第61話 VSズルドーガ⑥
俺たちは佐々木たちの戦闘を観察しながら、周囲をぐるっと走りながら隙を伺っていた。
「新スキル……!?」
走りながら、ユキは驚愕の声を上げる。
「ジョブのレベルアップで獲得したの?」
「いや、称号だかなんだか」
すると、ユキはハッとした顔をする。
「うそ……じゃないのよね?」
「俺がゲームでウソ情報ながさないって」
ユキは何やら考え込む。
「どした?」
「称号は一部の探索者しか得られない超希少な固有のものよ。そんな、あなたがそれを……?」
「へっへ、凄いだろ」
「凄いけど……称号は未知なものが多いの。そもそも、”女神”の存在が出てくるからややこしくて」
「女神?」
「称号を貰うとき、声がしたでしょ? あれは別にシーカーの機能でもなんでない。だからこそ、謎なの。誰が言い出したか、女神と呼ばれてるわ」
ユキは神妙な顔で続ける。
「探索者が得た様々なスキルは”魔素の鎧”に蓄積されて、シーカーでそれを読み取りデータ化している。だから、スキルをスキルとして分類し、私達に提示しているのはシステム側なのよ」
そういえば講習でそんなことを教わったことを思い出す。
レベルやジョブ、スキルの概念も、俺たち探索者の”魔素の鎧”をシーカーが読取データ化している。
つまり、魔素をどう解釈するかは人間次第なのだ。
「けれど、称号はそれとは違って謎だらけ。称号はダンジョンから与えられるの」
「ダンジョンからって……意志があるのか?」
「そうとしか考えられない。それを含めて、今研究されているの。あるいは超高位の探索者による付与という線もあるみたいだけど……完全に不明ね」
そういってユキは肩をすくめる。
このダンジョンはいまだ謎が多い。八王の存在が何らかの解明に繋がるきはするのだが、まだ一体も倒されていない。
ここで、一体目を倒せばお祭り騒ぎだな。
「まあ、俺には関係ないな」
「えぇ!?」
ユキは驚いて素っ頓狂な声を上げる。
「当事者でしょ!?」
「まあ、そもそも考察厨でも世界観好きでもないし。俺はとにかく強い奴と戦って、俺の力がどこまで通用するのか試したいんだよ。だから、貰えるもんなら貰って、使えるもんは使う! それだけさ」
「……呆れた。けど、君はそういう人だったね。実は佐々木さんも称号持ちなの。気になるなら聞いてみるといいわ。まあ、隠しても構わないと思うけどね」
「それも――」
瞬間、ドゴーン!! と爆発音が響く。
ズルドーガの右肩にようやくまともに魔術が着弾したのだ。
「戦況が動き出してきたな……俺たちも行くぞ! まずは、こいつを倒さないとな、生きて帰れないかもしれねえからな」
「そうね、まずはこいつを……! テンリミ、その新しいスキルっていうのはどういうものなの? 使えそう?」
「正確な能力はわかんねえ。でも、さっき使った感じかなり汎用性は高そうだったから、ぶっつけ本番で試していくしかない」
「ふ、不安しかないわ……けど、やるしかないわね」
ユキは後方を見る。
さっきの爆発音を皮切りに、佐々木をはじめとしたアイアンナイツのメンバーがさらに必死にズルドーガへと猛攻を仕掛けていた。
最高練度のチームワークと、圧倒的な個の力。
それが合わさっているのが、あのアイアンナイツだ。
ただの企業的なクランかと思ったけど、さすが長い間最前線を走っている連中だ、なかなかやる。
俺以上に様々な種類のモンスターと戦い、様々な苦難を乗り越えてきたんだろう。
何日か合わせる期間があればまだしも、出会ったばかりの今の俺があの連携に入って役に立つ未来は見えない。
だからこそ、佐々木も俺を遊撃として別動隊にしたんだ。
ズルドーガはさすが八王というだけあり、佐々木たちの連携をものともしない。
攻め込めて入るが、さっきの魔術による攻撃以外はまともに攻撃を当てられていないようだ。
正面からの攻撃は弾かれ、時折放たれるあのデバフ攻撃にかなり神経をすり減らしている。
このダンジョンにおける安全策ともいえる”デッドライン”。
死んでもいいという精神緩和がもたらすパフォーマンスはすさまじかっただろう。
だが、ここでは”死ぬかもしれない”。そうなったとき、人はやはり委縮するのだ。
しかも、デバフを受ければ解除の方法は今のところ不明で、生きているのに即戦力外だ。慎重にならざるを得ないのだろう。
こういう膠着した局面こそ、俺たちのような遊撃部隊が隙を作る!
「ユキ、次のズルドーガのデバフ攻撃で一気に攻めるぞ」
「作戦は?」
「俺の<影渡り>を使う。ユキの氷魔術スキルと合わせて、正面からの不意打ちだ」
「正面……不意打ち?」
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