会社に捨てられた青年・平太と、母親に捨てられた男の子・了。二人の偶然の出会いから幕を開ける、ロードムービー風のヒューマンドラマです。
そこへ偶然のごとく行き合った謎の女性・ウイを交えての奇妙で楽しい逃避行は、中盤、思いも寄らない方向へと舵を切ります。
前半部を読んでいた時には想像もできなかったラストでした。
本作はただのロードムービーではありません。とある大きな仕掛けによって、中盤以降の景色がガラリと変わるストーリーです。ともすれば、前半部に見えていた景色すら意味合いを変えてくるほどに。
ネタバレを避けますが、本作にはそこかしこに様々な形で『血縁』というものの厄介さが散りばめられています。
了くんと母親のことはもちろん、平太さんが見舞われた会社の問題にも触れています。
だからこそ、平太さん、了くん、ウイさんという何の血の繋がりもない三人の関係性が、唯一無二の尊いもののように感じられるのです。
読了後しばらく涙が止まりませんでした。
平太さんが進むこの先の道、その夏空はどんな景色なのか。最後まで読み通したからこそ見える、そして見えないものへ想いが、ずっと胸に沁み込んできます。
素晴らしかったです。ぜひ多くの方に読んでほしい物語です。
人吉平太は、通称ヘイちゃん、勤務先から厄介なできごとで追い払われ、楽道了と道中出会います。
了くんはママに捨てられたようで、旅をしながら色んな刺激やウイさんなどとの出会いをして行きます。
果たして彼のママはどうしているのでしょうか。
また、どうして捨てたのでしょうか。
ある種、ロードムービーの形をとりながら、緻密に掘り下げた心情も丁寧に織り込まれております。
不思議な現象、ひとは目に見えない及び手に取れないものを恐ろしいと感じるようです。
そして、それと会話をなせるひとをも受け入れがたいようです。
本作品のテーマは様々なことが含まれております。
例えば、親子の愛についてや男女のあり方、そして育て育ちあうことも含まれるでしょう。
さだまさしさんの歌、『償い』のライナーノーツには、 山本周五郎さんの『ちくしょう谷』が引用されています。
重要な内容は、「ここまではゆるすけど、ここからはゆるさない。それは、ゆるしていることにならないでしょう」と言う点です。
※引用ではありません。
ここに集約されております。
このボーダーラインを揺れる心が本作のキモであると思いました。
了くんが感じ取ったママなどへの思いは大人からみて、死の距離感が異なるとも思いました。
賢い了くんが、その賢さ故に、ヘイちゃんは行わないことをしました。
私は、映画、『菊次郎の夏』を彷彿とさせ、その上でヘイちゃんの視点で優しく描かれたあたたかさを感じました。
あなたの心に巣食う闇はなんでしょうか。
あなたの心に宿る光はなんでしょうか。
ほっとなお国訛りを交えて、この夏共に旅をしませんか。