描写されない残酷な近隣諸国への扱い

のほほんとした主人公に周りの勢力が自然と同心していく様子を中心に描かれるが、描写されない裏側では服従しない勢力へ残酷な侵略を推し進めている。

主人公の戦略では超科学を利用した殖産・軍事を背景に経済侵略を敵領地に仕掛けることで敵を弱体化させ服従させることを基本としている。圧倒的経済格差があるのに戦を仕掛けて併呑しないため、織田家に属さない近隣諸国の人々は地獄のような生活を余儀なくされる。

人・物・金はすべて織田家に集まるので、その他の勢力は物流が阻害され買い叩かれ、領地全体が貧困に陥る。領地の食料が足りなくても相対的にインフレしている織田の領地からは少ししか購入できない。そうなると領主は税を上げて、戦争を起こし周辺の勢力から奪うしかなくなる。しかし奪う先も弱体化し貧しい領地なので略奪できる量も限られ支配しても貧困地域が広がるだけで解決しない。領民は重税に苦しみ、生活に必要な物資の取引もままならず、食料を手に入れる手段がないため収穫が少ない年は餓死者が出ることが想像される。しかも主人公は織田に服従した勢力以外は一切助けず、その方針は一貫している。

更に主人公は基本的に既存の宗教勢力を否定している。当時の寺社は信仰・権威・学問・教育・福祉等を包括しており、現代の宗教・学校・公的サービスを部分的にカバーするセイフティーネットでもあった。軍事力や不入などの特権を有してはいたが一部の宗派以外は軍事的な領土拡張をおこなっておらず、収入は寺社のもつ機能の維持に使われていた。しかし主人公は信仰以外の役割を許さず、領地と特権を召し上げ軍事力・経済力を奪い、既存の役割を果たせないようにしている。これにより寺社が弱体化するが、最も被害を受けるのは信仰心を持つ一般の人々である。当時はほとんどの人は読み書き計算ができない。武士階級でもできない人が多くいた時代である。無知・無教養で農民でも武装し戦って時代たからこそ、迷信も含め宗教への信仰心、寺社への敬意が強かった。しかし主人公は代替する組織、人が信じる拠り所を用意せず破壊し、信仰の在り方も主人公の価値観に沿った方法に変更させている。

現代の日本と比べると当時の宗教観の重要さが分かりにくいが、厳しい中世の時代を無知・無力な一般人が心だけでも救われようとする行為であり、それは生活・習慣・風習・伝統・行事に組み込まれていた。心の拠り所、価値の基準になっていたものを否定しているのである。例えると、イスラム教徒の指導者から一切の権力・権限をはく奪し、コーランの教えを現代日本のゆるい宗教観に強制しているようなものである。描写されていないが一般信者の混乱・絶望は想像を絶するものと推察される。

主人公は、他の領地がこの状況になることを理解しており、実際にそうなっていることを虫型偵察機で把握していると考えられる。分かっていてのほほんとしながら侵略を進める冷徹さを主人公は持っている。また通常ここまで追い詰めると、周辺をまとめて君臨する伊達政宗のような存在が生まれるはずだが、なぜか既存勢力がそのまま残って統治している。一揆、下克上、内乱で内部崩壊するか、少しでも強い勢力に統合されそうだが、主人公勢力が描写されないところで排除しているのかもしれない。