2.5話 時が止まった日 ②
風は次第に弱まり、雲の切れ目は広がっていった。日差しが強くなり、太陽が顔を出す時間も長くなってきているように感じられた。
少し早歩きをしていたクラウスは汗を少しかき始め、ダンチに着くなり手で汗をぬぐった。
「今日は何号室に行くんだ?」
後ろから歩いてきた二人に向かって問いかけてから「せっかくだから広いところがいいな」と続けざまに伝えた。
「私はどこでもいいや、前の3号室の小さい洞窟もきれいだったし」
ベルも汗をぬぐいながら答え、続けてリョーマに顔を向けた。
「5号室までは探索する場所もそんなにないしね、だけどあんまり広い所に3人で行っても迷子になるからなぁ」
リョーマはつぶやいてからどうしようか考え始める。
5号室までは比較的狭い場所に通じてることが多く大体は洞窟の奥まった場所に繋がっていて水たまりや苔が生い茂った場所があるのみで、たまに綺麗な花が咲いていたりキラキラとひかる不思議な石などが見つかるだけだった。
ベルだけは見つかる素材でいろいろなものを作るのが楽しみで小さい部屋にも度々行っていたがクラウスとリョーマは10~15の部屋に行くのを好んだ。
2人とも本当はもっと広い場所に行くのを楽しみにしていたが2人して23号室で迷子になって村の人たちを大捜索に付き合わせてからは15号室より広い場所に行くことを禁止されていた。
「15号室でいいんじゃない?探索できるし集まりたいときは本気で叫べば迷子にも多分ならないよ」
ベルが名案を思い付いたというように喋りだした。
「私が素材を見てまたなんか作るからさ、3人で分かれて素材を集めてくるってのはどう?」
「良いな、俺がすごいのを見つけてやるよ」
クラウスはまだどういう場所につながるかも分からないのに既にどんな素材を探して来るか楽しみにしていたし、ベルもわくわくしているようだ。
もし素材も何も取れないような場所につながるようならこのわくわくした気持ちも最初から無かったみたいに落ち込んでしまうかもしれない。
「今度は花冠を作れるようにいっぱい花を集めないとな」
花冠をつけたクラウスを想像してリョーマは笑い、それにつられてクラウスも自分の花冠を着けた姿を想像して思わず笑いがこぼれた。
「じゃあそろそろ行こうよ」
笑いながらもダンジョンに行くのを待ちきれなくなったベルが15号室への階段を上り始め2人も話しながら続いて階段を上る。
「良いものがありますように」
ベルがそう言ってドアノブに手をのばした。
久々に広いダンジョンに行く期待と不安でノブを握る手に汗がにじむ、ドアノブを握りながらベルが力を込め子供の頃からやっているように再び心の中で祈ってからドアを開けた。
ベルもリョーマもクラウスも小さいころから何度もダンジョンに遊びに行っていたがドアを開けるこの瞬間は緊張が収まらない。
ドアを開けた場所にはあるのは黒い空間が広がるばかりで先が見えずどのような場所につながっているかは分からない、初めて黒い空間を通った時のドキドキが蘇ってくるようだった。
最初にベルが歩いていきクラウスもリョーマも続いて歩いた、黒い空間を通るときに大丈夫なのは分かっているのだが子供の頃からの癖でリョーマは息を止めながら歩いた。
黒い空間に入ったかと思えば目の前には明るい開けた空間が広がっている。
先に入ったベルとクラウスが何やら興奮して話している様子が最初に目に入った。
次に目についたのはツルツルとした白みがかった床と壁だった、先に来た2人もそのことについて話しているようだ、たとえリョーマが先に来ていたとしても同じ話題で盛り上がっていただろう。
そもそもが洞窟や森のような自然がある場所以外に来ることは無かったのだ。
床も壁も始めて見るような素材だったし、洞窟みたいに壁面がボコボコしていることも無いようだ、村で1番の家職人が作る壁でさえ多少の凹凸は見えた。
こんなにもツルツルで平坦でとっかかりもない壁を人間に作ることができるのだろうかとリョーマは壁を触りながら思ったし他の2人もそうであったに違いない。
「この場所凄いな」
クラウスが小さくつぶやいてベルも周りを見渡しながらウンウンと小さく頷いた、驚きで声を出していなかったリョーマも2人の会話に加わってどうしようかと話し始めた、話の内容はすぐに帰るかどうかでそれと素材等が入手できそうかどうかも分からなかった。
リョーマはすぐに帰ってまた14号室に入りなおせばいいと言った、1回この空間から出てしまうと同じ部屋はすぐには入れなくなってしまうからだ。
クラウスもベルもそんなの勿体ないと主張した、こんなに変わった場所に来たことは無いしまたこんな場所に来られるとは限らないと意見を変えそうには見えなかった。
いつもはリョーマとクラウスのほうが探索をしたがるものだが、ベルが珍しく2人より探索をしたい気持ちになっている。
それにベルが「ダンジョンで危険なことなんか起きたことないでしょ、村の外のほうがよっぽど危険だよ」と言ったときにクラウスも一緒になって相槌をうつものだから探索をすることにした、心の中ではリョーマもこの場所への興味が今まで以上にあったのも探索をすることになった要因の1つだろう。
後ろには黒い空間が広がっていて帰るときはまたここに戻ってくることになる、3人が1つしかない通路を歩いていると壁が色付きの水晶のようになっていてかなり大きい。
ベルは目をキラキラさせて水晶のような少しの凹凸もない間壁を少しの間触って、「こんなにきれいなのにツルツルで取れそうもないや」と惜しそうに言った
「こんなにでかいのを持って帰るつもりなのか?村の集会所ぐらいでかいぞ」
クラウスが村で一番の欲張りを見つけたようにわざとらしく言って、それに言い返すベルを見てリョーマも小さく笑った。
水晶の壁が途切れたと思いその先を見ると途切れた先から真横に曲がっていてまた水晶の壁が続いている、水晶の壁の反対側はまたもやツルツルの白い壁で今度は複数の道に分かれているようだった。
「探索のし甲斐がありますなぁ~」
ベルがニヤニヤしながら村で1番の家職人の言い回しを真似して言った。
「そうだな、素材はとれなさそうだけどな」
残念そうに言うクラウスにベルも同意して少し残念そうな表情になる。
リョーマも内心それは残念だと思ったが何かあるかもしれないと少し期待もした。
3人は最初の予定通り分かれて探索をすることにした、今までにない場所なだけにあまり遠くには行かずに10分ほどですぐに集合して探索の成果を報告することにして別々の通路を歩くことなった。
クラウスは最初の曲がり角を曲がった、通路は薄暗く少し歩くとクラウスの背中は見えなくなった、クラウスのやる気に満ち溢れた声だけが通路の奥から響いてくる。
リョーマも次の曲がり角を曲がる、まだ奥にも道は続いていたがベルもその次の曲がり角をすぐに曲がった。
色付きの壁の向こうから、水晶がベルの背中をジロリと見つめベルの背中が見えなくなるころにゆっくりと一度だけ瞬いた。
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