2.5話 時が止まった日 ③

通路を少し進むと部屋が見えた扉は開いていて薄暗い通路よりさらに暗くなっていた、所々に吊るされた四角い入れ物の中にある火が明かりをぼんやりと広げている

 「なんでこんなに暗いのよ~」

 ベルは周りを見回しながらびくびくした様子で小さくつぶやいた。

 

 暗い部屋では視界に入る物すべてがどことなく不気味に見えた、夕暮れ時の部屋に一人でいるときは自分の部屋でさえそう思うこともあるのに

 知らない場所でぼんやりとした明かりしかないならなおさらで、ここにいるだけで楽しい気持ちが全て無くなっていってしまうような不思議な不気味さがこの部屋にはあった。

 (1回引き返して2人と合流してからまた来よう)

 透明の囲いで囲われた何かも分からないぶよぶよした物体を見て先ほどまでのわくわくした気持ちはどこかに消えて、代わりに2人の顔を見て早く安心したいという気持ちが湧いてくる。


 部屋から出ようとする途中でベルは小さな異変に気が付いた、今まさに引き返そうとしている先が割れていくのだ。

 地面がではない何もないはずの宙に裂け目がピキピキとできていく、今出来たばかりの裂け目が開くように割れて中から黒いもやがじわじわと広がった。

 ベルの姿を誰かが見ていたなら話さずとも動揺しているのは明らかだっただがこの場にはベル1人だけだ、たとえどんなに動揺していても誰かがいればそれだけで心が安らいだだろう。

 

 それほど異常な出来事にベルはまるで声を奪われたようでもあり動揺を隠すことはできなかった。

 (あれ……ダンチの黒い空間と一緒だ)

 黒いもやを見て早まる心臓の鼓動を必死に抑えながら必死に何が起きているかを見極めようとした、それと同時に1人であることの心細さを今まで感じたことがないほど、強く感じた。


 次の瞬間にはベルはもう1人ではなくなっていた、いつの間にか黒いもやの中から人影が現れた。

 顔はフードで覆われていて見えない、片足をわずかに引きずりながら少しずつだが確実にベルのもとに近づいていた。

 少しずつ近づいてくるその人のようなものの顔が見えた時せき止められていた声が行き場を失い、ベルはこれまでの人生で一番の叫び声を上げた。

 

 


 クラウスと別れて曲がり角を曲がってからすぐに部屋があった、通路にはいくつも部屋があるように見えたが部屋を順番に見ることにして一番手前の部屋を探索しようとリョーマは思い部屋に入った。

 「なんだここは……」

 リョーマは小さくつぶやきながら部屋の中にあるものを見回した、この部屋にはたくさんの資料があるようだった数えきれないほどの羊皮紙が1つにまとめられその束がいくつも棚に並んでいた。

 

 最初に手に取った資料は植物の絵が描いてある、リョーマが見たことも無いような植物ばかりが紙には描かれどの植物も決まって端に数字が書き添えられていた。

 絵と数字しか書かれていなかったがこの紙の束がどういうものなのかリョーマは想像することができた。

 畑の管理をしているカーラが同じように資料をまとめているのを見たことがある、育てている作物を絵に描いて数字をつけ同じ数字が書かれている別の紙には作物の育てるときの注意点や食べ方までまとめてあった。

 ただ一つ違うことがあるとすれば絵の正確さだろう、カーラが描いた絵は実物と見比べても同じものだとは分からなかったがこの羊皮紙に描いてある植物は違う、見たことがなくても絵を見るだけでどのような植物かをリョーマに知らせあまりの精巧さが想像の類のものではなく実在する植物だと分かる程だった。


 (植物の説明が書いてある紙はどこにあるんだろう……)

 リョーマはこの見たことも無い植物の絵についての説明がどこかにあるはずだと、見ていた紙の束を横に置いた。

 それからいくつもある資料を見て次はどれを見ようかと思案した、リョーマの背よりはるかに高い棚を見上げてから手が届く範囲で一番高い資料に手を伸ばす。

 

 今度は植物の絵ではなかった、植物の説明がまとめられた紙でもないらしい。

 (これ、人だ……)

 リョーマはその資料を見て息をのんだ、資料には人の絵が描かれているようだった。

 先ほどの資料とは違って人の全身の絵が描いてあり、その隣には何やらぐにゃぐにゃとした文字のようなものが書き連ねてある。

 人の絵を良く見ると手首の部分が普通の肌ではないように見える、それはまるで村のはずれの川で釣れる魚の鱗みたいにキラキラとしていそうな風に描かれていてほかのページにはどのようなように書かれているのかが気になってリョーマは急いでページをめくった。

 次のページにも同じように人の絵が書かれていたが正面ではない、人の背中が描かれていて背中の右半分はまるで鳥の羽毛のように見えた。


 リョーマが次のページは何が書いてあるのかと手を伸ばそうとした時に不意に悲鳴が聞こえた。その悲鳴がベルのものであると気づいた瞬間資料を投げ捨て、部屋を飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だんだんダンジョンダンチダンズ かねうち @kaneuchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ