃないでしょうね。


 記憶を消す魔術は闇魔術の専売特許だったかしら。つくづく自分が光魔術しか使えないことが悔やまれるわ。


「ああ、いいのよ。そのまま横になっていらして。改めて名乗らせて貰うわ。わたくしはグラエム公爵家の長女でエミリアと申します。この度は野盗に襲われているところを助けていただいて本当に心から感謝いたしますわ。

 王子ともどもここで野党に攫われていてもおかしくなかったですから」


「あ、えっと……わたくしはココン男爵家の長女でスザンヌと申します。たまたま領地から王都への帰還中に殿下と公爵令嬢が襲われているところに遭遇いたしましたので私の騎士であるこちらのリリーナに助力をして貰いました」


 私が戦闘に参加したかどうか見ていない可能性もあるからリリーナだけが戦闘に参加したことに出来ないものだろうか……ここでこの「ペンタグラムの乙女」の悪役令嬢であるエミリア様とお知り合いになれるのは嬉しいけどモブの私がこれだけ強いとバレたらまずい気がする。


 今いるここはもう王都に近い街道でジャスティン殿下とエミリア公爵令嬢は婚約者同士の半分公務、半分デートのお出かけの帰りにこの森を抜ける場所で野盗に襲われたそうだ。


 ん、このイベントって本当は魔法学校入学後にスザンヌが野盗に攫われて寝取られるイベントに酷似しているような……イベントの発生フラグをどこかで立てちゃったのかな?


 鉄鉱石と鉄工所が怪しいかも。これは要検証だわ。


「とにかく、みんな無事でよかったです。私の騎士が皆さんのお役に立てて本当に良かった」


 私がニコニコしながら全力で誤魔化す。って言うか誤魔化されて~!

 それまで後ろで腕を組んで黙っていた、第一王子のジャスティン殿下が不思議そうに声をかけてくる。


「なにを言っている? そっちの女騎士と一緒に紅いドレスで次々に野盗を薙ぎ倒していたのはお前だろう? それにいつの間にドレスを着替えた? 連れてこられた時にはあおいドレスになっていたが」


「うう、陛下……まだ本調子ではありません。それに殿方に裸を見られて恥ずかしいので殿下の顔を見ることが出来ません……あまり質問をしないようお願いできますか」


 病弱な振り? をして、あとは裸を見られたことを逆に利用してこの場を切り抜けてやる。転生してる海千山千の大人の話術を舐めるな。


「ああ、そのことか。すまなかったな。俺の婚約者はこちらのエミリアだが、スザンヌが望むなら責任を取って側室として迎えることを約束しよう」


 こらっ! 耳まで赤くしながら真っ赤な顔してなんてことを言いやがるこのムッツリエロおませ王子! 私の婚約者はアルベール様ただ一人だっての!


「ありがたいお言葉ですが、私にはすでに婚約者がおります。それにいくら何でも男爵家の娘では王家との婚姻の前例がありませんので……」


「そうか……」


 ショックを受けたような不機嫌そうな顔をして馬車から出ていく王子。ああ、なんか超面倒なフラグが立っちゃってるよ。泣きそうなんだけど。


 でも、エミリア公爵令嬢とはしっかりとお友達になりました。これで魔法学園入学前に会いたかった二人のうちの悪役令嬢と仲良くなれたよ。あとは主人公ヒロインを探さなくっちゃね。





 夜遅くにようやくココン家の王都邸に帰ってくると、すぐさまアルベール様が訪ねて来られた。


「野党の襲撃にあっている馬車を見つけて事件に巻き込まれたんだって? 怪我はないかい? 大丈夫? スザンヌ」


 すごく真剣な表情に心配する声。ああ、幸せ。この声が聴けるならわざと心配かけて優しい声をかけて欲しいって思っちゃう(しないけど)。


「大丈夫です、アルベール様。私もリリィも怪我一つしませんでしたし、ちょっと魔力が枯渇して頭が痛いのと王子に裸を見られたくら……あっ、」


 話している途中からアルベール様の瞳のハイライトが消えた。そうなんだよね。アルベール様ってスザンヌが寝取られた後で闇落ちしてやさぐれキャラになっちゃうことからも分かるようにちょっと入ってるんだよ。


「フフフ、スザンヌ……誰に何を見られたって? もう一度言ってくれるかな? もしも僕が聞こえた言葉が事実ならそいつの目を潰してくる(物理)から」


「もう目を潰しました(光魔法)から大丈夫です! 本当に、大丈夫ですから何もしないで~」


 私が想像していた以上にアルベール様からスザンヌへの愛は重たいみたい。


「もう僕の目が届かないところに外出するのを禁止にするか……それとも首輪をつけて常にリードで……いや、裸にすれば人に見られるのがイヤで出かけることもなくかも」


 ブツブツ言っているアルベール様がヤバい。でもそんなヤバい言葉をつぶやくアルベール様の声もすごくいいし、アルベール様に愛されてるって実感が最高に幸せだ。


 何度だって言うけど、これは一人の少女が婚約者と幸せになるために絶望的な状況を覆す物語。


 絶対幸せになってやるんだから!

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「ゲーム内で寝取られてしまう不遇幼馴染キャラに転生したが転生先のスマホ乙女ゲームがクソゲーだったのでモテすぎて推しと恋活できない」最終話になります。


う~ん、完全に打ち切りエンドって感じで申し訳ないですが、執筆自体は結構楽しく書けました。

 展開的にもやってみたいことがありましたが、1話公開後にいったん時間をおいて書き始めたために予想以上に読んで貰えない物語になっちゃいましたね。


 楽しみにして下さった方には申し訳ないですが、引き続き続いている「幼馴染を……」やこれから生み出されるみどりのの新作をまた応援いただけると幸いです。


 つたない作品に☆71個、1000PV、♡の応援53個もいただいて本当にありがとうございます。


 また次回作でお会いしましょう。

 全部で2万4千字の短い物語でしたが楽しんでいただけたら、☆☆☆やコメントで応援いただけると嬉しく思います。

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ゲーム内で寝取られてしまう不遇幼馴染キャラに転生したが転生先のスマホ乙女ゲームがクソゲーだったのでモテすぎて推しと恋活できない みどりの @badtasetedog

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