旅の果てにたどり着いた夏空の色は?

 ああ、なんて良い作品なんだろう。
 読み終えたときにふぅっとそんな風に思わせてくれました。

 会社から無実の罪を着せられて逃亡していた男。
 母親に捨てられて一人ぼっちの男の子。
 この二人が出会い、男の子の母親を訪ねて旅を始めます。

 と、序盤は少年の純粋さと、男の不器用な素直さが交錯するハートフルなロードムービー仕立ての物語が続きます。
 とにかくキャラクターの自然さ、人としての大事な素直さ、優しさ、情け、そんなもろもろの要素が混然一体となって、道中を明るく照らします。こう書くと簡単なようですが、ちゃんと人間つてものが書けてる、というのが本当に素晴らしい。良くも悪くも人ってこういうものだよな、と素直に思える。こういう要素って、文学作品では一番大事なことだと思うのです。

 そして物語はとある女性が一緒に加わり、謎めいた展開へと突入していきます。このストーリーの大胆な変更がこの物語の大きな特徴です。ただのロードムービーで終わらせない、男と少年の暖かな心の交流、それだけで終わらせないのです。そして物語はさらに深くなっていき、人の心の闇さえも活写していくのです。

 とにかく濃密で感情豊かなドラマ、行く先々の光景の鮮やかさ、人のどうしようもなさと気高くあろうとする心、そういったものが物語の中心にしっかりと流れていきます。
 テーマの濃密さのわりに、どこか軽やかで読みやすいのは作者様ならではと思います。この作者様は長編を多数発表されていて、まだその一端に触れたばかりですが、語り口といい構成といい、素晴らしい書き手の方だと感じました。

 ぜひ読んでみてください。
 長編ならではの満足感があります。

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