家族
僕はずっと、モイワナで農業をしながら暮らしてました。学校はないです。けど母が首都の出身だったから、オランダ語と英語は母から教えてもらってました。まだ流暢には話せませんが。
父は軍人でした。結構偉い人だったんだと思います。仕事の都合で村に帰ってくることは少なかったんです。首都も遠いですから、そう簡単に帰ってはこれないと分かってはいました。でもとても優しくて、頼りになる人でした。
姉も一緒に農業してたんですけど、彼女は将来的に首都で勉強して、いつかブラジルで働きたいと言っていました。村にブラジルから来た夫婦がいた時は、沢山お話してたと思います。
僕は父のような軍人になりたかったんです。父の働いている姿はかっこよくて、「国民を守る仕事」って素敵だったから。
いつからか、父は新聞に載ることが多くなりました。けれど、どれも父が悪い人だと決めつけるものばっかり。今より幼かった僕には、なぜ父が非難されなければならないのか、訳がわかりませんでした。
「ルドルフ、将来の夢はあるか?」
ある日、父が質問してきた日から、僕の夢は変わりました。
「えっとね、ぼくね、父さんみたいな軍人さんになりたい!それで、国を守るんだ!」
きっと、父も喜ぶだろうと思って、素直に答えました。しかし、そこで返ってきたのは、思いもよらなかったものでした。
「ルドルフ…父さんな、もう国軍の軍人じゃないんだ」
「え?なんで?じゃ、じゃあ、今どこではたらいてるの…」
その時は、かなりパニックになってました。でも、なんとなく、分かっていました。いつからか、父が村に帰ってくることが多くなったから。
「…父さんは、国軍の奴らが許せない。お前も分かってると思うが、スリナムはかなりまずい状態なんだ」
「しってるよ。あの人に逆らったらつかまっちゃうんでしょ。母さんが言ってた」
「そうだ。お前も発言に気をつけるんだぞ。内通者はいつどこにいるか分からない」
「でも、父さんはあの人のこときらいなんでしょ?新聞にいっぱいかいてあったよ」
「ははは…ルドルフは新聞をちゃんと読んでてえらいな。だがな…新聞に書いてあることが全てだと思ってはいけない」
「じゃあ、父さんがあの人のこときらいっていうのはウソってこと??」
「………どうだろうな。父さんも、もうよく分からない」
「あの人」というのは、指導者…いえ、独裁者の事です。彼はクーデターを起こして、国を支配しました。もちろん、父もクーデターに参加しました。
父は、元は彼の部下だったんです。軍の中でも、立場は上の方。しかし、彼が独裁者となってからと言うもの、国はどんどん狂っていきました。
まず、国民は貧困に悩まされるようになりました。うちは農業を中心に生活していたので良かったのですが、都市部の人たちは収入が減って、働くところもなかったみたいです。
僕はその頃まだ小さかったのでよく分かりませんが、父はその頃から彼に不信感を抱いていたようです。
父はその時国軍から抜けました。そしてジャングルコマンドーと呼ばれる反政府組織として活動を始めていたんです。
そして、今年の7月、隣の村で内戦が始まったんです。母と姉はすぐに収まるものだと楽観的でいましたが、僕の中ではただならぬ不安が渦巻いていました。
だって、あの人は人を15人も殺したんですよ?
殺した、殺したんです。あの人が……あの人…。全部、アイツのせいで……………。
ギアナの箱庭 ねこみゅ @nukonokonekocha
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