捨てる神あれば拾う神あり。奇妙な逃避行が繋ぐ、血よりも濃い命のよすが

会社に捨てられた青年・平太と、母親に捨てられた男の子・了。二人の偶然の出会いから幕を開ける、ロードムービー風のヒューマンドラマです。
そこへ偶然のごとく行き合った謎の女性・ウイを交えての奇妙で楽しい逃避行は、中盤、思いも寄らない方向へと舵を切ります。

前半部を読んでいた時には想像もできなかったラストでした。
本作はただのロードムービーではありません。とある大きな仕掛けによって、中盤以降の景色がガラリと変わるストーリーです。ともすれば、前半部に見えていた景色すら意味合いを変えてくるほどに。

ネタバレを避けますが、本作にはそこかしこに様々な形で『血縁』というものの厄介さが散りばめられています。
了くんと母親のことはもちろん、平太さんが見舞われた会社の問題にも触れています。
だからこそ、平太さん、了くん、ウイさんという何の血の繋がりもない三人の関係性が、唯一無二の尊いもののように感じられるのです。

読了後しばらく涙が止まりませんでした。
平太さんが進むこの先の道、その夏空はどんな景色なのか。最後まで読み通したからこそ見える、そして見えないものへ想いが、ずっと胸に沁み込んできます。
素晴らしかったです。ぜひ多くの方に読んでほしい物語です。

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