第2章

Divive11「深海の忘れ物」

「ハァ――――――――っ!!」


 ゴーレムが現れ、アンバーリベリオンが駆けつけていた。マルチプルライフルをソードモードにして腕を斬り落とし、一歩後ろへ下がる。


「さて、コイツを試してみるとしますか!」


 ソードが消え、先端から錨が生成される。マルチプルライフルの形態の1つ、アンカーモードだ。アンカーをゴーレムの首に目掛けて発射し、引き寄せられる様に飛び込んで、後ろに回り込む。


「こっからなら!!」


 ライフルモードに切り替え、威力を集中させた一撃を背中に目掛けて発射した。


「グオォォォォォ!!」


 その一撃はゴーレムの身体を貫き、内部から爆発を起こして全身が砕け散った。地面に着地し、一息付こうとした所、周りから視線を感じていた。


「なんだ?やけに見られている様な気が…………」


 辺りを見渡すと、市民達のがこちらを見ていた。歓喜の声が響き渡り、スマホで写真を撮ろうとしていた者もいた。


「すっげぇ……」

「街を救ってくれてありがとう!!」

「いっ……イエーイ………」


 自分を称賛する声に戸惑いながらも、アンバーはそれに応えようと右腕を上げ、軽くガッツポーズを取っていた。


「ってアレ……圭とノボルじゃねぇかよ」


 その中にはレッカの友人である、圭とノボルの姿があった。彼らもまた、アンバーの活躍に感激し、見とれている様であった。









「見ろよ、この青いPSパワードスーツの活躍を!」

「あっ……あぁ、コイツはまたカッコいいもんだな」


 翌日、昼休みになっていやいなや、圭がレッカにスマホを見せつけてきた。画面には、アンバーがゴーレムと戦った後の写真が撮影されていた。


「みんなを守って戦うあの姿、くぅ~!痺れたぜ!!」

「うんうん、大分噂になってるよね~ほら、記事にもなっているし」


 ノボルのスマホの画面にはアンバーの活躍がネットの記事に上がっていた。「G.O.Dゴッドの新型PS、またもゴーレムを撃破」記事にはそう書かれてあった。様子にレッカは苦笑いしながら反応していた。


「全く、男子はそういうのでよく盛り上がれるよね~」


 そこへ積姫と渚がやって来て、席に座る。男子ならではの会話に、子供を見るような目でこちらを見ている。


「いや、あんなの見たら誰だって興奮しちまうって!」


 圭が積姫に熱弁しだす。受け流す様に聞きながらも、どこか納得している様な表情をしている。


「ハイハイ、まぁでも、カッコいいのは分かるかな。私も1度助けてもらった事あるし、ねっ?渚ちゃん」

「うっ……うん。そうだね」

「でも、正体は誰なんだろう?やっぱりカッコいいのかな?」


 積姫の言葉にレッカは顔を赤くしながら、髪の毛をいじっていた。本人が目の前にいるのだから、言ったらどんな反応をするのだろう?そんな事を考えてしまう。


「つまり、レッカだけ見たことがないのか?あのPSを」

「えっ、あー、まぁ……運がないって事だろうな」


 アンバー=レッカなのだから、見た事がないのは当然。自分の事で話が持ちきりになっている、悪い気がしない、むしろちょっとぐらい喜んでもいいんじゃないかと思ってしまう程に。


「でも、安心するよね。みんなを守ってくれる人がいるって」


 その言葉を聞いて少し嬉しくなった。こうして誰かを守れて、少しでも明るい日常を取り戻せるなら………









「何よアンタ、その笑い方。すんごく気持ち悪いんですけど」


 レグルスの休憩室にて、圭達の話を思い出したレッカはニヤニヤとしており、その様子をみていた沙織は少し引いていた。


「ははーん、さてはコレね。最近話題になっているからね~」

「コレか、噂には聞いていたが……」


 ミオンがタブレットで例の記事を見せた。それを手に取った沙織はまじまじと読み上げ始めた。


「何々……ゴーレムを次々と倒す青いPS、その活躍によって被害は拡大せずに済んだ。今後も活躍に期待したい………何よコレ!アタシ達の事書かれてないじゃない!!」

「そっち?」


 アンバーだけ記事に取りあげている事に、沙織は怒りを隠せなかった。


「あらやだホント。沙織、もしかして自分も書かれたかった?」


 ミオンがからかう様にして聞いてきた瞬間、彼女の顔面目掛けて、拳が飛んできた。


「冗談よ、いきなり殴るなんて酷いじゃない」

「フンッ!」


 鬼の様な形相でこちらを振り返ってきた。思わずレッカは目を逸らした。


「アンタ、褒められるとすぐこれなんだから!」

「わーってるよ、でも、こうして言われるのって悪い気はしないぜ」


 そこへ静香がやって来る。眼鏡を上げながら、口を開く。


「浮かれるのは構わないが、その分責任重大だという事を忘れないでくれたまえ」

「ハイ……精進致しますっと」

「よろしい。ではみんな、作戦司令室へ来てくれ。ちょっと変わった任務でね」


 作戦司令室にて、デスク状の大きなモニターに海の地図が記されており。静香は赤いマークのある所に指を指示した。3日前、G.O.Dの物資を輸送していた船が何者かに襲撃され、海の底に沈んでしまった。潜水艦で向かい、物資の回収を行う。それが今回の任務だ。


「恐らく、ゴーレムの仕業と考えるのが妥当なのだが……泳げるゴーレムがいるとは聞いたことがない。新種の可能性がある。作戦には……レッカ、沙織、君達2人に任せたいと思う。作戦は2日後に行う、いいな?」

「「了解!」」


 しかし、海の底へ行く………か。G.O.Dはこんな任務も行うのか……とにかく、受けたからにはしっかり果たさなくちゃな。





 2日後、港にある潜水艦に乗り込み、海底まで向かう準備を行っていた。そこにグレイが見送りに来ていた。


「到着してから3時間、それが過ぎたら問答無用で戻って来い。何かあったらソナーを出すんだ。そしたらすぐに俺達も行く」

「分かった、全部回収して戻って来るぜ」

「それじゃ、向かうわよ」


 海の底へ沈んでいき、潜水艦は自動操縦で海底に向かって出発した。薄暗い海の中、綺麗……ではなかった、人々が捨てたゴミ、ゴーレムとの戦いで発生した瓦礫やPSの残骸、その被害は海の底にも及んでいた。そんな光景を窓を見ながらレッカは浮かない顔をしていた。


「見えたわ、アレね」


 3,800m程の海の底、沈んでいる船を確認した。何かに掴まれた様に船首が潰されており、ひどく破損している。


「アレがか……あそこから入れそうか?」


 レッカが指さした先、後方部分に穴が開いており、そこから侵入が出来そうだ。


「そうね、じゃぁ入りましょ」


 中に入り、潜水艦を降りたレッカと沙織。辺りは真っ暗で何も見えない、無造作いレッカが手を動かしていると………


「――――――!?」

「なんだ?何か硬い様な……妙な感触がある様な……」


 突然、バチン―――と強く頬を叩く音が聞こえた。その音と共にレッカは壁に叩きつけられる。その顔は何故か赤く腫れていた。


「いてて………いきなり何するんだよ!?」


 沙織の周りに明かりが照らされた。その手には、ディバイヴ・デバイスに懐中電灯型のアタッチメントが取り付けられていた。


「うっさいバカ!エッチ!!」

「は?なっ、何言ってるんだか………」


 沙織は片手でまっ平らな胸を抑えて、顔を赤らめていた。レッカは何が何だか分からず、赤く腫れた頬を抑えていた。


「ほら、アンタもデバイスにライト取り付けて!腰についてるでしょ?」

「あっ、あぁ………全く、俺が何したって言うんだか」


 レッカは渋々、腰に取り付けられていたアタッチメントをデバイスに取り付け、明かりを灯す。暗い中で何があったのか?それは彼女のみぞ知る………


「倉庫は右に曲がって、まっすぐ進んで……」


 デバイスのレーダーを頼りに、物資のある所まで歩き始める。

 薄暗く無音な空間、その不気味さにレッカは腕を抑えていた。


「いかにも、幽霊船って感じだな……実に不気味だ」

「妙な事言ってないで、さっさと行くわよ」


 動じずに沙織は前に進んでいる。何か違和感に気付いたレッカが突然、立ち止まった。


「妙と言えば……変じゃないか?」

「変って……何がよ?」

「周りを見てみろよ、乗っていた人達が見当たらないんだ、綺麗さっぱり。確か取り残された人たちもいるんだよな?」

「そういえばそうよね………」


 作戦開始前に読んだ資料によると、当時の乗組員は21名、脱出したのが12名、行方不明が9名。本当に死んだかどうかは分からないが、そうだとしたら遺体が残されていてもおかしくはない。だが人の気配もなければ腐敗臭もしない。幽霊船というのもあながち間違いとは言い切れない。


「嫌な予感がしてしょうがないわね……残り1時間、とっとと回収して帰りましょ。こんな所、長居はゴメンだわ」

「そうだな、早く帰って空を眺めたいものだ」


 そうこうしている内に、倉庫まで辿り着いた。中にはPSの装甲の素材、携帯食料、弾薬などが積まれていた。


「携帯食料……ちょっと食ってもいいか?」

「バカ言ってるんじゃないわよ。さっさと回収して帰るわよ」

「って言ったって、この量どうやって持って帰るんだ?まさかお前の馬鹿力で持って帰るんじゃ………」


 物資は木箱やコンテナに数十個程積まれている。これほどの量、潜水艦に積んで持っていくのは無理難題だが………



「そこで、コイツの出番って訳」


 デバイスを取り出し、1つのコンテナにくっ付ける。すると粒子となって中に取り込まれていった。


「PSを収納できる技術の応用よ、よく覚えておきなさい」

「はぁ~そいつはめちゃくちゃ便利だな……」

「さて、コレで全部ね、さっ、帰りましょ」

「あぁ、何事も無くて助かったぜ」


 その瞬間、突如として船が揺れた。


「なっ……なんだ!?」

「まさかとは言わないけど……」


 地面から触手の様な物が生える様に襲い掛かってきた。咄嗟に避けて、倉庫から飛び出し、2人は一気に走り出した。


「アンタが何事もなかったからとか、変なフラグ立てるから!!」

「なんだと、俺のせいだって言うのか?」


 文句を言い合いながら潜水艦まで走るが、その道中を触手で防がれてしまう。


「こんなん見た事ないけど……まさか新種のゴーレムか?」

「みたいね……」


 間違いなくゴーレムの仕業であるが、触手の様な物で攻撃するタイプは見た事もないし、聞いたこともない。だが、ここで海の藻屑になるわけにはいかない。


「っく、面倒な事起こしやがって!」

「とっとと片付けるわよ!」


 デバイスを前に突き出し、レッカはアクアアンバーを、沙織はスラッシュを装着ディバイヴ・インした。触手の攻撃が船を真っ二つに切り裂くと同時に、2機は海を泳いで距離を取る。


「っく……水中戦はアンタ頼りなんだから、頼むわよ」

「分かってるよ、ってやっぱり新種のゴーレムだったな…」


 海底深くから、タコの様な足が10本生えたゴーレムがこちらをみていた、名づけるなら「オクトパス級」だろう。水中戦において、PSでの長時間活動は装甲が持たない。だが、水中戦に特化したアクアアンバーならば、いくらでも戦える。


「だったら、援護に回れ。ヤバくなったら、すぐに脱出しろよ?」

「アンタに言われるのは癪だけど………そうさせてもらうわ!」


 スラッシュは水中戦用として用意されていた、腰に繋がれたレールガンを構え、後方で狙いを定めて即座に発射した。


「ウォォォォォォォォ!!」


 オクトパス級は脚を使って盾の様にレールガンの一撃を防ぎ、その触手をスラッシュに目掛けて襲い掛かる――――――――


「しまっ――――――!?」


 回避しようと後ろに下がろうとするが、水中では思う様に動けず、そのまま触手に捕まってしまい、こちらに引き寄せられる。


「沙織!!」


 オクトパス級はスラッシュを盾にする様に前に出し、触手で手足を拘束している。


「っ……こんな格好!?」


 身動きが取れず、脱出しようと身体に力を入れる。しかし、機体からミチミチとした音が聞こえる。無理に脱出しようものなら、破損した部分から圧壊し、いくら粒子圧縮されたディバイダーでも命はない。


「ココはどうすりゃ……」


 スラッシュを盾にされて、思う様に動けないアクアアンバー。

 その時、触手の1本が襲い掛かってくる。


「このっ!?すばしっこい触手だな!」


 襲い掛かってきた触手を泳いで回避した。水中の中では、ソニックアンバー以上のスピードで移動が出来る、これが本来の性能なのだろう。


「ハハっ、こんなにスピードが出るのか。よしっ、コレなら!!」


 水中での高速移動を活かし、フォトントライデントを構えて、捕まったスラッシュの方に向かって加速する―――――――


「はいよ、お待たせ!」


 トライデントで触手を斬り落とし、拘束されたスラッシュを抱き上げながら、上の方へと移動する。


 沙織は思わず「ありがとう」と恥ずかしくしながら呟いた。

 4本の触手を斬り落としたものの、残り6本も残っている。これを対処しなければどうにもならない。考えに考え、思い付いた考えは………


「なるほど……水中の中だとこういう技も使えるってわけか」


 粒子化した空間インナーフィールドで、レッカはモニターをである情報を確認していた。それをみてニヤリと笑い、オクトパス級に向かってアクアアンバーを前進させた。


「よっと、案外ノロいんだな!!」


 動きが読めて来たのか、徐々にオクトパス級の触手の攻撃を軽やかに回避しつつ、トライデントで牽制する。そこに、距離を詰めて来たアクアアンバーに向かって、触手から魚雷を発射した。


「うぉっ!?そんな攻撃聞いてないって!」


 腕の電磁ウィップを出し、回転させて魚雷の攻撃を防いでいく。しかし、その内の1発がアクアアンバーの背後に襲い掛かってきていた。直撃しかけたその時、スラッシュのレールガンが魚雷を貫いた。


「っく……油断しない!」

「サンキュ!よし、この距離なら―――!!」


 両腕を前に出すと、中のプロペラが回転し、その勢いと共にグレネードランチャーをオクトパス級に目掛けて発射する。襲い掛かる弾道に沿って、拳を握りしめながら一気に前進する。


「コレで!!」


 グレネードランチャーの一撃が直撃したと同時に、勢いよくアクアアンバーのハイドロスマッシャーが炸裂、オクトパス級の装甲を貫いた。


「ゴッ、ゴァァァァァァァァァァァ!!」


 砕かれた全身が海底の圧で圧壊しだし、オクトパス級はそのまま爆散した。粉々になったのを確認すると、アクアアンバーとスラッシュは海の底から上がっていった。


「ぷはぁっ!とりあえず、任務完了だな。流石に捕獲できる余裕はなかったな」

「えぇ、それと………」


 海から顔を出し、太陽を眺めて任務が終わった事を喜ぶアクアアンバーをよそに、インナーフィールド内の沙織は苦笑いをしながら、一物の不安を抱えていた。









「任務ご苦労。物資は無事、回収したようだな。しかし………」


 司令室にて、レッカと沙織が提出したレポートを確認しながら報告を受ける静香。彼女の表情はとても険しく、今にも爆発しそうな勢いだった。


「潜水艦は海の底……君達、アレが1隻いくらするか分かるかい?」

「いえ……分かりません」

「ほんと……申し訳ございません」


 その犠牲に、潜水艦を失う事になった。数億すると言ってもいい代物を簡単に放棄し、海の藻屑にした事に静香は静かに怒っていた。あまりの形相に、レッカと沙織は申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。


「予算は溢れ出るものではないんだ。くれぐれも無駄にはするなよ?次やったら、どうなるかは………分かっているだろうね?」


 途端にニコリと笑いながら見つめてくる静かに、2人は返す言葉もなかった。


「あらら、こっぴどく怒られてるわね」

「まっ、仕方のない事だな」


 その光景を、グレイとミオンが呆れた様に見ていた。司令室を出た途端、レッカと沙織の怒鳴り声が激しく響き渡る。


「アンタが不吉な事言うからこんな事になったんでしょ!どうしてくれるのよ?」

「なんだと、俺が悪いってのか!?水中戦でまともに戦えるのは俺だけななんだから、お前が真っ先に潜水艦取りに行けばよかっただろ!」

「なんですって!!後、忘れてないからね、アンタがあんな……あんな破廉恥な!!」


 沙織は途端に顔を赤くさせながらレッカを見る。と同時に、いきなり拳を飛ばしてきた。


「って!お前……普段温厚な俺もしまいには怒るぞ!!」


 理不尽に殴られて、流石のレッカも我慢の限界か、今にも飛び掛かりそうな勢いで怒鳴り散らかす。


「勘弁してくれ………」


 2人の怒鳴り声を聞いた静香は、耳を塞ぎながら、デスクに顔を埋める様に伏せていた。


 To be continued…


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