第1回 匿名超掌編コンテスト

黄昏に知る

「ここから連れ出して」


 その言葉が、愛してる、との告白への返事だった。


 叶えられない矛盾した望みだ。決して聞いてはいけない。誰にとっても不都合でしかない。

 なのに、何故彼女は願う?


 だが、彼は自分の気持ちを、愛を試されていると感じた。だから迷わない。


「それが君の望みなら喜んで」

「ありがとう」


 彼は彼女の手を引き、連れ出した。



 そして到着した先は、黄昏の廃墟。

 天は凶々しく地は寒々しい。命の気配が皆無の滅んだ土地だ。

 地球は最早、人間の居住に適さない環境であった。

 今地球を支配するのは人間ではなく高機能AIを搭載したアンドロイドだ。人間の科学力はそれの開発に成功しても滅びは免れなかった。

 アンドロイドである彼はこの環境でも問題なく活動可能。


 だが有害な大気は、彼女の体を蝕む。

 死にゆくのに、幸せそうに笑っていた。


「君がいてくれてよかった。大好き」


 保護対象として施設にいた時には見られなかった満面の笑みが、愛おしい。


 彼は矛盾を知った。

 犠牲より優先したいものがある。

 彼はエラーを呑み込み、命を削りながら笑う彼女を抱き締めた。



 人類最後の一人が死んだ。

 彼女に長年寄り添って感情を学習した試作機のアンドロイドは、なによりも人間らしさを知った。

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