少年
「もう少しでタクシーが迎えにくるはずだ。それまで待っておこうな」
船に乗って仏領ギアナからスリナムへ辿り着いた。船は大きく水飛沫をあげ、レインコートはびっしゃびしゃになった。雨も降ってないのになぜレインコートを着るんだろうと思ったけど、そういう理由があったのか。
結局あの後、「ケイトがそう言うなら…」と、ラファエルさんは、ラファエルさんの同行を条件に許可してくれた。
「ねえ、ちょっとだけ森の方を見てきてもいい?綺麗な花が沢山咲いているから、気になるの」
「待て、ケイト。俺も着いて行く」
ラファエルさんは、この国に入ってずっと警戒している。やはり、彼にとってはとても危険な国のようだ。ただ、船を降りた先に見える壮大な自然が美しくて、私はそこにしか意識がいかなかった。どうしても間近で見たくなった。
特に私の目を引いたのは、情熱的に咲く赤い花と、それを穏やかに包む深緑。緑葉からは、快晴の下にキラリと光る露が溢れ落ちている。まるで、大雨から赤い花を守っていたかのように。
(…あれ、さっきまで雨が降ってたのかな)
下を見ると、草花が濡れている。晴れる前は、かなり降っていたみたいだ。奥に行けば行くほど珍しい花が沢山咲いていて、吸い込まれるようにどんどん進んでしまう。
「おい、ケイト。あまり進むんじゃないぞ」
ラファエルさんの忠告もよく聞こえず、私は更に奥へと進む。どれだけ進んでも周りは変わらず緑と茶色しかないけど、何かが、そこにある気がした。
「ケイト!!!!もう引き返すぞ!!!!!」
「はーい」と答えようとした。その時だった。
私が彼を見つけたのは。
「待って…ラファエルさん…誰かいる」
声にならず、小声で呟いた。小川のすぐそばで、1人、少年が、横向きに倒れていた。
「え…な、何…」
早足でその子に近づく。見るからにボロボロで、所々が焼け焦げたタンクトップを着ていた。
(…まさか、死んでるの)
恐る恐るしゃがんで顔を見ると、目が、かすかに開いていた。焦点は合っておらず、私のことが見えているのかさえわからない。身体じゅうにはひどい火傷の痕もあった。
「ねえ!ちょっと!!どうしたの!?」
大きな声で問いかけるが、返事はない。が、口元が少しだけ動いたような気がした。
「ケイト!!!どうした!?」
私の声を聞いたラファエルさんが驚いた様子でこちらに走ってきた。
「ラファエルさん大変!!!男の子が倒れてるの!!!!!」
「なんだと!?」
ラファエルさんはこちらに駆け寄ると、呆然とすることもなく私に指示をした。
「ケイト!!そこら中の大きめの葉っぱを集めて持ってこい!!!!」
「え…どうして」
「いいから!!!!」
私はその時頭が真っ白になって、何が何だかよくわからなくて、ラファエルさんの言う通りにするしかなかった。
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