ギアナの箱庭
ねこみゅ
逃走
私が逃げようと決心したとき、もう既に母は狂っていた。
「今こそ決断の時。さあ、尊厳をもって死を選ぶのです___」
まだ6歳の私にその言葉は理解できなかったが、みんなの様子が明らかにおかしいことから、自分の身に危機が迫っていることはわかった。
私たちの前には、毒の入ったジュースを飲み干す女性と、その子ども。女性の目はうつろで、生の向こう側を見つめていた。
周りを見渡すと、みんなその女性と同じ目をしている。いつも笑顔のお母さんも、いつも手が温かいお母さんも、冷たかった。心など、まるでどこかに預けているように。
「ケイト…………」
かすれた優しい声で、お母さんは手を伸ばしてきた。微笑むその瞳が見つめていたのは私ではなく、お母さんには見えているであろう死後だった。震えた手を私の頬にやさしく当てる。冷たくなった手は私にとってはお母さんのものではなかった。
私は怖くなり、お母さんの手を振り払った。この場にいては命が危ないと幼いながらも理解し、教会を飛び出した。みんなで耕した畑を踏みつけ、みんなで育てた花を踏みつけ、集落から逃げて、逃げて、逃げた。何度も何度も身体の大きい大人に捕まったが、噛んで、蹴って、殴って、小さな足で何度も何度も転びながら逃げた。
長く伸びた草が足に傷を増やしていく。走れば走るほど切り傷が増えていく。でもそんなことよりも、ここから逃げるのに必死だった。
ついに集落から脱出することができた。しかし、周りはジャングルで、どこに人里があるのかもわからない。とにかく外の世界の人の存在を信じて、走った。何度も木の枝に長い髪の毛が絡まって痛かったが、引きちぎって走った。止まったら捕まる、そう思ったから。
ジョーンズタウンを出て、20分くらい。
ずっと走り続けたが、とうとう息が苦しくなった。ただ、周りは変わらず緑と茶色しかなく、もうどこまで走っても人里などこの世界には存在しないと思わせるようだった。汗が体にまとわりつき、暑さと湿気で倒れそうだった。小さな少女にとってはあまりにも酷で、その場に座り込んでしまった。もう走れない。歩けない。
近くに大きな川があった。薄茶色に濁っていたが、飲めるのならなんでもよかった。私は、その川に誘われるようにフラフラと近づき、その川の水を飲もうと小さな手で掬おうとした。
「何してるの!!!!!そんなもの飲んじゃダメ!!!!!!!!」
突如として大きな怒鳴り声が響き、声の聞こえた方向と反対方向に走り出そうとした。だが、足に力は入らず、立った瞬間よろけて川に落ちそうになる。
結局ここで私は死ぬんだ、ならお母さんと一緒に死んでおけばよかった____
私はスローになっていく世界の中で、ゆっくりと目を閉じた。
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