第60話 VSズルドーガ⑤

「佐々木さん、なんかしゃべってましたってあれ!!」

「知らん! お前はさっさとバフを撒け!」


 まったく、と馬場はあきれ気味にため息をつく。


「佐々木か、なかなか気が合いそうじゃん」

「確かにテンリミと同種かも。……それより、来るわよ、ズルドーガ……!」


 ズルドーガは手を天にかざす。

 瞬間、ものすごい風が吹き荒れる。


「うおっ、えぐいな……! これもスキルだって!? どんだけすげーんだよスキル!」


 やべえ、興奮するぜ!!

 俺も使えるのかこれ!? てか、何が起こる!?


「こんな時までわくわくして……! ――あ、テンリミ見て! 周りに……!」

「竜巻!?」


 それは、天高く伸びる竜巻だった。

 それは轟轟と荒々しい音を立てながら、ものすごい速さで回転する。

 その嵐の柱が、周囲に四本、同時に出現したのだ。


 風圧はすさまじく、俺たちは目が開けられなくなる。


「環境そのものを変えるほどの力……! これが八王か!」

「だが、私たちはそれに対抗するだけの力があります……! <暴風の加護>……!」


 瞬間、さっきまで苦しかった風が、まるで窓を閉めたかのように感じなくなる。

 自分の身体と周囲の外気の間に空間が出来たような、そんな感覚だった。


「私のスキルで極風耐性強化を付与しました! 効果時間は長くないですが、バックアップは任せてください!」

「すげえ、これがバフか……!! 」


 ゲームなんかでもバフデバフはめちゃくちゃ重要だが、所詮は画面の中の数値でしか効果を見れていなかった。

 実際にこうやって暴風の中に平気で立っていられると、なんだか不思議な感覚だ。


『愚か者どもめ……汝らの罪を我が浄化してやろう』

「お断りだぜ! いくぞ、ユキ! まずは佐々木に続いて近距離から攻撃を加える!」

「ええ!」


 先を見ると、佐々木は真っ先にズルドーガへと切り込んでいった。

 風を使った移動スキル! とてつもない跳躍は、佐々木をズルドーガの顔へと運ぶ。


「あいさつ代わりだ、八王! <辻斬り>!!」


 鞘にしまっていた二本の刀を、スキルで叩き込む。

 超高速の抜刀術……!


 風をまとった抜刀は、周囲をすべて切りつける刃と化す。


 しかし、それをズルドーガは一つの風で吹き飛ばす。


「ほう……!」


 そして、空中に留まる佐々木に向かって、紫の幻刀が振り下ろされる。


「あれは……! まずい、よけろ! 封じられるぞ!」

「ソロプレイヤーはこれだから! 安心しろ、ここにいるのは私が集めた精鋭だぞ!」

「!」


 瞬間、男が二人一気に佐々木の横まで到達すると、ハンマーと大剣を振りかぶり、その攻撃を受け止める。

 いや、正確には、それを振りぬこうとするズルドーガの腕を押さえつけたのだ。


「連携がすげえ……!」

「我々をなめるなよ!」

「百戦錬磨のアイアンナイツ! 八王相手にも一歩も引けを取らないさ!」

「驚くのはまだ早いぞ、テンリミ!」


 そういうと、佐々木は落下しながら合図を送る。


 それは、一斉射撃の合図。


 周囲の遠距離アタッカーたちが、馬場のバフを得て高火力のスキルを発動する。

 火の玉、高速の矢、滝のような水流、雷の渦。


 それらは息を合わせたかのように、ぴったりとズルドーガへの着弾タイミングを重ねる。


「よし!」

「やったか?」

「気が早いですよ! ですが、確実にダメージは――」


 しかし、スキルの着弾時に舞い上がった煙がはれたそのズルドーガの顔は、一ミリの傷もついていなかった。

 まるで防御でもされたかのように。


「「「!?」」」


 驚愕するアイアンナイツの中で、一人だけ目を輝かせるのは、その女だった。


「強い! いいねえ……それでこそ王だ。ぶった斬りがいがあるってものさ!」

「佐々木さんがそう言ってくれると安心しますよ……!」


 苦笑いながらも、馬場は何とか笑みを浮かべる。


 連携のすさまじさに驚きながらも、俺は静かにズルドーガの動きを観察していた。


 この連携のスキを縫えば、恐らく不可避の一撃を決めることができる。

 問題は、この<影渡り>……! この効果が俺の想像通りかどうかにかかっている。


「試すか、このスキル!」

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