第127話 令和から見る過去を楽しみにする
朝起きた綾はバイク屋「ようこの」に向かう。YA-1は次借りれるのはいつだろうか。どこか2ストロークバイクというものにも興味を持ち始めた綾。エンジンの始動もキックスタート、混合ガソリンにしなければたちまちエンジンが焼き付いてしまうというこの時代においてはオートルーブでオイルの補給で済むが、今や現役ではないエンジン。どこか手間が掛かると逆に愛着がわくというアレだ。
「ようこの」に着いた綾は昨日の話と写真を陽子さんに渡して、千紗についてはどうすればいいのかを改めて聞くのだった。
「千紗ちゃんはあの会社でやることがまだあるのね。ふむ。。。」
と、陽子さんが少し考えたようなポーズをしてしばらく黙ってからこういい始めた。
「千紗ちゃんのことを考えると来春くらいに迎えに行くのが良さそうね。それまでは、綾ちゃんはこの世界にいて」
ということで、YA-1からVTZ250の返却をされるのかと思ったら、今度は最近のオートバイに乗ってみない?とYZF-R1を指差された。 RN24Jという今の形に近くなった最初のR1。いやいや、いきなりそんなオートバイは乗れないでしょ。と綾は思ったが、冗談だったらしい。しかし、もう一つのオートバイ、YZF-R25、8BK-RG74Jを指差していた。
「やー、VTZ250はもうちょっと預からせて。パーツが無くてなんとか代用品を探しているところなの。これはホント、ガチ。」
そう、古いバイクで不人気車の宿命である。こうして昭和30年製から一気に令和4年製、つまり一気に70年近く時間が進んだヤマハのオートバイに跨ることになった綾。これはこれでヤマハ初のオートバイから最新のオートバイへ乗り継ぐ。というなかなか出来ない貴重な体験でもある。エンジンを掛けると、2外ロークのような甲高いエグゾーストノートとは真逆の中低音、特に中間の音で奏でられるエグゾーストノートはどこかVTZ250にも近いのは4ストローク2気筒という部分は共通しているからだ。V型と並列の差はあれども。
古いオートバイが乗れなくなる日はいつかやってくる。それは事故だけではなく、部品欠品による再生不能という場合もある。尤も古いオートバイは共通部品や大体部品も有ったりするがどうしても代替できない部品もあったりする。そうなるとあきらめるかドナーを待つしかない。綾にとってのVTZ250は安かったから。というだけだが、昭和63年に行くことが出来なくなる。という特別な意味を持つ。あの昭和63年はまだ回り切れていない。昭和最後のコミケとはどういうものなのかもまだ未確認だ。そう考えるとちょっと不安な気持ちにもなるが、陽子さんがどうにかしてくれるという頼もしさもあるので今は今のオートバイを楽しもうじゃないか。そいう気持ちに切り替えて行こうと思う。さて、R25でどこを走ろうかとちょっと考えるならこれから過去に戻れそうな場所を先に令和の今巡っておくのも面白いと思う。事前に調べて歴史を辿るツーリング。それも面白そうである。
バイク屋「ようこの」を出発した時の綾の顔はこれから先に待つ過去と今である未来を同時に体験できる今にこそ面白味があるのではないかとわくわくして出発するのだった。まさにこれからがオートバイの季節の秋で、辛い冬はもう少し先だ。
昭和を駆け抜けろ! 山田まるよ @maruyo_
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