第62話 VSズルドーガ⑦
頭上を遠距離魔術スキルを使う探索者たちの攻撃が、まるで飛び去って行く被告期のように通り抜けていく。
しかし、それはズルドーガの放つ風で着弾前に弾き飛ばされ、空間の端、暗闇の中へと消えていく。
恐らく、風魔術スキルによる簡易防御だろう。体の周りを常に暴風が吹き荒れている。あれに近づくのは生半可ではない。
「くっ、風の防壁とはやるじゃないか!!」
「楽しんでる場合じゃないですよ、佐々木さん……! 次の攻撃がきます!」
「援護しろ!!」
繰り広げられるズルドーガとの闘い。
それを間近で見るユキはごくりとつばを飲み込む。
「最前線での戦いなんて全然見たこともなかったけど……これが……」
「風魔術スキルの防壁か。通常の手段じゃ近づくのも難しいな」
さっきまでズルドーガに肉薄していた佐々木たちは、新たに発生したその防壁に苦しめられていた。
「だったら、今こそ俺たちの出番だぜ」
「次のデバフ攻撃を合図に、正面の不意打ち……よね」
俺は頷く。
ズルドーガのデバフ攻撃、<懺悔>と<贖罪>はモーションが大きい。
その隙をつけば、おそらくユキの攻撃も俺の想定する距離までは近づけるはずだ。そうすれば、俺のあのスキルを使えば、うまくいくはずだ。
<影渡り>を使ったとき、俺の体は何かに沈んだ。
そして気が付くと、俺はズルドーガの頭上に飛び出していた。
なんとも奇妙な現象(スキルだけど)……。瞬間移動ともいえるだろうが、体感からして一瞬というわけでもなかったのを覚えている。
今からあのスキルを試す時間はない。
ぶっつけ本番。だけど、俺にはそのスキルが使いこなせるという確信があった。
一回目の発動は恐らく無意識で、直感的に動いた結果自分でも自動で移動したように錯覚した。
だが、あの時俺はただひたすらズルドーガからの攻撃を避け、逆転の一発をお見舞いすることだけを考えていた。
ここは、死の帯のような、俺の直感さえ拡張してしまうような異空間だ。だとすれば、俺が無意識でスキルを制御していたとしても不思議ではない。
すでにリキャストは上がっている。準備は出来ている。
「本当にそれだけでいいの?」
姿勢を低くし、ズルドーガと佐々木たちの攻撃との隙を伺いながら、ユキは真剣な顔でこちらを見る。
「まっすぐ氷塊を出すだけで良いなんて」
「あるだろ? そういうスキル」
「まあ……あるはあるけど……。けど、あれは四連の氷の棘を下から突き上げるように繰り出すスキルで、ただまっすぐいくだけだから簡単に弾かれるわよ……?」
「いいんだよ、その隙を利用する」
「隙って……そんなもの出来るの?」
「あぁ、まあ見てろって! ゲームはトライ&エラーが大原則! やってみないと始まらないって!」
まったく……とユキはあきれて頭をうなだれる。
それでも、嫌よとは言わなかった。
「危ないのはテンリミ、あなたなんだからね」
「任せておけよ」
「……分かったわよ。あなたのゲームセンスとやらに託すわ」
そう言って、ユキは少し呆れながらも俺に託し、覚悟を決める。
俺たちは息をひそめ、隙を伺う。
この佐々木たちの猛攻の中、こちらまで意識が向いているとは思えないが、それでもこいつは八王と呼ばれ畏怖されるモンスター。油断はできない。
そして少し経ち、とうとうズルドーガはその両腕の剣を持ち上げ、紫色のオーラをまとわせる。
「来るぞ、<懺悔>だ……! いくぞユキ!」
「――ええ!!」
俺たちは一気に走り出す。
その動きをいち早く視界にとらえたのは、最前線を張る佐々木だ。
「テンリミ!?」
困惑気味に俺達の方を振り返る。
「俺たちに任せろ!」
「! ……見ものだな!」
俺たちは一直線にズルドーガへと走り込む。
ズルドーガが剣を振りかぶるモーションの中、すかさずユキへと合図を送る。
「今だ!」
「信じるわよ……! <アイスピラー>!!」
瞬間、氷の剣山が、波のように地面を這いズルドーガへと襲い掛かる。
「だめだ、その程度では風の防壁で弾かれるぞ!!」
「何を狙っている……!?」
「ここからだよ!!」
瞬間、俺は上空に向かって<闇火球>を繰り出す。
『……?』
それは、まるで花火のように打ちあがり、疑似的な太陽のように周囲を照らす。
その瞬間、ユキの繰り出した氷山の影が、ズルドーガの体へと落ちる。
「これを待ってたぜ……――<影渡り>!」
瞬間、俺はその場から一瞬にして落ちるように消える。
そして――ズルドーガの胴体に落ちた氷山の影から飛び出した。
「「「!?」」」
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