第6話 幼馴染令嬢は完全武装で無双する
人生初名乗りが失敗に終わったのは残念だが、考えてみると名乗って得をすることは何もない。身バレして損する可能性が上がるだけだ。
例えば魔法少女を名乗るってこの世界だと魔法を使える女の子は結構いるわけだけどもうすでに貴族だけに絞られるわけよね。
この王都のすぐそばの街道にいるんだから今王都にいるか、王都にむけて移動中の貴族に絞れて、その上女性ってなるとって絞り込んでいくと身バレの危険が高まっちゃうから。
この世界にL様(デスノートのね)みたいな名探偵がいるかどうか分からないけど気を付けるに越したことはないもんね。
ということで名乗りに失敗した私だが、気持ちを切り替えて戦闘に参加する。
ドカッ バキッ
正直真紅のドレスの防御力があればこのレベルの野盗の攻撃なんてかわす必要もないくらい。光の屈折で身長を伸ばしてるから頭に攻撃して外す野盗までいる始末。
ブンッ
回し蹴りを放つと蹴られた男が吹っ飛んでいく。私の背を守るようにリリィが背中合わせで剣を構えてけん制してる。
二人で背中を合わせたままダンスを踊るように次々に野盗を倒していく。リリィ強い!
この子は私と違って能力値の底上げがほとんどない防御力重視の鎧を身に着けているだけなのに私と同じレベルで動いている。
魔法も使えないけど剣を使うことにかけては一流の職業である騎士。
リリィは多分15歳ですでに騎士として超一流の技量を身につけている。先代剣聖であるロベルトの孫娘であることは伊達じゃない。
「くそっ、こいつらつえぇ……おい、使わずにとっておいて後で売っぱらっちまおうと思っていたが、いざという時に使えって言われてたオーブを使え。サラマンダーのオーブだ」
サラマンダーのオーブ!? そんなものを持っているの?
召喚獣を呼び出せるマジックアイテム。サラマンダーは下級の召喚精霊だけど物理攻撃無効。
リリィのミスリルソードなら当たればどうにかなるけど炎のブレスを遠距離から吐かれ続けたら勝ち目がない。
「おらっ! サラマンダーこいつらを焼き尽くせ」
パリィィンッ!
澄んだ音がいて地面にたたきつけられた赤いオーブから炎の竜のような姿が立ち上がる。実体のない炎の塊……炎の精霊サラマンダーだ。
とりあえず光魔法を叩きこんでみるけどサラマンダーの中心で光がはじけただけでノーダメージ。光の精霊であるウィル・オー・ウィスプでも召喚できればダメージも与えられるんだろうけど11歳の私には召喚獣なんていないし。
ゴオォォォォオォオッォォッ!
サラマンダーが炎のブレスを吹く。とっさにリリィと2人左右に飛びのくように別れて避ける。
高火力で一瞬で地面に生えていた草が炭化して地面も黒く変色している。地面に落ちている石がちょっとガラス化しちゃうような高火力。
私のドレスなら魔力を通せば数秒耐えられるかもしれないけど、野盗と戦っていた赤と青の馬車の護衛の騎士たちじゃ一瞬で黒焦げだろう。
「リリィ、サラマンダーは私が引き付けます。護衛の騎士たちと馬車の避難を!」
そう叫ぶとサラマンダーを挑発しながら王都側の倒木に向かって走る。
助走をつけてジャンプ!
「令嬢キーーーーーック!」
ドゴーーーーンッ
道を塞いでいた大木を飛び蹴りの要領で吹っ飛ばす。
「王都に向けて逃げて!」
前後を倒木で塞がれていたので逃げるとしたら私が解放した王都側しかない。
これで後は私がこの場にサラマンダーを引き付けて……ってマイティ・フォームでいられるのもあと10分くらいか。今まで感じたことがないほどの魔力の枯渇感がある。
あと10分でサラマンダーから全員逃げ切れるか? ちょっと無理っぽいなぁ。
私が挑発しながら逆方向か森に逃げるしかないけどサラマンダーの火で山火事になったら大惨事だけどどうしたものか……
いや、考えてる場合じゃない。街道を戻って逃げようにもそっちにはココン領から乗ってきた私の家の馬車と護衛の騎士3人がいる。
あの3人は倒木が邪魔でこっちに来ていないけど守らなくてはならない我が家の大切な家臣だ。
ふぅぅぅ……
一息すって森の中に走り込む。一瞬サラマンダーの視線から姿を隠したところで叫ぶ。
「超変身! アイテムボックス! “
森の中で誰も見てないのでたぶん一瞬全裸になったけど気にしない。どうせ私のペッタンコなんて見たって誰も興味ないし、変身中に光らせてわざわざサラマンダーに位置を知らせるほど馬鹿じゃない。
ゴオォォォォオォオッォォッ! バキバキバキバキッ!
サラマンダーが手あたり次第森に火を放っているのが分かる。木が一瞬で消し炭になりがら倒れる音。
今の姿は私とリリィがダンジョンで見つけた
このドレスの特性は敏捷性のアップだ。ゲームのデータ通りなら筋力+50、敏捷+650、攻撃力+50、防御力+50 のはず。
多分100mなら2~3秒で走り抜けることが出来るし、ジャンプ力はざっくりで垂直に30mは飛べるだろう。
サラマンダーに自分の位置を知らせるためにわざと少しずつ離れた場所に光の球を発生させて森の奥に引き付ける。
すでに街道から数十mの森は業火に包まれている。
あと5分! 地味にきついなこれ。
サラマンダーを森の開けたところに連れ出した。
「ふぅ……決着を付けましょう、サラマンダー」
サラマンダーの顔? に目はないがサラマンダーと正面から向き合う。
魔力をドレスに流し込む。多分これで使い切る。ザリッ……踏みしめたアダマンタイト・ブーツの下で地面が音を立てる。
サラマンダーが炎を吹く……その瞬間私の姿はそこにはない。サラマンダーのさらに上空。
一瞬でジャンプしてサラマンダーの上をとった。
「アイテムボックス! “レイメール湖の水”!」
そう叫ぶとアイテムボックスから私がアイテムボックスに入れておいた、とある山岳の直径100mはある湖の水を全て開放する。
およそ30万トンの水がサラマンダーに流れ落ちるように襲い掛かる。
ドドドドドドドドッジュゥウゥゥゥ!
中空からとうとうと大量の水が大瀑布のように流れ落ちづつけ水の蒸発する音がいつまでも続く。この世界とのつながりを失いサラマンダーの姿がこの世界から消える。
水の中に炎の精霊は存在できないから……
ザッパァーーーン!
そのまま森の中を地面を打った大量の水が流れて木々を押し倒していく。
スタッ……開けた場所を選んでおいて良かったかな……ここならリリィに見つけて貰えるかもなんて思いながら。
バシャッ
まるで洪水で押し倒されて爆心地のようになった地面に着地した私はそのまま意識を手放した。
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明日も更新いたします。
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