親
まるで人格が入れ替わったかのように言葉遣いも表情も柔らかくなった少年に戸惑いつつも、だいぶ落ちついたようなので話を聞いてみることにする。
「ね、ねぇ」
「分かりますよ。きっと、全てがどうして、ですよね。全部……教えます」
「あの、その前に…名前、とか。あなたについて知りたいの」
「ああ…僕からは何も言ってなかったですよね、ごめんなさい。僕は、ルドルフです。スリナムのモイワナという村で生まれ育ちました」
モイワナ…あの船主さんが言っていた村だ。やはりそこで何かがあったのか。しかし、正直聞いたことのない地名だし、スリナム国内でもそこまで有名じゃないだろう。なのに、なぜそんな所が狙われたのか。謎がどんどん増えていく。
「年齢は…?」
「8です。もうすぐ9になります」
え、8歳…?8歳にしては、かなり、というかだいぶ落ちついている。
「失礼じゃなければ、ケイトさんのことも知りたいです」
「私…?私はケイト・ラッセル。ロサンゼルス出身で、6年くらい仏領ギアナに住んでるの。ここに来る前はガイアナに住んでたんだけどね」
「色々な所を転々としているんですね」
「うん…色々あってね」
「…英語が流暢な理由がそれでも、おかしくはないか…」
ボソッと少年が呟いたのが聞こえた。どうやら、まだ疑われているようだ。
「あなたが見た男の人…ラファエルさんって言うんだけどね…あの人は私のことを拾ってくれたの」
「拾った…?」
「うん。あなたが知ってるか分からないけど、私、ガイアナで人民寺院事件っていうのに巻き込まれたの。親が事件元の宗教にハマっちゃってね…。それでそこから逃げてたら、ラファエルさんとその奥さんが拾ってくれたの」
「へぇ…人民寺院って、あの集団自殺の事件ですよね。その時何歳だったんですか?」
「6歳だったよ。今は14歳なんだ」
「僕より6歳年上なんですね」
私の話をニコニコしながら聞いてくれる少年。しかしその笑顔は明らかに心からの笑顔ではない。やはり、
「…ルドルフ。あなたの身に何があったのか、聞いても、いい?」
少年…ルドルフは、重いものを抱えている。
「………いいですよ。話したところで、どうにもならないのは、わかってる」
私に見せてくれたのは、紳士的で柔らかい表情じゃない。諦めきった表情だった。
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