第13話 補給と拠点と大商人


 「ダブリア」は森林の中にある集落の様な姿の街だ。

 街というよりは村に近いだろう。


「ここは中央迷宮都市『シグルアルグ』から来た開拓団が作った集落なので、住んでいるのは殆どが純粋な人間種族ですね」


「ん? そのシグルアグルってのはどこにあるんだ? ていうか純粋な人間以外の種族が居るのか?」


「シグルアグルはあの塔の真下にある街です」


 そう言ってテノアが指し示すのは、この世界に降って来た時から聳え立っていた巨大な塔だ。あれを目指そうと思っていたが、最初に見た時よりかなり遠くに見えるって事は、どうやら俺の二択は間違いの方を引いたらしい。


「これ以降の村や街は基本的に亜人の住む領域になってきます。だからこそ、先ほどの遺跡とは別の文明の遺物があるかもしれませんから、僕は今から楽しみです」


「って事は、お前はこれからシグルアグルとは逆方向に進むのか?

 その強さで大丈夫なのかよ?」


 ゲーム的な感覚ではマップが進めば敵のレベルも上がる。テノア個人の戦闘力は正直言って殆ど無いに等しい。直物魔法も基本的には行動阻害系が殆どで、攻撃力も防御力も回避力も並み以下だ。


「また別の方に護衛を依頼しますよ。

 では、僕は「考古学者ギルドのダブリア支部」に報告しなければなりませんのでこの辺で。また何処かで会った時は、一緒に冒険しましょう」


「あぁ、またな」


 そうして俺とテノアは別れる。

 二号? 村に入った時から消してる。



≪NPC「テノアート」からフレンド申請が届きました≫



 NPCとフレンドになれるのか。

 フレンドになる事で相手にメッセージを飛ばせる様になるらしい。

 勿論承諾して置く。



 まずは宿屋に向かいリスポーン地点を設定。これで死んでもスタートはこの場所からになる。ってか、このシステムならもっと早く死んでれば最初の街っぽい「シグルアグル」に行けたのか? いや、考えるのは止そう、開始早々態と死ぬなんてあり得ないし。


 次に鍛冶屋。


「武器と防具作ってくれ」


「おぉ、なんじゃこのレア素材の山は!

 ちょっと待ってろ」


 鍛冶師のNPCはそう言いながら素材を少し見ると、隣の家から裁縫師のNPCまで連れて来て武器と防具を作ってくれた。



 ・炎紋の外套ニトロマント

 高い防寒性能を持つマント。

 極寒の場所の探索には非常に有用。


 ・黒刀「陰鬼かげおに

 暗黒色の狂竜樹ダークネス・クレイドラシルから採取された特殊な金属【龍赫蒼合銀ウルスミスリル】を用い、更に「鉄刀」に込められた使用者の魔力にを使って鍛え進化させた黒い刀。柄の部分は火烈の大鬼ニトロオーガの素材で造られているため赤い。

 魔力を流す事で耐久力を回復する。


 ・刀鞘「黒蜻蛉くろとんぼ

 暗黒色の狂竜樹ダークネス・クレイドラシルの幹と竜翼の鬼蜻蜓おにやんまの羽の繊維で造られた黒を基調として緑の装飾が成された鞘。

 魔法を叩く事でその魔力を吸収し、治まった刀に対して魔力を供給する。


 ・魔力銃「白夜」

 金月の魔宝石ゴールドルナを素材として造られた魔力の弾丸を打ち出す魔法銃。

 月光に晒される事で弾丸を充填する。

 マガジン装填数20発。

 マガジン5つ付属。



 なんか、サバイバルを前提に装備が作られている様な気がする。

 そして余った素材は要らないので売り払い、そこから武器作成の代金を払ってもそこそこの金額が残った。


 残りの金で消耗品を買おうと思って集落をブラついていると、見知らぬ男に声を掛けられた。


「NPCの店で買うより、うちで買って行きませんか? ぜよ」


「ぜよ?」


「いやぁ、坂本龍馬のロールプレイがしたくてこんな名前にしてみた物の、緊張してしまって全くできやしないんだ。はは」


 赤茶色の仕立ての良いマント。中には白いシャツを着ており、下はジーンズっぽい材質の黒いズボンで革っぽいブーツ。腕輪やネックレスなどの装飾品が異様に多いのも特徴だろう。


 俺の装いに比べればかなり豪華に見える装備の彼の頭上には、プレイヤーを示すネームタグが付いている。


「リョウマさん、ね」


「まぁ、しがない大商人だよ」


 ボサボサした灰色の髪を弄りながら、男はそんな意味不明な事を言ってくる。大商人がしがないって何だよ。


「NPCの店よりは品揃えは良いと自負しているし、何なら君が初心者って事も加味して少しサービスしてもいい。どうだい?」


「じゃあ回復薬とか、腹持ちする食料アイテムが欲しいんだけど」


 このゲームには「空腹度」のパラメータが存在する。ちゃんとご飯を食べなければスタミナの回復速度やHPの自然回復速度にマイナスの補正が入るのだ。森の中では動物を狩ってその肉を焼いて食っていたが、これが不味い。


 ちゃんとした物を溜めて置くのが賢明だろう。


「なるほど、ではこんな所でどうだろう」



 ・初級HPポーション30本

 33000マイル


 ・鹿肉のソテー10食分

 5000マイル


 ・「鑑定」のスクロール3枚

 9000マイル


 ・「遠見」のスクロール3枚

 6000マイル


 ・「エンチャント・ライトニング」のスクロール

 15000マイル


 ・アクセサリー「炎のお守り」

 サービス


 計 68,000 マイル



 俺の全財産が69,243マイルな訳だが、何故この商人は俺の持ち金を理解しているのだろうか。そういうスキルとか能力があるのだろうか。


「この炎のお守りには自分の周囲の雪を融かす効果があるから、今から君が向かう「シットゥザイ雪原」には必須の装備だと思うよ? 因みに普通に買ったら2万マイル」


「買います」


「毎度。また何か必要な物があればうちを御贔屓にしてね」


≪PN「リョウマ」からフレンド申請が届きました≫


「あぁ、そうさせて貰うよ」


「それじゃあまたどこかで」


 そうして俺の初のプレイヤーとの邂逅は果たされた。

 現在のレベルは15、装備は強化されたしアイテムも充実している。


 俺は集落の中でも人が寄り付きそうもない外れに移動しスキルを発動した。


「よし、やるぞ二号」


「おぉ、待ってたぜ一号」


 装備は一新。スキルも増えた。ステータスも振り割った。


「決着をつけてやるよ」


 互いに武器を構える。


「上等だこの野郎」


 システムから二号へ向けて果たし状を送る。


「「PVPだ」」

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俺の軍勢オンライン ~初級スキル回避を極めたら、俺が分身した~ 水色の山葵/ズイ @mizuironowasabi

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