そして若様はお姫様を
第8話 1
《――大規模事象変動を確認!
――回避を!》
<近衛>が不意に警告を発して。
「――エイトっ!」
俺は<
『――――ッ!?』
エイトが息を呑んで、<
それまで艦首があった位置を、膨大な質量を持ったなにかが駆け抜けた。
「――なんだっ!? クソ! 距離を取れ!」
俺の指示に従って<
再び<女神>の上部甲板の上に出る。
そして、俺達は息を呑んだ。
<女神>の形状が、変貌を遂げつつあった。
先程、<
前部は艦首同様に竜を思わせる。
後部はまるで獅子の胴のようだ。
そしてその境目から、まるで植物の成長を思わせるように、無数のパイプがうねり、絡み合いながら伸び上がり、人の――女の形を取っていく。
『……<亜神>……』
おギン婆が呟いた。
「なんだそれ?」
『<大戦>期に流行ったンだよ。人の手によって新たなる神を生み出して、人を進化に導こうっていうのが!
なまじ<
「新たなる神……」
そうしている間にも、パイプの寄せ集めだった女の像が、皮膚を持ち始める。
「クレア……」
俺は思わず呻いた。
それはまさしくクレアだった。
『クソ! ミレディだ! こんな事考えつくのは、アイツしかいないよ!
恐らくはクレアを――ハイアーティロイドをコアとして、<亜神>を生み出そうとしてるんだ!』
と、そんな俺達の前に巨大なホロウィンドウが開く。
『――正解。さすがはドクトル・シルバーと言うべきかしら?』
『――ミレディっ! アンタはっ!』
怒鳴るおギン婆に、けれどホロウィンドウに映ったミレディは妖艶に哂う。
俺は込み上げそうになる怒りを押さえて、そんなミレディを睨みつけた。
「……クレアをどうした?」
『あの子なら……』
ミレディが身体を寄せる。
その背後から現れたのは、無数のコードに巻き付かれ、ぐったりと意識をなくしたクレアの姿だ。
彼女の胸には不気味に明滅する、球状の肉塊が埋められていて。
それが縦に裂けて、ギョロリと蠢く眼が現れた。
『……インディヴィジュアルスフィア……<亜神>のコアを埋め込んだのかい!?』
おギン婆の鋭い叫び。
『ええ、そう。以前確保した一号機がスフィアの摘出に耐えられなかったのよ。
それで壊れちゃうなんて思わなかったから、本当に失敗だったわ』
『……それで同型機のクレア嬢ちゃんを使おうってワケかい。
あんたらのヤリクチには、本当に反吐が出る!』
『人類の進化の為には些末なことだわ。
大を生かす為に小を犠牲にするなんて、誰でもやってる事でしょう?』
ミレディの愉悦をたたえた目が俺を見る。
『皇子様ならわかるんじゃない?』
「……てめえと一緒にするんじゃねえよ」
政治を行う上で、時にはそういう非常な選択を迫られる事もあるのはわかってる。
なるべく多くの者をすくい上げ、それでもこぼれ落ちてしまう者達に涙しつつ、だからこそ歯を食いしばって前に進み続けなければならないのが為政者なんだ。
なにかを、誰かを犠牲にして成り立つような方法を、俺は――
ましてそれが新たなる神の誕生だの、人類の進化なんていう曖昧なもののためとなればなおさらだ。
「俺はてめえを認めない。絶対にクレアを取り戻して、その企みをぶっ潰してやる!」
『そうね。それでこそだわ。
この宇宙を取り巻く法則――世界の改変を行う時、必ずそれを阻止する存在が現れる。
先生が仰っていた通りね。
そして、それが強大であればあるほどに、改変の成果は大きくなる。
だから、だからこそ、わたしはこう言うの!
――さあ、止めてみなさい世界の意思の担い手!
わたしは必ず成し遂げて見せるわ!』
まるでヤツの言葉に応じるように、クレアの面影を写した女神像が両手を広げる。
<女神>の両舷にある大翼が開かれた。
巨大な翼の表面で無数の輝きが生まれる。
《――事象干渉を確認》
「――エイト、舵をこっちに寄越せ!」
俺は慌てて叫んだ。
<
《――スフィアリンク確立》
<
<
一枚一枚が<
《――ロジカルドライブ、並列励起!》
帝騎と<
『
光速で飛来する羽根の群れの間を、光速を超える速度でかわし、かわし、かわし続けて駆け抜けた。
『――敵弾、追尾してきます! 迎撃しますか?』
エイトの報告に続いて、スーさんが問いかけてきて。
「いや、良い。このまま追わせる!」
俺は艦体を旋回させて、急減速。
超光速路から通常空間へと降りると、<女神>の竜頭へと艦首を向けた。
背後にわずかに遅れて、追いすがる羽根が出現する。
竜頭スレスレをかすめるように駆け抜けると、竜頭は噛みつこうと首を伸ばした。
そこに追ってきた羽根が飛来する。
五〇メートルを超える大質量の光速超過の激突だ。
それが連続して突き刺さり、竜頭を苦痛に仰け反った。
そのわずかな間隙に。
「――連動増幅器展開!」
『はい! 連動増幅器、展開します!』
上部甲板のハッチが開いて、円形の増幅器が帝騎の背後に展開される。
「――仮想砲身用意っ!」
『仮想砲身展開!』
艦首前方に十枚の円形魔芒陣が連続展開される。
増幅器が前に倒れて、帝騎の周囲を囲んで球状積層魔芒陣を描き出す。
――兵装選択。
帝騎の手にレイガンが出現。
俺はそれを掴み取って、
「――目覚めてもたらせ!」
銃口を竜首の付け根に向ける。
騎体左手に構築された
「――吼えろ! <
紫電をまとった漆黒が放たれる。
それは仮想砲身で増幅されて虚空を駆け抜け、竜首をえぐり飛ばし、そのまま<女神>艦内を貫いて、獅子の形状をした艦尾へと突き抜けた。
<女神>艦首に、巨大な穴が空いた。
「――止めてみろって言ったな! やってやろうじゃねえか!」
そして、俺は大穴へ向けて、<
スペース若様 星海日記 ~転生しても女にハメられた俺に、嫁取りしろって無茶いうなッ!~ 前森コウセイ @fuji_aki1010
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。スペース若様 星海日記 ~転生しても女にハメられた俺に、嫁取りしろって無茶いうなッ!~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます