第7話 幼馴染令嬢は気絶してあっさり身バレする

「スザンヌ様、スザンヌ様……気付かれたんですね」


 ギュゥッ


 目の前にはリリィの泣き顔。泣いてても可愛いねこの子は。


 イテテテテッ……魔力の保有量が膨大になってから久しぶりの魔力切れの頭痛。

 この世界はゲームだから魔力が切れたら(MP=0で)死ぬなんてことはない。気を失っちゃうだけだ。といってもずいぶん長いこと魔力切れの気絶なんてしてないから久しぶりにこの頭痛を味わう。


「山火事は?」


「もう、そんな心配しなくていいんですよ。スザンヌ様の水魔法で炎は全部消えましたから。サラマンダーも消えちゃいました」


 リリィが私の手をギュって握りながら教えてくれる。

 ん、私の手もリリィの手もガントレットも鎧もついてない? 素肌だ。


 それどころかリリィは私が見たこともない上質なドレスを着ている。ちょっとぱっつんぱっつんでお胸が成長期のリリィには丈があってないみたいだけど。


 そういえばここは? と見回すとココン家の馬車とは違うクッションのきいたベルベットみたいな赤い生地の馬車の長椅子の上にシーツをかけられて寝かされているらしい。

 どうやらあの時見た赤い馬車の中のようだ。内装もやたら赤色にこだわってるし。金のふち飾りで装飾してあったりする。


「あの後、皆さんを誘導した後、サラマンダーを追おうと振り返ると丁度大量の水が空から降ってくるところでした。

 サラマンダーが水に没して消えたのを見届けるとサラマンダーが燃やした森を抜けるようにして森に分け入しました。すると広けた場所があってそこにびしょ濡れになったスザンヌ様が倒れてて……とにかく背負って街道まで連れ出しましたが全く目を覚ます気配がなくて」


 そうだろうなぁ……私の着ていた紺碧のドレスアズール・ドレスは常に魔力を消費し続けるから、放置して目が覚めるはずがないし。考えてみると危ない装備だな。

 あぶないドレス……露出度はないけど。


「それでこちらの馬車に乗っておられた方がお嬢様を休ませる場所を提供してくださるということで濡れたドレスを脱がせて寝させて貰って、先ほど目覚められたところになります」


 そっか、心配かけたんだなぁ……ゴメンね、リリィ。


「そう、この馬車の護衛ももう一つの馬車の護衛も死者ゼロなのね。

 よくやったわ、リリーナ。いいわよ、騎士の仕事はもう終わり、私のリリィに戻って」


 うわぁぁぁぁっ


 リリィが私に抱きつくようにして泣き出す。今まで私の騎士として私のめいを守り私のことを守り抜くために気を張っていたのだろう。


 いくら剣聖の孫で剣の腕がたつといってもまだ命のやり取りもほとんどしたことのない初陣同然のリリィにずいぶんと大変な任務を与えてしまったものだ。


「ありがとうね。リリィ」


 私にしがみつくようにして泣き続けるリリィの頭を撫でてあげる。


 コンコンッ


 馬車の入り口がノックされる。


 もちろんリリィが確認済みなのだから安全な相手なのだろうけど……装備のない私は無力なのでいざという時にドレスをアイテムボックスから取り出せるよう、光魔法を準備しておこう。


「どうぞ。意識を取り戻しましたわ」


 11歳と言っても貴族令嬢。ちゃんと相手を確かめて相手の爵位に合った対応をしないと……


 ガチャッ

 馬車の扉が開いて入ってきたのは私より少し年上かなっていう赤髪の少年と茶色い髪の少女。あ、もちろんスザンヌ基準ね。合計40歳オーバーの私より年上の少年少女なんていないから。


「泣き声が聞こえたから心配して覗かせて貰ったんだが意識が戻ったんだね。良かったよ」


「ええ、安心しましたわ。私と殿下を救ってくださったココン男爵家の御令嬢に何かあったとなっては王家と公爵家は何と謝ればいいのかと……本当にご無事でよかった」


「え゛っ!? ええーーーーーッ! ジャ、ジャスティン殿下にエミリア公爵令嬢!?

 あっ!」


 不敬である。名乗られる前に名前を呼ぶなんて貴族令嬢にあるまじき失礼をぶちかました。

 大慌てで立ち上がって貴族の礼をとろうとする。


 ズルルルルっ


 へ!? 私にかけられていたシーツにはリリィが縋り付いていた。だから私が馬車の長いすから立ち上がるとシーツがずり落ちるのは仕方ないんだけど。


 なんで私すっぽんぽんなの!? ああ、濡れたから脱がしたって……あ……えっ!


「キャァァァァァァァァッ! 光よライト!」


 見られた。11歳とはいえ今12歳のはずの男の子に裸を見られちゃった。

 慌てて光魔法で目つぶしをぶちかましてしまう。


「うわぁぁぁァッ! 目がッ! 目がぁぁッ!」


 王子が私の光魔法の目つぶしを受けて馬車の床を転げまわっている。あはは、バルスかな?


「殿下!? 殿下ぁぁ」


 公爵令嬢も取り乱す。

 馬車の中は一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図になってしまった。どうしてこうなったぁぁぁ!?


 そして、まだアルベール様にも見せたことのない私の乙女の柔肌を王子に見られた。

 スザンヌの裸は自分の裸じゃないから平気とかいってたおばさんがどこかにいた気がしたけど、無理。

 11年生きてきたスザンヌの羞恥心が今はち切れんばかりになっちゃってるよ。


 なんなら泣きたいよ。なんで一番好きな人より先に他の男に自分の裸を見せなきゃいけないの、それもこんなラッキースケベみたいな流れで。


 しかも、私の馬車の家紋とリリーナの証言で完全に身バレしちゃってるし。

 不敬どころか、王子に目つぶしかましちゃったよ。

 お家取り潰しとかないよね?


 ヤバい。15歳で魔法学園に入って寝取られるどころか11歳にして夜逃げ案件まっしぐらだよ。

 -----------------------------------------------------------------

 あっという間に攻略対象の王子と悪役令嬢役の公爵令嬢に身バレしちゃった(笑)

 これからスザンヌはどうなるの? って引きなんですけど次回で最終回です。


 力不足で想像以上に読者に届かない物語になってしまったのでプロローグの続きの第一章で物語を閉じたいと思います。

 楽しみにして下さった方には申し訳ないですが、引き続き続いている「幼馴染を……」やこれから生み出されるみどりのの新作をまた応援いただけると幸いです。


 次回最終話、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る