Divive13「ブレイン」

 昼休み、折村積姫おりむらつみきは楽し気に首を横に揺らしながら、鼻歌を歌っていた。その様子が気になってか、クラスメイトの星城渚せいじょうなぎさが声を掛けて来た。


「積姫ちゃん、随分ご機嫌だね。何かあったの?」

「実はね~今度の夏、パパとママと一緒に日本に行くことが決まったんだ~」


 嬉しそうな積姫の表情を見て渚は嬉しそうに笑っていた。そこへ、昼食を食べ終えたレッカが隣の席に座った。


「なんだ、日本に行くのか?」

「ちょっとレッカ君、女の子の話に割って入って来るのは失礼だと思うよ!」


 渚に指摘され、申し訳なく苦笑いしながらレッカは返事をする。


「悪かったって、つい気になっちまってよ」

「別にいいって!それよりさ、レッカのママって確か日本で働いてるんだよね?どこかオススメな所ってないかな?」


 目を輝かせながら聞いて来る積姫に、レッカは顔を赤くしながらその質問に答える。


「えっと……確か、母さんのいる鎌倉に鶴岡八幡宮………だっけか?って神社があって………」

「うんうん!」

「後は……江の島だったかな、そこの水族館がとても有名だな。俺も昔行った事あるけど……小さい頃だからあんま覚えてないんだけど」

「へぇ~この島って水族館なんてないから、すっごく楽しみ!」


 レッカの話を聞いて積姫は凄く嬉しそうだった。そんな彼女の笑顔を見ているとこっちまでニッコリしてしまう。更に日本について話をしようとするが………


「オイ、レッカ大変だ!飼育小屋の鶏が逃げ出した、お前も手伝ってくれ!!」

「ちょ、おまっ…!それぐらい自分でって、うわぁ――!」


 突然、クラスメイトの一条圭いちじょうけいと畑山ノボルが来てレッカを教室から引っ張り出して、走り去って行った。

 その様子を見た渚と積姫は気まずそうに笑っていた。


「アハハ……全く、男子ってわんぱくだねぇ」

「うっ……うん。レッカ君も大変だな~って」


「ぐぬぬ………今いい所だったのによぉ」


 圭に引っ張られながら、レッカは連れ出された事に涙しながら嘆いていた――――――







 学校が終わり、レグルス本部に訪れたレッカ。アンバーリベリオンのメンテナンスをしている最中、頭に違和感を感じ右手で自分の頭を触っていた。


「ん………げぇっ、ずっとくっ付いてたのかよ」


 何かが頭に絡んでおり取り出してみると、鶏の羽が絡まっていた。どうやら逃げ出した鶏を捕まえる際に、頭に絡みついてたのだろう。そこへミオンが手帳の様な物を持ってこちらにやって来た。


「おーい、レッカ~これ、落としてたわよ。大事なものじゃないの?」

「ん?マジでか、悪いな」


 持っていたのは、レッカの学校の生徒手帳の様だ。どうやら気付かぬ内に落としていた様だ。礼を言いながらレッカはミオンから手帳を受け取ろうとした……が、急にミオンは手帳を持った手を上げた。


「ねぇ、この娘……この間、アンタと一緒にアルデバランの山に来てた娘達よね?ちょっと聞かせなさいよ!」


 悪そうにニヤニヤしながら、ミオンがレッカの首に腕を回す。彼女のもう片方の手には、入学式の時にレッカ、渚、積姫、圭、ノボルと一緒に撮った写真が握られていた。


「お前……っ、何のつもりだよ?」

「いやいや、ただ聞きたいだけじゃないのよ。ねぇどっちが好きなの?一緒に遊ぶ仲なんでしょ、どっちがタイプなの?大人しそうな方?それともこっちのイケイケな方?」


 これでもかとぐらい、ミオンがしつこく問いただして来た。年頃の少年の色恋沙汰に、興味深々の様だ。恥ずかしくなったのか、レッカは顔を赤らめて横を向いていた。


「あっ、あのなぁ………」

「アンタも年頃の子なんだから、気になって当然よね~いいわね、青春って」


 目を輝かせながら、顔を近づけるミオン。あまりの近さに、彼女の胸が背中に当たってしまっている。レッカはミオンの肩を掴んで、引き離そうと押し出そうとしている。


「いいじゃないの、教えなさいよ~!告白する予定は?手とか出さないの?どこが好きなの?」

「このっ、いい加減に………!」


 我慢の限界が来たのか、レッカが強く怒鳴ろうとしたその瞬間、ミオンの頭に何かが叩きつけられる。


「いたっ!何するのよ………!?」

「それはコッチのセリフだ。お前、軽くセクハラだぞ」


 グレイがデバイスを持ってミオンの後ろに立っていた。頭を押さえて、ミオンは涙目でグレイに訴えかけた。そんな彼女をよそに、落ちた生徒手帳を拾い、レッカに渡した。


「お前も、こんな大事な物落とすからコイツに妙に絡まれるんだ」

「あっ、あぁ………悪いな、グレイ」


 手帳を受け取ったレッカは礼を言いながら、ミオンの方を冷めた目で見ていた。


「後、コイツにその手の話はしない方がいいぞ。ロクな事にならなくなる」

「あぁ、言われなくても、そんな気はするよ」

「酷いわね、アタシはちゃんとアンタの恋を応援したくってね」


 肩を回して、ミオンは言う。だが、レッカはどうも信用出来ないという目で彼女を見た。


「………」


 その会話を沙織は陰から聞いていた。沙織は気付いている、渚がレッカに想いを抱いている事に。だけどレッカはそれに気づいていない、いい加減気付いてやれと、分かってやれと苛立ちながらその場を後にした。





「はぁ~何でこう鈍いのかしらね、アイツって」


 街の方へ出た沙織。自販機でジュースを飲みながら怒りを零していた。飲み切った缶を思いきりゴミ箱に投げ、中で物凄い音をさせていた。


「沙織ちゃん……何してるの?」


 そこへ、薄いピンクのフリルのスカートに白いブラウスを着た渚と遭遇した。


「あっ、渚ちゃん……」


 偶然出くわした事に気まずい表情を浮かべる沙織。そんな彼女に渚は笑顔で答えた。


「どうしたの?あっ、もしよかったら今から一緒にお茶しない?丁度近くのカフェで一息付こうとおもってさ~」

「えっ、あっ……いや、アタシまだ仕事が……」

「色々話したい事あるし、ちょっとだけ……ね?」

「……分かったわよ。ちょっとだけだからね」


 沙織も渚の押しには弱い様だ。いわれるがまま、自販機から200m先にあるカフェ『カームウェア』に訪れた。席に座り、渚はカフェオレを沙織はホットドッグとコーヒーを注文した。


「沙織ちゃんは、今はやっぱり………」

「えっ、えぇ……まぁね」


 渚は沙織がG.D.Oゴッドに所属している事を把握している様だ。幼い頃からの仲で家の事情もある程度知っている。


「そっか………色々、大変なんだね」

「まぁ、慣れたもんよ。ところで渚ちゃん、レッカとは……どうなの?」

「え………?」


 沙織の一言に、渚は思わず全身が固まった。


「あっ、違う!そういう意味じゃなくて!!」

「その!まだそういうのは考えてはいなくて、でもいつかは……なんて思ったりとかなんとか……ずっと一緒にいたら…ねぇ」


 突然鳴る目覚まし時計みたいに、渚は急に立ち上がり、饒舌に話し始めた。思わず、レッカに対する恋心を口にし、それを聞いた沙織や周りの客は唖然としていた。


「あっ………ゴメンなさい」


 我に返った渚は、あまりの恥ずかしさにしゃがみ込む様にして座り、顔を下に向けた。


「なんとも思ってないって言ったら……嘘になるよ。でも……」

「でも?」

「レッカ君、他に気になってる人がいるんだ。その娘、私とも凄く仲良くて、明るくて、好きになっちゃうのも当然だなって…」

「そっ……そうなんだ……アイツぅ……!!」


 渚ちゃんがこうも想っているのに、何よアイツ!!他に好きな人がいるですって?その目は節穴か?ちゃんと気付いてやれ、あのおバカ!!こっちまで怒りに満ちちゃうじゃない。


「あっ、レッカ君を責めないであげて!レッカ君の気持ちも大事だから………それに、私がちゃんと言わないのも悪いし」

「渚ちゃん……まぁ、その相手に負けない様に頑張って!アタシも応援するから!!」

「えっ……?あっ、うん。ありがとう!」


 沙織が渚の手を握り、彼女の恋路を応援した。その勢いに苦笑いしながらも、渚は瞬時に笑顔で答えた。


「ん?あぁ、もうこんな時に!ごめんね、もう行かなきゃ!」

「うん、気を付けてね!」


 沙織のデバイスが鳴り出した。召集のメッセージが送られていた。慌ててホットドッグを口にしてコーヒーで流し込み、小銭を置いて急いでその場から走り出した。その様子を見て渚はニッコリ笑いながら見送った。


「大変だなぁ、沙織ちゃんも」









「珍しく遅いな、何やってたんだ?」


 数分後、沙織がミーティングルームに入ると、レッカが声を掛けて来た。渚の話を聞いて、彼に頭にきていた沙織は思いっきりその足を踏みつけた。


「いって―――!?お前、何するんだよ!」

「フンっ!」


 その様子を見ていたミオンはレッカは何かしでかしたのではないかと思い、耳打ちで聞き出そうとする。それにレッカは涙目で「俺が聞きたいわ!!」答えた。


 そこに静香が大きく「コホン」と咳き込み、話を始めた。


「静粛に!これよりミーティングを行う。まずはコレを見てくれ」


 モニターに映像が映し出された。その映像は別の人工島に現れたゴーレムとその島のG.D.OのPSパワードスーツ部隊が戦闘を繰り広げているものであった。レッカはこの映像に何があるのかを静香に尋ねる。「すぐに分かる」と神妙な表情で答え、次の瞬間、その映像に衝撃が走った。


「ちょ……何よコレ……!?」

「しっ、信じられん……コイツは一体……」

「なっ、何なんだよ、部隊が次々と……」


 戦闘しているPSが次々と破壊され、抵抗するワイバーン1機が串刺しにされていた。串刺しにした張本人は………全体が灰色で、所々に薄いオレンジ色のラインが描かれ、頭部は球体の中の単眼モノアイが生きている様にうごめいており、両腕に大型のガントレットを装備し、右手には刃の付いた棍棒の様な武器を持ったPSらしき個体であった。しかし従来のPSの様な機械的、ではなく、どこか生き物の様に感じられる


「違法PS……なのか?」

「いや、奴は………ゴーレムだ」

「はぁ!?」


 レッカはその答えに驚き、立ち上がった。PSの様な姿をしながらゴーレムと呼ぶのだから仕方のない事だろう。


「アレは近年、突如と現れ我々に攻撃を仕掛けている。そして極めつけは………」


 映像を再開した。そこに映し出されたのは……他のゴーレムに支持を与えるように手を動かしまるで言う通りにするかの様にゴーレム達は動き出し次々と部隊を壊滅させていった。本当にゴーレムなのか?それすらも半信半疑だが、人類の敵である事には間違いない。そのPSの様な姿をしたゴーレムの事を「″ブレイン″」と、静香は呼称した。


「ブレイン………ゴーレムの親玉みたいなものなのか……?」

「それについてはまだ調査中だ。しかし、奴がゴーレムの正体や目的に大きく繋がると総本部は推測している」

「少なくとも、放っておける奴じゃないな………」


 映像を見る限り、ブレインは計り知れない強さを持っている。PS部隊をたった1体で全滅まで追い込み、ゴーレムを操る、そんな相手を前にして勝てるのか?そんな不安がどこかにあった。


「けど、目の前に現れたら戦うしかない、だろ?」


 グレイが冷静に口を開いた。その言葉にレッカは立ち上がって、宣言する様に言い放った。


「あぁ………だったら、俺がソイツを倒す!そして…1日でも早く、平和を取り戻すんだ!!」

「そうね、あんな奴に好き放題させてたまるもんですか!」

「出来ればやり合いたくないけど………やるしかないわね」


 その言葉を聞いて、静香は安心するかのように微笑んだ。臆せず、困難に立ち向かおうとする彼らの姿に。


「ブレインがこちらに出現次第、ベテルギウス、カノープスと連携しコレの対処にあたる!ゴーレムを捕獲する絶好の機会でもあるからな」


ゴーレムを大量に引き連れて来るなら絶好の機会………力の見せ所ってわけだ。それにしてもブレイン………映像で見ただけでもとんでもない強敵だ。コイツの対処をしながらゴーレムの捕獲もする………か。


「ここでゴーレムの捕獲すれば俺は一気に大出世って奴か?いいぜ、やってやる!!」

「大した自信ね、でもアンタだけにいい恰好はさせないわよ!」


2人は自信満々の様だ。もしかしたら本当に出来るのかもしれないな……あの日、私達に出来なかった事を………彼らなら。



 To be continued…

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アンバーTHEリベリオン イオ・りん @IORITUKIMIYA

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