第63話 VSズルドーガ⑧
ドプンと水に沈むように影へと落ち、俺は”影世界”へと足を踏み入れる。
目の前が真っ暗になる。
しかし、今度は自覚し、意図的に
ただの暗闇ではない。
その黒の中にも濃淡がある。
恐らくそれは、地上で見えていた影の濃い部分と、この世界の中の淡い部分がリンクしているように見えた。
つまり、あそこが出口だ。
スキルを使う前とは若干想定していたものと少し違う結果となった。
この”影世界”(と勝手に呼んでるけど)では、俺の身体の自由がそこまで効かない。少し動けるが、本当に少しだ。
それでも、緩やかに俺の身体は薄い方へと流れていく。
例えるなら、古き良き2Dゲームの氷のステージのように、一度方向を決めれば、何かに当たるまで滑っていくような感じだ。
なるほど……闇の濃い部分から入って、淡いところを滑り、別の濃いところから飛び出す感覚……滑り台何かに近い感覚だから、初めての発動の時俺は急浮上したと感じた訳だ。それがこの<影渡り>の正体か。
つまり、影の薄いところから意図的に出ることは出来ない。
入り口にも出口にも、一定以上の影の濃さが必要になるという訳だ。
今は闇火球によって真下に自分の濃い影が出来たから自然と”影世界”へと入れたが、そこは今後の検証次第かな。
少し目を凝らすと、前方に広めの範囲で濃いところが同じ高さにある。
これは多分、闇火球で出来たズルドーガ自身の影だろう。
正面の上方にも濃い部分が見える。
恐らく、あそこが俺達の狙いだ。ユキのスキルによって作った人工の影。
あそこを目指す!
瞬間、俺の身体が滑り始める。
『ぬおっ!?』
直感的に、あの上方の影に寄って行ってるのだと理解する。
これがスキル……! 恐らくは思考した瞬間に俺の魔素とやらが反応して何らかの作用を及ぼしているんだろうが、俺には分かる訳もない。
ただいま重要なのは、あそこから出られれば、俺はズルドーガに致命傷を与えられるということだ。
俺は吸い寄せられる感覚に身を任せる。
出た瞬間、剣を突き立てる……!
一回目と同じような、水面へと浮上するような感覚。
勝負は一発……!
これはゲームであってゲームではない!
いくら巨大な身体を持とうと、いくらスキルや魔素の鎧何て言う強化要素があろうと。
HPがゼロになれば、死ぬ――。
それは、敵も同じだ。
そして、相手が生き物である以上必ず弱点はある。
上半身が人間の形をしている以上、奴の胸の奥には心臓があるはずだ。
そこを突ければ、HPに一撃必殺のダメージを与えられる可能性が高い。
しかし、奴には風の防壁がある。近づいても、剣での防御がある。
奴の警戒を掻い潜るのは至難の業だ。
だったら、完全な不意打ち……意識の外からの攻撃が出来るのであれば、勝機はある。
それが今、ここ……!!
恐らく一発勝負……ここでしくじれば、奴は俺のスキルを確実に理解する!
そうなれば、二度とこの不意打ちは効かないだろう。
――だからこそ、面白い!
俺はこんな状況だというのに、口角が上がってしまっていることに気が付く。
だめだだめだ、集中!
そして、一気に浮上していたからだは、そのまま
「テンリミ!?」
「いつの間に!?」
開ける視界――。
目の前には壁――ではなく、ズルドーガの分厚い胴体。
俺はほぼ脳を介さず、脊髄でクリスタルブレイカーを引き抜く。
そして、<硬質化>で剣を固定し、<突撃>を発動する。
「フッ――!!」
『なっ――』
その紫の結晶が輝くクリスタルブレイカーは、闇の中にあっても鈍く光る。
紫の剣閃が、ヒュン――と、一直線に突き抜ける。
それは、的確にズルドーガの心臓を貫いた。
『ウ――――ウオァアアアアアアアアアアアア!!!!!』
耳をふさがないと鼓膜が破れそうな程の叫び。
俺は一気に剣を引き抜き、地面に着地する。
ズルドーガは心臓を押さえ、溢れる血を堰き止めようと足掻く。
「どうなってるそれは!? スキルか!?」
慌てて駆け寄ってくる佐々木。それに続き、ユキや馬場、他アイアンナイツの面々が集まってくる。
「まさか、心臓を貫いたのか……!」
「これは……かなりのダメージを与えていますよ!」
盛り上がる周りと相反して、俺はズルドーガの危機回避能力を実感していた。
「まだだ、あの感触……ギリギリのところで
ズルドーガの野郎、俺の剣を体内に生成した風で済んでのところで軌道をずらしやがった……致命傷まではいっていない……!
「だが、これで――」
『忌々しい……!!』
心臓を揺らすような声が響く。
『忌々しい首なしの影まで操るか……!! 仕方ない……門が開いてしまったのなら……嘆かわしいがここは引かせてもらう……!』
「まずい、逃げるぞ! だめだ逃がすな! この不意打ちはもう効かない、ここで仕留めるしかない!!」
しかし、ズルドーガはその羽を羽ばたかせ、飛び立とうとする。
ものすごい風圧が地上を襲う。
「くっ、何てパワー……!」
「地面に叩き落す! 遠距離部隊行けるか!?」
と俺達が後方の仲間たちを振り返ると、そこにはさっきまで戦っていた泥のゾンビが無数に復活し、攻撃を邪魔し始めていた。
「!?」
「くそ、ユキ、佐々木! ラストチャンスだ、あいつを地上に引き摺り下ろす!」
「奇遇だな、私もそのつもりだったさ!」
ここが……ラストチャンス!!
天才廃ゲーマーによる規格外ダンジョン攻略~ゲームで培ったプレイスキルで無双していたらバズってました~ 五月 蒼 @satuki_mail
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