Divive12「合同訓練」
「………完全に寝坊だ」
6月に突入し、梅雨に入った季節。窓に写る曇った空を、見上げながら、レッカは目覚まし時計を手にしていた。時刻は9時40分、手を震わせながら急いでベッドから飛び出した。
「ヤバい、ヤバい!!完全に怒られる!アイツに何言われるか………」
急いで着替え、歯を磨いて、慌てて家を飛び出す。今にも雨が降りそうだが、急いでたのもあってか、傘を持ってかずに走っていった。
「……遅い」
ミーティングルームにて、腕時計を眺めながら、沙織は地団駄を踏みながら苛立ちを露わにしていた。その様子を、茶髪にオレンジ色の隊員服を少年と、薄いピンク色のポニーテールに、黄緑色の隊員服を着た少女が面白いモノを見る様にして笑っていた。
「こんな日に遅刻するとは、大した度胸じゃないか」
「そうね~まっ、楽しみなのは変わらないけど」
「はぁ……悪いわね、キース、エリー」
沙織は呆れた表情をしながら謝った。オレンジ色の隊員服を着た少年、キース・クライアンは沙織の方を見て、皮肉そうに言う。
「まっ、あんまり大した事のなさそうな奴だな、ソイツは」
その様子を、椅子に座っていた黄緑色の隊員服を着た少女、エリー・スレインがクスりと笑いながら、キースに言った。
「でもその彼、この2ヶ月ちょっとで20体以上のゴーレムを倒してるんでしょ?キース、甘く見てるとあっさりこう、ね?」
「うるさい!そんな奴に俺が負ける訳がないだろ。軽く捻ってやるさ」
高らかに鼻で笑いながら、宣言するキース。「やれやれ」とう表情でエリーは顔を逸らしながら目では笑っていた。
「あっ、来たわね、沙織がお怒りよ」
「はぁ……ハァ……間に合って……ないよな?」
「当り前だろ。1時間だぞ」
時刻は10:30。家から走って約50分、ようやくレグルス本部へ辿り着いた。入口付近でミオンとグレイが待ち構えており、目くじらを立ててこちらを見ていた。
「事前に知らせたよな?今日、合同訓練がある事は」
「あっ、あぁ……そりゃ、みっちりと」
「よかったわね、今日は司令が会議で。いたら小一時間説教だったわよ」
「さっ、待たせてるんだから、行くわよ」
2人に連れられ、レッカはミーティングルームまで向かって行った。
「よぅ、遅刻はいいご身分だな?ぐっすり眠れたか?」
ミーティングルームへ入ると、
「アンタ!!この期に及んで遅刻とはどういう事なの?たるんでいるにも程があるんじゃないかしら!」
「うっ………申し訳ございませんでした」
思わず、敬語で謝ってしまった。悪いのは自分だが、必要以上にいざ怒鳴られると、少しだけ不満に感じていた。そんな彼らをよそに、エリーが笑いながらこちらに向かって歩いてきた。
「あー、君が噂の?私はカノープスのエリー・スレイン。面白いモノ見れたから今回は多めに見てあげるね」
エリーが握手を求めて来た。レッカもそれに応じた。面白そうにこちらを見てくるのに対し、苦笑いで返した。
「そいつが銀河レッカか。遅刻とはいい度胸だな」
「なっ、何だよいきなり……」
キースもレッカの方に、嫌味を垂らしながらこちらにやって来た。
「噂によりゃ、この短期間で多くのゴーレムを倒したとか。本当に倒したのか?」
「……どうだろうね?噂になってるって事は本当なんだろうな」
上から目線で物を言うキースに対し、ムキになっているのか、レッカも嫌味を込めて言い返した。
「コラ、辞めなさい。キースも」
そこへ沙織が割って入って来た。2人を引き離し、レッカの方を向いた。
「っく、アンタも早々に喧嘩腰になるんじゃないわよ」
「仕方ないだろ、あっちがやる気満々なんだから」
「ハイハイ、とにかく、時間も押してるしさっさと始めましょ」
沙織の言葉と共に、一同はミーティングルームから訓練場へ向かって行く。
「へぇ、カノープスって全員女性で構成されてるんだな」
「えぇ、変わってるでしょ?先代の司令官の方針なんですって。もう華しかないわよ」
西方支部カノープス、先代司令官であるクロネア・ハーレインの意向の元、所属する隊員全員が女性で構成されている。それ故か、どこかお嬢様学校の様な雰囲気があるという。逆に東方支部ベテルギウスは漢臭いと呼ばれる程、熱気に溢れているそうだ。
「そういや、そちらのコマンダーはどうしたの?」
沙織がエリーに問いかけた。
「それが生憎、別任務でね。今日は私達だけって事。ベテルギウスのコマンダーさんと共にね」
レグルスに訪れたのは、エリーを含むカノープスのディバイダー4名、ベテルギウスからはキースを含め6名だった。どの支部も人手が少なく、常にギリギリの状態だ。
「さてと、これより3支部による合同訓練を始める!と言っても、数少ない交流みたいなもんだ。硬くなる事はないぞー」
訓練場に着き、斗真の宣言により訓練は始まった。基礎的な体力づくり、組手、
「はぁ~!あと一歩だったのによ」
「アハハ!沙織から一本取ろうだなんて100年早いんじゃない?何せ、訓練生時代から生身で勝てる人なんて1人もいないぐらいなんだから」
エリーの言葉に、レッカは顔を引きつらせながら反応していた。キース、エリー、そして沙織の3人は訓練生時代の同期。同い年なのもあってそれなりに気が合ってようだ。グレイとミオンの二人も同期、たった1人同期がいなく、レッカは少し寂しく感じてしまった。
「あの頃から、キースは沙織をライバル視していたっけ。それで、毎回、あんな風に返り討ちにあってたわね」
「フンッ!今度はそうはいかない」
キースは沙織の方を睨む様に見ながら、立ち上がった。それを「ハイハイ」と軽く受け流しながら、沙織はそっぽを向いた。
「そうだ!この後の模擬戦、アンタの実力を見せてやんなよ。いい機会じゃない?」
そんな話をよそに、ミオンがレッカに言った。急な事に戸惑っていた所に、エリーが賛同する。
「面白そうじゃん、なんなら私が相手になろうかな?」
そこにキースが割って入って来て、レッカを見下ろしながら口を開く。
「なら、俺が相手やる。コイツの実力を見るのにいい機会だ」
「ちょいと、割って入って来るのは頂けないね~」
どちらがレッカと模擬戦を行うか、口論になるキースとエリー。
そこにミオンが1つ提案をした。
「まぁまぁ、ここは公平にジャンケンで決めようじゃないの。それなら文句ないでしょ?」
「……仕方がないな」
「まっ、それなら恨みっこナシって訳ね」
そして2人はジャンケンをした。その結果は………
「ちぇっ、残念だったなぁ」
「まぁ仕方ないわよ、負けは負けなんだから」
シミュレーションルームでは、レッカとキースが模擬戦の準備を行っていた。ジャンケンで負けたエリーは頬を膨らませながら、不満気の様子を見せていた。
「で、どっちが勝つと思う?」
斗真が沙織に尋ねた。
「どうかしらね?キースの実力も確か、まず油断してたら勝てないかもね」
どっちとも言えない答えで返した沙織。レッカの実力は確か。それはキースも同様、訓練生時代、沙織に次ぐ総合成績2位で卒業を果した彼の力量はベテルギウスでも期待されている程。その期待は計り知れない。
「よし、ルールは限界到達ダメージに到達、もしくはどちらかが降参するか、以上だ」
斗真の宣言と同時に、レッカとキースはそれぞれの
「んじゃ……戦闘開始だ!!」
その一言と共に、アンバーはマルチプルライフルをソードモードにして構えて様子を伺っている。対して、グリフォスは両腰に装備されている
「正面から来るか!!」
グリフォスがスラスターを加速させて、一気にアンバーに近づいた。懐に入った瞬間、フォトンセイバーを振り上げる。
「早い―――!!」
それをアンバーはシールドで防御し、押し返しながら、ライフルモードに切り替え、グリフィスの腹部に向かって撃とうとするが、後ろに下って距離を取られる。
「っ……反応は早いな。だったら!」
グリフォスは高く飛び上がり、上空から胸部に装備されているバルカンを、アンバーに向かって放つ。
「っ――――――!!」
上空からの集中砲火をシールドを前に出して防御するアンバー。
土煙で全体が覆われる中、そこにグリフォスがフォトンセイバーを前に出して飛び込んでいく。バルカンの集中砲火が止んだ所に、飛び込んできたグリフォスの突進の激突を受け、体制を崩し、フォトンセイバーでシールドを斬り裂かれてしまう。
「しまっ―――!!」
その隙を突かれ、グリフォスの蹴りが腹部に直撃、大きく吹き飛ばされてしまう。
「よし、このまま行けばキースの勝ちだ!!」
「そのままやっちまえ!」
その様子を見ていたベテルギウスの隊員である
「コレで決着が付くと思うか?」
「……こんな所で呆気なくやられる様じゃ、そこまでって事ね。でも、あんな程度でやられるアイツじゃない」
「そうか」
グリフォスの攻撃を受け、もたれ掛かるアンバー。そこへゆっくりとグリフォスがこちらに近づいてきた。
「勝負ありだな。拍子抜けだった様だな……コレで終わりだ!」
「っ……それはどうかな!!」
グリフォスがフォトンセイバーを振り下ろそうとしたその時、身体を回転させて攻撃を回避し、背後に回り込む。
「何っ!コイツ、どこにそんな力が……!?」
「悪いね、俺だってノコノコ負けに来たんじゃないんだ!」
フォトンサーベルを左肩から抜刀し、斬り掛かろうと大きく振り上げる。咄嗟に気付いたグリフォスは振り返って、左手に持ったフォトンセイバーで受け止めようとした。だが、アンバーはフォトンサーベルを手から離し、隙が出来た所に、マルチプルライフルをソードモードに切り替え、前に出していたグリフォスの左腕を斬り落とした。体制を崩した所に、アンバーが腹部目掛けて、グリフォスを蹴り飛ばした。
「っそ!こんな程度!!」
吹き飛ばされたが、グリフォスはバックパックのスラスターを吹かせ、機体のバランスを立て直した。そこへすかさず、アンバー刀身を前に突き出して接近してきた。それをフォトンセイバーで受け止めようとするが、パワー負けし、弾き飛ばされ、喉元にソードを突き付けられた。
「ハァ……ハァ……どうよ?」
「っ…………!」
「勝負………ありだな」
抵抗する手段を失ったグリフォスを見て、斗真は模擬戦終了の合図を送った。
「嘘だろ……キースが負けた?」
「アイツ、只者じゃないな…」
「へぇ~やるじゃん、彼」
結果はレッカの勝利に終わった。その戦いを見ていた一同は感心しながらも、どこか驚きを隠せていない様だ。シミュレーションルームから出たレッカをミオン達が待ち構えていた。
「お疲れ!いやぁ~見事だったわ。あそこで逆転してくるなんて」
「まっ……まぁな。俺だってやれるっての!」
正直、自分でもあの状況で勝てたのが不思議なぐらいだ。負ける訳にはいかない、ただそれだけを考えていたら、無我夢中になっていた。周りが見えなくなるぐらいに集中していた……そんな感じだった。
「まっ、コレぐらいやってもらわなくちゃ困るわよね」
「だが、戦う中でどんどん進化を見せているな。大したもんだ」
素直に認めない沙織に対し、グレイは少し感心していた。一息付いていたレッカの元に、エリーが声を掛けて来た。
「結構やるねぇ~私が相手だったら、あっさりやられちゃってたかもね」
「いや、大した事じゃないよ」
謙虚に言葉を返すレッカ。そこに負けた事に悔しさを隠せないキースがこちらに向かって来た。
「………次は負けないからな」
そう言い残し、キースはその場を後にした。
「ありゃ、大分悔しがってるわね。ゴメンね、キースってかなりの負けず嫌いだから」
「ライバル誕生……って所ね」
去っていくキースの後姿を見て、レッカはどこかモヤモヤした気持ちを感じていた。それが何なのか、レッカ自身にもよく分かっていない。ただ、もうちょっと親しくなりたい、そんな気がしていた。そこに斗真が手を叩いて、一同を注目させる。
「模擬戦も終わった所だし、今日はお開きって所だな。みんなお疲れさん!」
こうして合同訓練は終わった。キース達がレグルスを去った後、ソファに座ったレッカは天井を見上げてぼんやりしていた。
「はぁ……」
「なに黄昏てんのよ?」
「いや、アイツらにも………戦う理由があるんだろうなって」
「………そうね、色々あるもんよ。特にキースはアタシ達とは違って軍事家系出身じゃないしね」
話を聞くに、G.O.Dに入隊するディバイダーの約7割が軍事家系や、PSに携わる家系との事。その中でもキースは数少な所謂、一般家庭の出身。入隊を望むのであれば、適性試験を受け、訓練生として迎える、それがG.O.Dの方針だ。無論、命を懸けて戦う使命を背負う事になる為、好き好んで入る者がいるかと言われればそうそういる訳ではない。
「家族を養う為にG.O.Dに入隊するって話も、少ない訳じゃないからねー出る所はそれなりに出るし」
つまり、キースはそういった理由でG.O.Dに入ったって事か…?
色んな想いで戦う奴らがいる。その為に命を懸けてるんだから、あそこまで必死になるのは当然、と言えば当然。やっぱ、俺の考えは……甘いって事なのか?
「けどまぁ、誰かを守る為に戦うってのも立派な事なんだから。そんな事、誰にだって出来る訳じゃないのよ!」
俯くレッカに、ミオンがフォローを入れる様にして肩を叩いて来た。そこにグレイも一言声を掛けて来た。
「それぞれ理由は違う、それだけなんだ」
「……だな、だったら、尚更立ち止まっちゃいられないよな!」
ソファから立ち上がったレッカは自分の頬を叩いて、駆け足でどこかへ走り去って行った。
「まっ、アイツはアレでいいんじゃないのか?もしかしたら、本当に世界を救う………のかもな」
「アンタがそんな風に言うなんて、これから大雨が降りそうね」
普段はあまり他人に興味を示さないグレイがレッカに対する反応に、ミオンは窓から曇った空を見上げながら、皮肉そうに言った。
「変わった奴だからな。それから、これから雨は降るぞ」
「それもそうね」
勢いあまって外へ出ようとした時、雨が降っているのを見て、傘を持ってくるのを忘れた事に気付いたレッカ。これからどうしますかと頭を掻きながら考えているのであった………
「あら、コマンダー。戻ってらっしゃったのですね」
数時間後、西方支部カノープス、その本部にて。待機室へ入っていったエリーが、赤いセミロングに青い腕章を付けた黄緑色の隊員服を羽織る様にして着ていた女性が、デスクに座りながらこちらを見ていた。
「よぅ、どうだったよ、合同訓練は?」
その女性は少々荒っぽい口調でエリーに聞いて来た。それに対して、椅子に座りながらその質問に答えた。
「結構楽しかったですよ。例の新人君、結構強くて、あのキースにも勝っちゃうぐらいに」
「ちょっと子供っぽいけど、案外カッコいいかも」
「なんだかちょっと、ときめいてしまいましたわ~」
訓練に同行していたディバイダー、城ケ崎とリリアはレッカの事が少し、気になってしまっている様子だ。年頃の乙女、無理もない事だ。
「へぇ、そりゃ面白いこった。あーあ、アタシも任務がなけりゃ、見れたのになぁ。司令官め、こんな日に任務を寄越しやがって………」
赤髪の女性、
「……アイツ、アタシに対して何か言ってなかったか?」
「いいえ、今日は来てないのか、ぐらいしか」
「そうか………まだ気にしてっのかな」
椅子にもたれ掛かりながら、朱音は頬杖を付いた。その不機嫌な表情はどこか、心配してる様にも思える。
(アイツ、無理してなきゃいいんだけど………)
「やれやれ」と言う表情で朱音を見つめながら、エリーは正面のデスクに座った。パソコンを開き、キース宛に「次は頑張れ」と一言メッセージを送った。
「……言われなくても、そのつもりだ」
エリーから送られたメッセージを確認し、トレーニングルームでまた身体を鍛えていた。次はレッカに負けない、その一心でひたすら、ベンチプレスを上げていくのだった………
To be continued…
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