第5話 幼馴染令嬢は自分の騎士と武装する
二台の馬車は一緒に走っていたのかあまり離れていない。が、野盗の群れはそれぞれの馬車を取り囲んで人っ子一人逃げ出せないようにしている。
一台は青を基調とした高級そうな馬車、もう一台は赤を基調としたこれまた高級そうな馬車だ。
襲われているのが貴族なのは間違いないだろうね。
森の間を通る街道。その街道にぶっとい木が倒れて馬車の行く手を塞いでしまっている。
馬車の周りにいる護衛の騎士たちは初手で馬から落とされでもしたのか、徒歩で一人につき数人の男達を相手にさせられて身動きが取れないようだ。
味方10人に対して敵は40人ぐらいいるし、野盗だとしたら相当大きな集団だ。
このままでは馬車の中にいる人間が危ない。貴族なら本人に戦える能力があればいいんだけど。
「いくよ、リリィ。誰だ分からないけどこのまま襲われている人たちを見殺しにすることはできない」
うち馬車を護衛しているの3人の騎士は正直大した実力の持ち主じゃない。ココン家の騎士3人が戦線に加わったところで怪我人が増えるだけだ。
白いブラウスを着て、青いスカートをはいたリリィが馬車の中で私の前で片膝をついて臣下の礼をするように頭を下げる。
「我が騎士 リリーナ・ガルトフィールドに命ずる。汝の力を持って目の前の命を救いなさい。(アイテムボックス!ボソッ) “ナイト・オブ・シルバー”!」
馬車の中が一瞬まばゆい光で包まれ、次の瞬間には膝をついたまま白銀の鎧に身を包んだ“
ちなみにアイテムボックスは口の中で小声でつぶやくのがミソだ。
アイテムボックスからリリーナにミスリルソードを手渡しながら伝える。
「我が与えし剣を持て目の前の敵を撃ち倒し、我らが同胞の命を守れ」
私の騎士であるリリーナがその金色の髪をなびかせながら馬車から飛び出す。
「お任せくださいスザンヌ様。我が命に代えても主の命を叶えてまいります」
うん、ノリノリだ! 私とリリィはこういうのを待っていた。リリィに与えた騎士の鎧とミスリルの剣はダンジョンで二人で見つけた二人だけの宝物だ。
私のゲーム知識で「ペンタグラムの乙女」のサ終までの1年間に公開されたダンジョンのどこに何があるかは全て頭に入っている。
条件付きダンジョンやボス討伐しなくては取れない宝箱以外で私とリリィが組めば得られない宝箱などないのだ。
それじゃあ私も!
「
馬車の中が再びまばゆい光に包まれる。あ、これは私の魔法。光の魔法で一瞬眩しくて見えないほどの光を魔法で作り出す。
誰にも見られていないけどアイテムボックスを使った装備変更って多分0.1~0.5秒くらいのラグがある。
その間、すっぽんぽんなのだ。宇宙刑事さんの蒸着みたいに0.05秒でコンバットスーツに着替えられるならいいけど、0.5秒はかなり長い。
私の場合はまだ11歳だし、誰かに見られたくはないけどスザンヌとしての裸を見られてもと死にたいとまでは思わないけど、親友のリリィの裸を誰かに見られるのはリリィが可哀想だし私もイヤだ。
ということで装備変更する時は七色の光で目くらましすることにしたのだ。
まるで魔法少女の変身シーンだけどこのぐらいは大目に見て欲しい。
光が収まった時、私の姿は
マジックアイテムなので11歳の私にもサイズを合わせてぴったりフィット。ダンジョンで見つけてきたドレスだ。
トンッ
一足早く駆け出したリリィを追って馬車から飛び降りる。
ちなみにスザンヌとしての私の身体能力は多分本当に11歳の女の子程度しかない。だって鍛えても力こぶも出来ないんだよ。どうしようもないじゃん。
真紅のドレスに魔力を流し込む。同時にマジックボックスから護りのガントレットとブーツというアイテムを装着する。
ドレスならハイヒールのガラスの靴が優雅だろうけどこれはアダマンタイトという金属で作られたゲーム中で最も防御力が高かったアイテム二つ。
マジックアイテムではないがベネツィアの仮面舞踏会のようなドレスの色に合わせた真っ赤なマスクで顔を覆って走り出す。
ギュンッ
筋力がないはずの私でも100メートルを6秒切るくらいのスピードで走ることが出来る。
魔力がドレスから赤色の粒子になってキラキラと放出されていくから私が走った後に紅い軌跡が描かれる。
このドレスの特性は全体的な能力値の底上げ。ゲームがサービス終了になる直前に魔力偏重お嬢様があまりに死にやすいために実装された強化アイテム。
魔力を攻撃力や防御力に転換してステータスに直接筋力+200、敏捷+200、攻撃力+200、防御力+200をプラスするというある意味チートアイテム。
バランスよく全てを強化してくれるドレスなので私は「
前にも書いたがスザンヌのステータスは分からない。ゲームにも登場していないし(スタート前に寝取られるんだから出るわけがない)ステータスウィンドウで確認することも出来ない。
多分、今は2桁あるかどうかくらいだろう。下手したら1桁? まだ11歳だしね。戦闘力たったの5か、ゴミだなって言われても仕方ない。
だからこのアイテムが能力値を+10%とかだったら全く役に立たなかっただろうけど、流石はサ終直前の魔力偏重お嬢様救済用のぶっ壊れアイテム、能力値に直接+200である。
ただし、装着中は常に魔力が放出され続けるために魔力量が膨大にある私でも30分も持たない。本格的な戦闘をすれば消耗はさらに激しくなる。
私の馬車から襲われていた馬車まで200m以上あったはずだが10数秒でたどり着く。たどり着く直前に光魔法で光を屈折させて外部から見た私の身長を160cm程度に見せかける。
実際の身長は130㎝くらいだから身バレ防止になるだろう。小さな女の子が赤いドレスで助けに来たってなんて証言されたらこのあとやりにくくなっちゃうし。
キンッ キンッ キンッ
リリィが野盗三人を相手に打ち合って一歩も引かずに戦っている。流石は私の騎士、そして剣聖の孫!
「リリィッ、フラッシュッ!」
リリィと野党の間に光の球を放つようにして一瞬の最大出力で発光。カメラのフラッシュを浴びたような光で野党の目がくらむ。
ザシュッ バキッ ドサッ
私の合図で片目をつぶって発光をやり過ごしたリリィが三人をあっという間に切って捨てる。
剣の腕に圧倒的な差があるから多分殺してないだろうけど、一人か二人くらいは生かしておいて事情を訊きたい。
私の登場で野盗たちの注目が一斉に私に向く。
今の私は真っ赤なドレスを着た仮面の美少女。まあスザンヌの顔はそれなりに美少女だから嘘じゃないよ。
「天呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、悪党倒せと轟叫ぶ!
愛ある限り戦いましょう。美少女仮面……ポアト、……いやそれはマズそう。えっと……えっと、魔法少女マドカ・マ……」
「よく分からねぇけどやっちまえ! この女二人もぶっ倒して売りゃぁ一緒のことだ」
「おおっ」
キャー、現実には名乗ってる時間なんてないよね。私知ってた。
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