第57話 将来僕と……
「……やっぱ、大きいね」
「うん。溶けないうちに食べよっ」
僕たちは巨大なパフェ――その店ではスーパージャンボパフェと書いてある――と向かいあっていた。
理沙が元気になって、思い出したようにコレが食べたいって言うから。
「いただきます」
手を合わせてから、少しずつ小皿に取り分けながら、口に運んでいく。
最初はアイスが多いから、とても冷たくて。
キーンとなるのを我慢しながら食べていた。
ふと、周りを見ると、他の客がこっちを見ているのが目に入って、何となく恥ずかしくなる。
それだけこのパフェが大きくて、目立つんだろうと思う。
「……食べ切れるかなぁ?」
「食べ切るしかないんじゃない?」
「そうだけど……。私がリタイヤしたら、ひろくんに託すね」
「え……」
そう笑いながら言う理沙だけど、まだまだ余裕がありそうだった。
それだけ食欲も戻ったってことだと思う。
退院してすぐは、やっぱり少し控えめで、傷を気にしている感じがしたけど。
「わ、生クリームかと思ったら、全部ソフトクリームだった……!」
中にある白っぽい部分。
そこまで食べたあとスプーンで掬って口に入れたら、冷たいソフトクリームだった。
これはお腹が冷えそうだなぁ……。
でも、理沙はそれを美味しそうに食べていて。
理沙の笑顔を見ていると嬉しくなる。
◆
「意外と余裕だったね」
「そ、そうかな? 僕は結構……お腹いっぱい」
「えー、晩御飯食べれる?」
「無理かも……」
最後のほう、僕はもうお腹がパンパンだったけど、理沙はフレークまできっちり食べ切った。
それから自転車でだらだらと家に帰りながら、他愛もない話をする。
もちろん、帰るのは僕の家だ。
ここからだと理沙の家のほうが近いんだけど、今は理沙もほとんど僕の家で過ごしていたから。
「あ、そうだ。ついでだし、スーパー寄って買い物したい」
「うん、良いけど」
前は金曜の学校帰りに買い物してたけど、最近は土曜日に一緒に行くようになっていた。
歩きだと大変だけど、今は理沙の自転車も僕の家に置いていて、近くのスーパーにそれで行くようにした。
今日はたまたまパフェ食べに行く話になったから、買い物はまだで。
急ぐとお腹からパフェが出てきそうで、ゆっくりと自転車を走らせる。
もう11月も終わりのほう。
風が冷たくなってきた快晴の空が綺麗だった。
◆
「ただいまー」
買い物を終えて、誰もいない家に帰った僕らは、まず買ったものの片付けをする。
それが終わってから、リビングのソファでようやくゆっくりできた。
「理沙は全然平気?」
「うん。ひろくんは、まだ?」
「すごいね。僕はまだ体が重いよ」
「これは私の勝ちかな?」
「え、勝負とかだったっけ⁉︎」
唐突に勝ち宣言をする理沙に、僕はびっくりした。
相変わらず理沙はこういう勝負ごとが好きで――普段も時々ゲームをしては、結局全く理沙に勝てないのは変わらなかった。
「あはは、冗談だよー。じゃ、しばらくゲームでもする? 負けないけどね」
――ただ、今日は違っていて。
◆
「……うそ」
本当に奇跡的って言えるくらいの偶然が積み重なって、僕が一勝したとき、理沙は呆然としていた。
理沙のそういう顔は初めてで。
逆に僕は実感が湧かなくて、何も言えなかった。
コントローラーを置いて、理沙は小さくため息をついた。
「……はぁ。びっくりだよ。まぁ、だんだん上手くなってたから、そのうち負けるかも……って思ってたけど」
「そうなんだ……。でもまだまだ理沙に比べたら全然だって」
「それはそうだけど。……でも約束は約束だからね」
理沙の話に僕は「?」が浮かぶ。
約束なんてしたっけ?
「えっと、なんか約束した記憶、ないんだけど……?」
「えー、忘れたの? だいぶ前だけど、私にゲームで勝ったら、何でもひとつだけお願い聞いてあげるって」
「あー」
それを聞いてようやく思い出した。
確か、初めて理沙と市内に行ったときのことだったと思う。
「あったね。すっかり忘れてたけど……」
「あはは。それじゃ、何でも言ってよ。でもひとつだけだよ?」
「うん」
こんなチャンスは、もうきっとない。
ただ、普段から大抵のことはふたつ返事で聞いてくれるし。……ちょっとエッチなことでも。
だから、すぐにこれというお願いごとはなかなか思いつかなかった。
「うーん……どうしようかな……?」
「まだー?」
僕の方に体を寄せて、理沙が急かしてくる。
ふと、そんな理沙がどんな反応するか、気になるお願いをしたくなった。
拒否はされないだろうけど、びっくりするかな?
「それじゃ、言うよ。――将来僕と結婚してくれる?」
「…………え?」
予想外だったのか、それまで笑っていた理沙は一瞬固まって――。
そして、小さく頷いた。
「うん……。もちろんだよ」と――。
◆
「はー、びっくりしたー」
しばらくして落ち着いた理沙は、大きく息を吐いた。
「ごめんごめん」
「もう、ひろくん良い度胸してるよー」
「そうかなぁ?」
「うん、そうだよ。――まぁ、私は約束守るからね。いまさら変更は効かないよ? ホントだよ? 撤回は無しだよ?」
何度も念を押す理沙が面白くて、僕は彼女を抱き寄せて――唇を重ねる。
「んっ……」
すぐに目を閉じて、身を任せる彼女が可愛いくて。
そのポニーテールに括った髪を崩さないように、そっと撫でた。
「……はぁ。……ひろくん、上手になったよね……」
「そう? いつも理沙と練習してるからかな?」
「あはは……」
自分ではあんまりわからないけれど。
「……このあとどうする?」
「……私をこんな気分にさせておいて、これで終わりって無いよね?」
「……それは僕も一緒だって」
「あはは、良かったー。……じゃ、上いこ」
そう答える理沙にもう一度そっとキスをすると、彼女は笑顔で僕の手を引いた。
―― 完 ――
◆
【あとがき】
はい、読んでくださった方々、大変ありがとうございましたm(_ _)m
最初は一人称の練習と思って、短編を書くつもりで連載をスタート。
プロットもなく、ストックも毎回ゼロ(汗)
ただ、出来るだけ季節感はリアルと同じくらいにしようと。それだけ気にして書いていました。
それが気づくと何故か10万字(;・∀・)
でも、このあたりで一旦切りたいと思います。
別作品の「異能力者の〜」は、この作品の反省を踏まえて書き上げたものです。
……そちらは先に完結してますけど(笑)
もしよければ、そちらも読んでもらえるとありがたいです。たぶん、この作品を気に入った方になら、刺さるのではないかと勝手に思っています。
【https://kakuyomu.jp/works/16817330663725804549】
また、次回作も現在準備中で、合間を縫ってすでに9万文字以上書いています。
それも同系統のラブコメ作品なので、公開までしばらくお待ちください。
12月からのカクヨムコンに出そうと思っていますので、あと少しです。
作者フォローしていただくと、新作公開時に通知が行きますのでオススメです(笑)
それでは、改めてこの作品を読んでいただいたことを感謝して――本当にありがとうございました。
【完結】ゲームが得意な彼女と、なんの取り柄もない僕 長根 志遥 @naganeshiyou
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