第2話 高嶺の花2

 三年に上がって私は鷹野原くん――いえ、アキと同じクラスになった。


 そして加奈子。あの子、ずっとアキって呼んでたみたい。今では私に気を使って鷹野原くんと呼んでくれているけれど、ときどきアキって呼んでしまうのでちょっと嫉妬してしまう。あと! 平気で彼の家に上がり込んで、一年の一学期なんか彼の家で泊まったり! ――してたらしいから止めてってお願いした。変なことは誓ってしてないって二人とも言ってくれるけれど、ちょっともやもやする。


 加奈子と言えばあの橘 葵。彼は中学卒業と共に母親の実家に引越ししたらしい。おかげで加奈子は憑き物が取れたかのように熱狂から冷めやった。ときどきファンクラブのネットワークと連絡は取っているようだったけれど、ファンクラブ自体は解散したようなものだった。


 アキとは一緒にクラス委員になった。彼が委員長だったら良かったのだけれど、多数決で私になってしまった。どちらにしても仲良くこなすだけなのは一緒。


 アキとはあれから何度もデートを重ねた。中学生なので行動範囲も出費も限られるけれど、彼はがんばって私をエスコートしてくれた。


 部活を引退した彼は、ときどき夕食をお世話になってるという伯母さんの家の手伝いをしていた。そのバイト代で私にプレゼントをしてくれた。彼は生活費として貰ってるお金からではなく、バイト代で買ったものだから良いものでは無いけど、自分で頑張って稼いだお金だからと言っていた。そんな彼が大好きだった。


 アキとはキス以上のことはしなかったけれど、キスはたくさんした。ただ、学校でしたのはあれが最初で最後。委員長がそんなことできるわけない。それ以上の関係は、高校を卒業してからという約束を交わした。



 ◇◇◇◇◇



 そんなある日の朝、登校中にクラスのSNSでおかしな写真と話が回ってきていた。


 SNSでは彼が近くの高校の制服を着た女の子と腕を組んでいる写真が回ってきていた。それからその女の子とうちの中学の制服を着た男の子がラブホテル!? に入る写真だった。それから履歴を見た限りでは、その子たちが裸で抱き合ってる写真もあったらしい。その写真自体はすぐに消された様子。


 私は頭に血が上った。彼との初めてを夢見てたのに、知らない高校生と!?

 私は気持ちが悪くなって学校のトイレに駆け込んだ。


 口をゆすぎ、ふらつく足取りで教室にやってくるとアキが居た。


「アキ! どういうことか説明して!」


 感情が溢れて大きな声になる。

 涙で視界が揺らぐ。


「これは僕じゃない。断じて」


「この腕を組んでる写真は間違いなくあなたよね」


「これはそう。いや、だからこの写真とこっちの写真、全然関係ないって」


「この女、同じ女じゃない!」


「いや、だからってそれが僕な理由にはならないよ」


「それに……それに……私を裏切って!」


「円花、信じて欲し――」


 パシッ――私は思わず彼の手をはたいてしまった。

 彼が嘘を吐いているようには見えない。でも感情が抑えきれなった。


 その後、彼は担任の先生に連れていかれてしまった。



 ◇◇◇◇◇



 翌日、私は彼のことを信じ切れないでいた。どうしていいかわからない。彼と相対すると感情が溢れてしまう。そんな状態で私に接触してきた男子が居た。3-Cの辻村くんと言った。彼は自分の知り合いがその高校生に似ていると言う。彼にその高校生と連絡を取ってもらい、彼女と放課後に会うことになった。



 辻村くんの案内でやってきたファミレスでその高校生と会った。その子はホテルには行ったけど相手の名前は知らないと言った。私は怒りとか怯えとか、いろんな感情で震える手でスマホのアキの写真を見せ、ホテルに入ったのが彼なのか見て貰った。その答えに私は絶望した。何枚か写真を見せて本当に彼なのか確認したけれど、間違いないと言う。


 私は目の前が真っ暗になった。


 その日の夜は一年からの友人たちに話を聞いてもらった。

 思いを吐き出した後、私はアキに電話するかを迷った。

 電話して何を言うのか。


 怒りをぶちまける? 彼にそんなことはしたくない。叩いた自分の手の方が痛かった。


 別れを切り出す? 嫌だ! 彼とは別れたくない。別れたくないよ……。


 できれば許したい。でも感情が収まらない。



 ◇◇◇◇◇



 さらに翌日、教室では私の聞いた話がどんどん広がりを見せていた。

 友人たちが話したのだろうか? そんな子たちだとは思わなかったのだけれど……。

 

 そしてアキ。彼の耳にも入ったようだった。

 私はアキに相対した。

 アキは加奈子に支えられていた。どうして加奈子が支えているのよ!


「今からでも遅くないわ。正直に全て話せば許してあげる」


 私は彼に通告した。私の感情とプライドが他の言葉を選ばせなかった。





 パンッ! ――突然のことに私は目を見開いた。


 アキを支えていた加奈子が歩み出て私の頬を打ったのだ!


「円花、それおかしいから。アキは絶対円花を裏切るようなやつじゃないし、何より円花の聞いた話ってのが信用できない」


「だ、だって……」


「昨日、一緒に帰ってたの3-Cの辻村よね? あいつと一緒にその高校生に会ってたんでしょ」


「そうだけど……」


「辻村さあ、あんまいい話が回ってこないんだよね。女が多いみたいだし」


「そうなの?」


「あともう一個。私、昨日暇だったから調べてたんだけど、3枚目の写真、持ってるやつ結構居たんだよね。で、分けて貰ったの」


 加奈子はスマホの画像をこちらに見せる。

 そこには裸のあの高校生と、顔は映っていないけど裸の男が。

 私の後ろに居た女子が声を上げて騒ぐ。

 私も直視していられなかった。


「あー、顔映ってないけどさあ、アキ、こんなちっこく無いんだよね」


 え? えっ? 何が!?

 私は画像をもう一度見て思い立った。


「えっ、ちょっと、加奈子? あなた見たことあるの!?」


 私は恥ずかしくて赤面していたに違いない。顔が熱くなった。


「そりゃあねえ、そういうお年頃だったし、ちょこっと覗くくらいは……」


「えっ、はあ!? 貴島お前、勝手に!」


 そう言ったのはさっきまで顔を青くしていたアキだった。


「まあ、彼氏なんだし後で確認させてもらいなよ。絶対違うから」


「はっ、はい……」


 私はそれ以上何も言えなかった。アキも同じだった。



 ◇◇◇◇◇



 結局、その日の放課後、アキの家で確認させてもらった私は恥ずかしくて仕方がなかった。そして何度も何度もアキの気が済むまで謝るつもりだったけれど、彼は私が信じてくれるならそれでいいんだと許してくれた。私はプライドも何もなく思わずアキに抱きついてしまった。


「でもちょっと辛かった。いつもの上から目線と違ったから」


「わ、私、上から目線だった!? え、いつもそう?」


「円花らしくていいかなとは思ってたけど」


「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。治すから。ちゃんと」


 この頃の私は気づいていなかった。自分の態度が上から目線に見られていたことを。私はただ、気を張って自分を崩さないように、ダメなところをみせないようにしていただけのつもりだったのだけれど、周りからはそうではなかったみたい。



 ◇◇◇◇◇



「仲直りのエッチはした?」


「貴島おまっ!!」


 二人で登校して教室に入るなり加奈子はそんなことを言ってきた。

 当然のようにアキに怒られる加奈子。

 私はと言うとクラスの男子からはいやらしい目でみられ、女の子たちには囲まれた。


 恥ずかしかったけれど、実のところアキと元に戻れたから他の事はどうでもよかった。

 もちろんも尋ねられたけれど、沈黙は肯定にしか繋がらず、結局アキのその噂は、先日の悪い噂を上書きするように広まってしまった。





彼女side 完





--

IFルートとかマルチエンディングはあまり好きではないのですが、視点を変えてみるのなら面白そうだったのでお風呂上りに3時間半ほどかけて書きました。短い話ですみません。本編では貴島と仲間たちはこの時期、放課後は葵サマの居る高校へ通ってました。七海と咲枝は関わるくらいならできそうですが、主人公が円花以外とくっつく未来が見えないので。円花と七海と主人公がくっつくようなアクロバティックなオチならワンチャン!?

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恋する僕を裏切って男に走った彼女たち、みんな僕を離してくれない! ~彼女side あんぜ @anze

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