第25話 心の中まで読まれる レベル寧々

 れい多香子たかこに五年生の国語の解答用紙を見せてもらった。ランダムに並べられた解答用紙を上から順に見ていったのだが、解答用紙の名前を見なくても、寧々ねねの解答用紙で目が止まった。


 問題文を読まなくても解答用紙を見ただけで、その解答は正解なのだろうと思えた。そしてレベルの高さもわかった。字は際立きわだって上手ということもなく、他の小学五年生と変わらないと思った。

 決して書道を習っていたような丁寧さはない。むしろ少し大人びているように見える字体はサラッと書き流しているように見えたが全体のバランスがいい。


 彼女の解答用紙を一目見て思ったのは、まるで模範解答のような読みやすさ。流れるような文章。

 そして数問ある記述問題に対して書かれた彼女の解答を読んだだけで、出典となっている小説の内容が粗方あらかたわかるような気がした。


 麗は思わず息を呑んだ。

「すごいわね」


「そうでしょう。すごいのよ」

外の景色を見ながら多香子が言う。


頷く麗に振り返って多香子が続ける。


「文章の中だけじゃなくて、なんだか彼女の前で授業してると、こっちの喋り方とか仕草で、心の中や次の行動を全部読まれちゃってるような錯覚におちいるわ」


「『心の中』や『次の行動』を全部読まれる……」


呟く麗に多香子が微笑みながら言う。


「そんな気がするだけよ。それに、何よりも彼女とてもいい子だから……」


「そうね。さっき多香子と少し話してたの見たけど、とても純粋ないい子に見えたわ」


「『見えた』じゃなくて、いい子なのよ。頭が良過ぎて、こっちが変に勘繰かんぐってるだけよ」


 微笑む多香子に麗も『そうだ、こっちが勝手に変な思い込みをしているだけだ』と思った。他の生徒の解答と照らし合わせながら『変な先入観を持ったら見誤る』そう自分に言い聞かせた。


振り返りながら多香子が言う。


「彼女が目指している学校は国語が特に難しいことで有名な全国でも最難関の学校……」


「そうなのね。あの学校に合格する子の国語のレベルは小学六年生のレベルではないものね。入試問題の出典がかなり難しい文章であるうえに出題される問題の大半が記述問題……」


「そう、しかも、その記述解答は、いざ書くとなると、決して解答欄は大きくなくて、難しい解答を上手にまとめる力も必要ね」


「でも、この解答を見る限り、彼女は既にそういう力を持っているようね。なんていうか、与えられた文章を読み、問題に対し、即座に自分の考えをまとめて解答を書き上げる力……それは、与えられた状況に対して即座に対処法を考え、それを上手に人に伝える力……」


何かを思い返すように麗が言う。


「え? なに?」


「いえ、なんでもないわ。ちょっと思ったこと……」


◇◇◇◇◇◇

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