Divive10「始まりのPS」

「いやはや、本当に30分足らずで来てしまうとは………」


 小型のリニアモーターカーに乗って約30分、レッカ達はG.O.Dゴッドの総合本部のある斑鳩島いかるがとうに到着していた。そんな所も相まって、超大都市と言える程の大きい島、ビクトリアアイランドの4倍ぐらいはあるだろう。そこへ、1人のスーツを着た男性が声を掛けて来た。


「銀河レッカさんですね。話は聞いています、さぁこちらに」

「コレは話が早いわね」


 黒い軍用車に案内され、それに乗って、奥にある大きな建物、総本部まで向かっていくのだった。そこから10分もしない内に、あっという間に辿り着いた。車から降り、入り口の扉まで行こうとすると、クールそうな1人の青年が、柱にもたれ掛かりながら待ち構えていた。


「よぉ、来るのを待っていたぞ」


 背中まで伸びた長い金髪に、180cmほどの長身、スラっとした顔立ち、黒を基調に金のラインの入ったジャケットを着た青年がこちらに向かって来る。グレイの方に近づき、見下ろす様にしてこちらを見ていた。


「まさか、お前も一緒だとはな………」

「………」


 目を逸らして苦い表情をするグレイ、どうやら知り合いみたいだが・・・・・・・今にも掴みかかりそうな勢いだ。が―――――


「いやぁ~会いたかったぞ!我が愛しの弟よ!!そうか、俺が恋しくて会いに来たんだな?うん」

「辞めろ、クソ兄貴!!ウザいんだよ、そういうの!!」


 突然、グレイを抱きしめ、頬を摺り寄せてきた。さっきのクールな表情が一変。傍から見たら、なんとも気持ち悪い表情をしていた。その様子を目の当たりにするレッカと沙織は何とも言えない表情を浮かべていた。


「っく……だから来たくなかったんだ、お前がいるから!」

「全く、照れなくてもいいんだぞ。本当はお兄ちゃんが恋しかったんだと」


 青年は何時でも来いと言わんばかりに、両手を前に出して構えていた。それを見かねたレッカが割って入る様に声を掛けた。


「あの~」

「ん?あぁ、すまない。愛しい弟を目の前にしてついね。俺は、ゴルド・アルフォンス、総本部所属のPSパワードスーツディバイダーだ。今日は俺が立会人でね」


 グレイの兄を名乗る青年、ゴルド・アルフォンス。見た目とは裏腹に、弟には非常に甘い様だ。そんな彼の行動には、常にうんざりと言わんばかりと態度で示していた。


「手続きはもう済んでいる。後はライセンスを受け取ってもらう、まぁ上層部のお偉い方も君の顔を見ておきたいってね。でも今は会議の最中だから時間つぶしがてら、案内してやるよ」


 そう言ってゴルドに案内され、総本部の中に入っていった。レグルスよりもはるかに広く、内装も豪華なものだ。警備をしている、赤と水色の制服2人が隊員がゴルドに敬礼をする。


「ほぇ……あの人、相当偉い立場の人なんだな」

「それはそうよ、だってあの人、S級ディバイダーなんだから」


 そういや前にも話していたな。確かグレイがAで、それ以上に上のランク………


「S級ディバイダーはいわば、最強の勲章。世界にたった9人しかいないって言う話だ。俺を含めてな」


 ドヤ顔で振り返るゴルド。最強と言うからには、その強さは次元を超えている。彼らのおかげで、未だに世界は崩壊の危機に陥っていないと言っても過言ではない。


(もしかしたら……案外なれるのかもな、彼も)


 しばらくして、ゴルドの所属する部隊の部屋へ案内され、デスクにおいてあるカードリーダーから、1枚のカードが排出された。そのカードを手に取り、直接レッカに渡した。

 そのカードには、G.O.Dと大きく文字が刻まれており、そこにレッカの名前と所属先が書かれており、真ん中には顔写真が写し出されている。


「ほいっ、コレで君も正式にG.O.DのPSパワードスーツディバイダーだ。さぁ、そのライセンスをデバイスに差し込むんだ」

「えっと………あっ、ココか」


 デバイスを取り出し、下部分にカードを入れる差込口を発見し、そこにライセンスを差し込んだ。すると画面には、レッカの名前、所属、顔写真、ランクが表記されていた。


「えっと……俺のランクはBなのか」

「えっ、嘘でしょ?いきなりB級なんてある!?」


 隣で沙織が文句を垂れながら驚いていた。どれほど凄いのか、レッカには分からず、ポカンとしていた。


「まぁ、お前の実力なら妥当……っちゃ、妥当か。しかし、いきなりB級からスタートは事例がない。兄貴、一体どういう事なんだ?」


 グレイが疑問を問う。


「いやぁ、俺に言われてもさっぱりだね。彼にそれほどの実力がある、あるいは………期待されている、とか?」


 何を意図にしているのか?それは神のみぞ、上層部のみが知る事だろう。


「さてと、お偉いさん方のお話はもうちょい掛かりそうだ。全く、長い話には困ったものだ………」


 右手の腕時計を眺めながら、ゴルドが退屈そうに欠伸をしていた。そこにレッカが下半身を抑えながら質問をする。


「あの~トイレってどこにあるでしょうか?」

「あぁ、ここ出て、突き当りを右に曲がって更に左に行って…」

「どうも、ひぃ~!限界だ!!」


 最後まで話を聞かず、レッカは慌てて飛び出した。それ見た沙織は呆れて、額に手を当てた。


「全く……なんて緊張感のない」

「いいのか?ついていかなくて」

「ん?大丈夫だろ、一応デバイスにマップは載ってあるんだ」


 ライセンスを登録するとデバイスに各支部の情報、地図が掲載される仕組みになっていた。それを見れば自分がどこにいるかも一目瞭然、だが………






「うわぁ……完全に迷った」


 トイレを済ませ、いざ戻ろうとしたレッカ。案の定、道に迷っていた。辺りは暗く、殺風景な空間が広がっていた。どうやら、レッカはデバイスの使い方を完全に理解しておらず、目にも触れていなかった。


「しっかし、どこなんだ?」


 しばらく歩いていると、急に明るくなり、辺りには大量のコンテナが置かれているのを発見した。中にはウォーリーやワイバーンなど、無数のPSが格納されており、中には未完成と思われるものも確認できる。


「なんだ急に?ってここは格納庫か……って!?」


 振り返ると、目の前に吊るされている様にして置かれていた1体のPS。白と黒とエメラルドグリーンを基調とし、Vが少し曲がった様な頭部のアンテナ、両腕には黒に金色がちりばめられたガントレット、ローブを纏った様なリアスカート、背中には長い棒状の様な物が装備されていた。


「PS・・・・・・?なんか、アンバーと似ている様な・・・・」


 肩や足、そして顔立ち、アンバーリベリオンとどことなく似ている。レッカはそれが気になって、仕方がなかった。そこへ1人の男性がやってきた。


「神々しいだろ?アヴァロン、それがコイツの名前だ」


 その男は30代~40代ぐらいで、灰色交じりの黒い髪で右目が隠れており、白と薄紫の隊員服をマントの様に羽織っていた。


「アヴァロン・・・・・・・」


 アヴァロン、と呼ばれるPS。見れば見る程、レッカは引き込まれる様だった。それを見た男は不気味に笑いながら、口を開いた。


「すべての始まり、1つの時代を終わらせ、1つの時代を築き上げた。まさに神だ」


 何を言っているのか?レッカには分からなかった。するとそこへ、大きな声で彼を呼ぶ声が聞こえた。


「こんな所にいたか、随分探してしまったじゃないか」


 ゴルドと沙織がレッカを探しに、こちらまで来ていた。ドタドタ大きな足音を立てながら向かって来て、沙織がレッカの腕を掴み、引っ張りながらもの凄い剣幕でこちらを見てきた。


「ちょっと、いきなり恥ずかしい真似するんじゃないわよ!全く……」


 説教を垂れながらも、沙織は目の前にあるアヴァロンに目を向けていた。


「アヴァロン……始まりのPSか」


 ゴルドも険しい表情をしながら、それ見ていた。


「アレって………」

「言った通りだ、アヴァロンリベリオン。この世で最初に完成したPS、全ての始まりさ」


 人類が最初に開発したPS。ただ、それだけしか言われなかった。咄嗟にレッカが振り返ると、男の姿はなかった。一体何者だったのか?謎をそのままににして、3人はその場を後にした。





「さぁ、いよいよお待ちかねだな」


 巨大な黒い扉を前にして、緊張しているのか、深呼吸を繰り返すレッカ。そんな彼の肩をゴルドが叩きながら笑っていた。


「なぁに、ただお前さんの顔が見たいだけさ。面接じゃないんだから」

「はっ……はぁ」


 ノックを二回し、低い声で「入れ」と言われて、ゴルドが扉を開ける。


「失礼します。レグルスのディバイダー3名、お連れしました」


 部屋に入ると、6人の50代から60代ぐらいの男性が、輪っかの様に囲んである大きなデスクに座っていた。鋭い目でこちらを見られている様に感じ、少し目を逸らしたそうにしていた。


「ほぅ、彼があのアンバーを使えるディバイダーか、それも銀河の」


 資料を読む前髪が突き出て、サングラスを掛ている、敷島しきしまはレッカの顔を見て何かを思い出すような表情をしていた。「はい」とゴルドが答え、レッカを前に出す。


「ほい、とりあえず自己紹介しておきな」

「ぎっ……銀河レッカ、レグルス所属のPSディバイダーです、よろしくお願いします」


 一礼する彼の姿を見て、短い黄土色に白髪が混じった、糸目の男性、アランが手を前に出し、緊張を解そうとする。


「まぁ、硬くなりなさるな。何もお前さんを取って食おうとするわけじゃないのだから」

「ふむ……1か月弱でゴーレム10体に違法PS1体の撃破、ここまでの事は波のディバイダーが出来る事じゃない。大したものだ」


 スキンヘッドの男性、ジェイクはレッカの戦績を高く評価している。その隣にいた灰色の髪に眼鏡を掛けた男性、最上もがみは問う。


「ふむ……聞かせてくれ、何故君はG.O.Dに入る事を決めた?」

「えっと………」


 言葉が詰まる。彼らはG.O.Dの最高評議会の一員、、そんな人を前にして平然とする方が難しい。それでも、勇気を出して口を開いた。


「俺は……あの時アンバーを使って、俺にしか出来ない事だった言われて、色々考えて……目の前でゴーレムに襲われる人を見て、1人でも多く守りたくて、1日でもゴーレムの脅威を終わらせたくて、G.O.Dに入りました!」


 勢いあまってか、少し前に飛び出していた。そんな彼の姿を見て、白い髭が特徴の男性、ルドルフが拍手をしながら笑っていた。


「ハッハッハッ!素晴らしい、君のその姿勢、実に良い。今後ともG.O.Dの為、ひいては人類の為に頑張ってくれたまえ」

「はっ……はい!」


 部屋を後にし、ロビーを歩く道中、レッカは緊張が解けたのか、大きく息を吐いた。


「ふぅ…………流石に緊張した」

「けど、やるじゃないか。あのオッサン共相手にあそこまで言えるなんて、大した度胸だよ」


 背中を叩きながら高らかに笑うゴルド。その後ろで沙織が一瞬立ち止まり、父である銅月弦間あかつきげんまが来ていないかを尋ねた。


「あの…父……いや、総司令は今日は……?」

「あぁ、生憎、今日は不在でね。何か用でもあったかい?」

「そう………ですか」


 その表情はどこか寂しそうに見え、どこか苦くも見えた。それを見たゴルドは、彼女の頭を優しく撫でる。


「君の活躍も後で報告しておくさ。随分頑張っているみたいだし」

「…………子供扱いしないで下さい!!」


 顔を真っ赤にし、恥ずかしがる沙織。普段は見せないその姿に、レッカは背筋を凍らせていた。


「何よ?」

「いや、別に?」


 口笛を吹きながらそっぽを向いて目を逸らした。






 本部を出て、再び軍用車に乗ろうとした時、見送りに来たゴルドが手を振っていた。


「あの人、結構いい人だよな」

「鬱陶しいだけだけどな」


 呆れるような目で、兄を見るグレイ。後輩に優しく、フレンドリーな所に、レッカは好印象を持っていた。


「確か、元はレグルスに所属していたのよね?」

「あぁ、らしいな」


 軍用車が去ったのを確認して、ゴルドは中に入っていった。


「へぇ、あの子たちがレグルスの」


 柱にもたれ掛かりながら、腰に掛かるぐらい長い黒い髪に、透き通った青い瞳をした女性が声を掛ける。


「あぁ、実に期待できる後輩たちさ」

「あなたがそういうって事は………相当な話ね」


 女性は振り返ってその場を去った。やれやれと言わんばかりにゴルドは首を傾げる。


「さて、俺も仕事に戻らないと」









 しばらくして、レグルスに戻ってきたレッカ達。扉を開けた先に、静香が待ち構えていた。


「戻って来たか、どうだった?総本部は」

「いや、なんというか……流石の一言に尽きるって感じですわね」


 あっさりとした感想に静香は笑っていた。


「フフッ、君らしいな。ともあれ、コレでようやく、正式にG.O.Dの一員だ、これからもよろしく頼むぞ」


 ライセンスを手にし、レッカは改めて、G.O.DのPSディバイダーとして認められた。戦いは始まったばかり、ここから先、何が待ち受けているのか?それでも、大切な人を守る為に、レッカは戦いに身を投じる――――――――――――



 To be continued…

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