夢に乗る
らむねなのだ。
第1話
『次のニュースです。
新技術で開発された〝ノア〟が遂に本日発売しました。各店舗は人で殺到しています。』
「おはよう!美佳、ん?何見てるの?」
幼なじみの紗依とはいつも一緒に登校している。彼女は朝でも元気いっぱいだ。
「ネットニュース」
「それって今日から売られた幸せな夢を見れる機械でしょ?〝ノア〟だっけ」
「うん、面白そうだなって」
「だよね〜楽しそう!あっ、でも200万もするんだっけ。学生には到底手の届かない代物だよ〜」
「紗依はいつも金欠だからこんなの夢のまた夢だよね」
「ちょっとバカにしないでよ!今月はまだ100円も残ってるんだよ!?」
「今日はまだ13日だけど」
彼女の家庭は決して貧乏な訳では無いし毎月の初めに十分の小遣いを貰っている。
つまり単に金遣いが荒いだけである。
「もう美佳なんて知らないんだから!」
走って先に行く紗依を遅れて追いかける。
こんな他愛もない時間が、一日が私にとって何より幸せだった。
このまま、目が覚めなければいいのに。
_______________
「おはようございます。体験版はここまでになります。」
重いカプセルが開き目を覚ます。
「製品版をお買いになりますか?」
「もうちょっと、考えます。」
「わかりました。お帰りはあちらになります。」
店を出る。お馴染みの風景だ。
空は澄んだ青色で登校中の小学生は数人で楽しそうにじゃれ合っている。
ビルに囲まれた大通りを1人で歩く。
「そういえば、紗依は…」
いつもはこの辺で後ろから元気に飛びついてくるはずだ。
「…ぁ」
ビルのガラスに映る私は酷い顔をしている。しわくちゃの制服で身を包み髪はボサボサだ。顔にはニキビとシミがこびりついている。そんな自分をみて思い出した。
私に紗依なんて幼なじみは存在していない。
それどころか、仲の良い友達など1人もいなかった。
現実の私は酷く惨めで孤独だ。
でも、そんな自分も今日で終わりにしよう。
1度躊躇ったが今になってようやく決心が着いた。
右手に抱えるバックには必死に貯めた200万がある。働いて体を売って、必死に稼いだ200万。
今日、放課後製品版を買いに行く。
最後の日くらい楽しまなくては。
不登校の私は滅多に行かない学校へ久々に足を運んだ。
もちろん学校にいい思い出など無いがそれでも人としての威厳くらいは守らなくてはいけない。
「最期の日くらい、みんなに挨拶しよう」
そう決心した時、うるさいクラクションと共に世界は暗転した。
あぁ、こうなるなら
200万いらなかったじゃん。
夢に乗る らむねなのだ。 @ramunenanoda
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