唐傘お化けは彼女が欲しい! ~異世界に行ったら、誰も傘を使ってませんでした~

三衣 千月

唐傘お化けは彼女が欲しい! 

 唐傘お化けとしてこの世に生を受けて十年と少し。妖怪として過ごした年月はまだ浅く、人間世界の生活や習慣にとても興味があった。なかでも特に、お付き合いとやらはとても魅力的に思えた。自分にも、カワイイ唐傘お化けの彼女傘が欲しいと、いつもそう思っていた。

 使い込まれた赤い番傘の化身として生まれた彼――唐傘お化けの傘次郎は、周りに誰もいないことを確認してから傘の持ち手を一本足に変化させて、ぎょろりとした一つ目で辺りの様子を見渡す。

 雨が降る中、レンガの敷かれた通りの路地裏で身を隠しながら、傘次郎は一つためいきをつく。物陰から通りをゆく人々を眺める。誰もが濡れることを気にせず歩いているのが、傘である自分としては少し腹立たしい。


「雨が降ったら傘を差しゃいいだろうがよぅ。ったくどうなってやがんだぃ、異世界ってやつは」


 ぷつぷつと文句を言いながら、相棒の帰りを待つ。日本で妖怪として過ごしていた傘次郎がうっかり違う世界に迷い込んでから、早や数ヶ月。日本とは習慣が全く違うことに、まだ慣れることができないでいる。雨は降るもの、濡れるもの。

 この世界に、傘という概念はなかった。つまり、この世界での傘次郎は誰も見たことがないような奇妙な形をした、ばっさばっさと広がることもある変な生き物、である。


「早く帰って来いよぉ、ラッドぉ」


 見たことがないものは、怖い。捕まえられそうになったり、石を投げられたりすることもあった。それを助けてくれたこの世界の人間と、今は旅をしている。


 やがて雨はやみ、人々は次々と指を鳴らして濡れた体や服を乾かす魔法を使う。生活の中に、魔法が浸透している。濡れても乾く。しかも、すぐに。これが、この世界に傘がない理由だった。

 傘次郎はむすっと一つ目でジト目をつくり、路地裏の奥に引っ込んだ。

 

 しばらく待っていると、路地裏に顔立ちの整いまくった明るめのブロンドヘアーのイケメンが小走りでやってくる。荷物がたっぷり入って膨らんだ革の袋を両手で抱えていた。


「ジロー、お待たせ。聞いてくれよ、この街の道具屋のお姉さん、すっごく可愛いんだ。少し話したけど、性格も良かった! 僕の運命の人を見つけたかも知れない!」

「こんにゃろう、それで帰りが遅かったのか! しかもその買い物の量! 宿代まで使い込んだんじゃねえだろうな!」

「運命の出会いに支払う対価なら安いものさ」

「あぁ……お前さんはほんと、顔格好以外は何もかも残念なやつだよ。野宿確定じゃねえか」


 日本から異世界に迷い込んで、傘次郎が最初に出会ったのが彼だった。名を、ラッド・ロッド・レムナンド。彼は誰もが振り返るほどのイケメンで、そして女性にモテるための労力を一切惜しまない男だった。

 傘次郎とラッド。妖怪と人間。生まれた世界も種族すら違っても、二人の目的は同じで、だからこそ一緒に旅をしていた。


 街から出て、森の中。少し開けた場所でラッドは腰を下ろして火をおこす準備を始めたが、ぽつぽつと雨が降ってきた。


「うわあ! 雨だ! 助けてジロー!!」

「やなこったぃ。宿代を使い込んだ罰だ。濡れとけ濡れとけ」

「そんな薄情な! 一体何が起こるか僕にだって分からないのに――」


 ぞわぞわとラッドの髪の毛が震えたかと思うと、ものすごい勢いで伸び始めた。辺り一面そこら中に広がった髪の毛は、彼が金髪であったこともあってまるで巨大などんぶりに入ったラーメンのように見えた。傘次郎は、元の世界のラーメンを少し恋しく思う。

 ラッドが水に濡れると、不思議な事が起こる。何が起こるかは予測できない。なぜそうなるかも分からない。ただ、命の危険の少ない、冗談みたいな出来事ばかりが起こるので見ている分には割と楽しいと傘次郎は思っている。顔だけピカーッと光っていたこともあったし、口からもくもくと煙を吐き出し続けていたこともある。


「うははは! 髪の毛が伸びるってなぁ、初めて見たなあ」

「わぷ! 髪の毛でおぼれる!! 悪かった、無駄づかいしたのは悪かったよジロー!」

「しゃあねえ、助けてやるか」


 傘次郎はばさりと自分の体を開いて、ラッドが濡れないようにそばに立った。ようやく髪が伸びるのが止まり、わさわさとした髪の毛の塊から腕だけを出して荷物から布を抜き取り拭いていくと、伸びていた髪は巻取りコードのようにしゅるしゅると元に戻っていった。

 雨がぽつぽつと傘次郎に当たる。大きく息をはいて、ラッドは傘次郎を見上げた。


「僕も、みんなみたいに普通に魔法が使えたらなあ」

「使えねぇもんは使えねぇんだから、ぶつくさ言ったってしょうがねえだろう。そもそも、魔法なんてある方がおかしい」

「そりゃ、ジローの世界での話だろ? こっちでは誰もがみんな魔法を使えるんだから」

「お前さん以外はな」

「やめろよ残酷な真実を口にするのは! 泣くぞ!? 断固泣くぞ僕は! いいのか!?」

「涙で濡れたらまた珍妙ちんみょうな事が起こるだろうが。我慢してろい」

「ちくしょう!」


 日常生活に魔法が浸透していることに、傘次郎は最初、とても驚いた。できることとできないことはあるらしいが、魔法を初めて見たただの妖怪からしてみれば区別などまったくつかない。

 そして、ラッドは魔法が使えない。見た目こそ、とんでもなくイケメンで誰もが振り返る容姿をしているが、一切、まったく魔法が使えない。ランプに火を点ける事も、濡れたものを瞬時に乾かすことも、荷物の入った革の袋を浮かせることもできない。代わりに、濡れたら妙なハプニングが起こる。頭から羽根が生えることもある。鼻から豆がぽんぽん出てくることもある。


「そういえばジロー。森の奥に洞窟どうくつがあるらしくてね」

「洞窟ぅ?」

「道具屋のお姉さんからの依頼を受けてきた。珍しい食材が採れるらしい」

「どうせイイ格好したくてタダ同然で引き受けてきやがったんだろ」

「まさか。極上の報酬さ。デートしてくれるらしい」

「これだから残念イケメン様は。でもまあ、手を貸すって約束だからなぁ。洞窟なら雨に濡れることもねえだろうよ。さっさと行こうぜ、相棒」


 ラッドの旅の目的は、運命の彼女を見つけることだ。

 傘次郎の旅の目的も、運命の傘女を見つけることである。


 お互い同じ志を持っていたことで意気投合した二人だったが、それぞれ大きな問題を抱えているという仲間意識もあった。

 傘次郎がこの世界で運命の傘女、つまりカワイイ唐傘お化けを見つけるためには、まず傘という概念を世界に広めなければそもそも妖怪としての唐傘お化けが生まれてこない。ラッドが運命の彼女を見つけるためには魔法が使えないことを受け入れてくれる相手を探さなければいけない。しかも濡れずに。


 二人で力を合わせてモテようと熱く語り合った出会いの日から、数ヶ月。まだ目的が達成される気配はない。




   ○   ○   ○




 洞窟の入口でラッドは傘を畳む。ひょこっと一本足を出して妖怪姿になった傘次郎は一つ目をぎゅっと瞑り、ぶるりと身震いして水を弾き飛ばした。


「ちょっと、向こうでやってくれよ。僕が濡れたらどうするんだい」

「あ、悪い悪い。ところで洞窟の中はやけに暗そうじゃねえか。用意はあんのかい?」

「もちろん。道具屋であれこれ買ったからね」


 丸いガラス玉の中に揮発性きはつせいのガスを出すハーブを入れ、石を打ち付けて火を点ける。普通なら魔法で明かりのなど簡単に用意できることもあって、魔法を使わない照明器具はこの世界ではあまり見かけない。


「へぇ、ぼんやり光って人魂みてぇだなぁ」

「ヒトダマ?」

「元いた世界の……なんだろうな。こう、光ってる玉があってな。オレンジだったり青かったりしてよ。そういうのを食う妖怪もいるんだよ」

「へぇ。こっちの世界では、もっぱら飾りに使うものだよ。デートで場を盛り上げるのに使うのさ。中に入れるハーブの種類を変えれば、炎の色が変わるんだよ。少しくらい部屋にこういうのがあると盛り上がるだろう?」


 ラッドの知識は幅広いが、そのすべてがモテるためにある。それがたまたま冒険に役立っているだけである。

 ガラス玉をロープで括り、棒に吊るせば簡単なランプの完成だ。洞窟の奥にあるという食材目指して、足を踏み入れた。


「それで、どういうのを探しゃいいんだい」

「見たらすぐに分かるって聞いたけど。割りと大きいらしい」

「動物か植物かとかよ、そういう情報は?」

「ない」

「期待したのがバカだった」

「お姉さんが可愛かったんだから仕方ないだろ」

「どこまで行っても残念イケメンだよお前さんは」


 傘次郎は特別大きなため息をついた。

 順調に奥に進んでいったが、洞窟には野生動物や小型の虫などの姿も見えない。くにゃり、と傘をかしげ、ラッドも同じように首を傾げた。

 不自然だ。雨風をしのげる洞窟であれば、獣がいてもおかしくないのに、気配も匂いもしない。


「ラッド。どう見る。さすがに不自然じゃあねえか?」

「うん。緩やかに下っている洞窟だから、野生動物が隠れるにはもってこいなんだけど……。でも、風は通ってるから有毒なガスが溜まっているわけではなさそうだね」


 もちろんこの分析力もモテのための知識の応用である。デートで風下風上を確認するのは大切だと、指南書に書いてあったことをラッドはついでに語った。


「デートの風上理論なんざどうでもいいけどよ。じゃあ、他に考えられることがあるとしたら……」


 城の大広間程度の開けた空間にたどり着き、どうやらここが洞窟の最奥らしいと判断する。そして、疑問の答えがそこにはあった。


 魔法生物。この世界においての食物連鎖の上位の存在が静かに鎮座していた。

 この世界のほとんどの生きものを食べる魔法生物の見た目は、特に決まっていない。人に近い姿をしていることもあるし、獣に近いときもある。主に何を食べるかによってその姿を変えるのだ。

 今、傘次郎とラッドの視界の先にいるのは四本足の真っ白い獣の姿。洞窟の中で他の獣や虫の姿が見えなかったのは、これがみついて他の生きものを食べつくしてしまっていたからだろう。


「ラッド、もしかしてあそこにいるのは……」

「静かに。魔法生物だね。この洞窟の生きものを食べたなら、性質や習性はきっとそれに似るよ。音には敏感だと思う」

「目当ての食材があの生き物、ということもねぇよな。こっそり横を抜けていこうぜ」


 傘次郎とラッドは顔を見合わせて静かにうなずく。

 広間の奥、壁際にうすぼんやりと光っている実をつけた植物が見えた。一房一房が傘次郎の長さほどもある。きっとあれだ。そろそろと忍び足で、傘次郎はすり足で進んでいく。


「頼むから起きないでくれよ……」


 手に持った明かりをできるだけ獣から遠ざけて、光る実の近くへ。しかし、実の周りには小さな水たまりがあって、壁から湧きだした水がちょろちょろと流れ込んでいた。

 それだけならまだ、濡れないように植物を取ればいいだけだが、運の悪い事にそこで小魚がぴちょんと跳ねた。


「あっ」

「やばっ」


 ラッドの手元が濡れてしまった。何が起こるかと息を飲む。ぷるぷると体が震え、一瞬静まったあとにリンゴンリンゴンと鐘のような音が響き渡った。


「静かにしろと言ったのはお前だぞラッド!!」

「僕だって鳴りたくて鳴ってるんじゃない!!」


 わあわあと騒ぐ二人の後ろで、寝ていた白い獣――魔法生物が静かに目を覚まし、威嚇いかくに低く吠えているのが薄明りの向こう、手元の光があまり届かない暗やみの向こうから聞こえてくる。


「ジロー、目を離さずに、そっと下がるんだ。背中を見せたら襲ってくる」

「……それも、モテ知識の応用か?」

「いや、純粋に猛獣から逃げる時の常識」


 手に持っているガラス玉の明かりでもはっきりと分かるほどに、獣の輪郭が見え始める。明らかに距離が詰まっているということだ。ラッドはごくりと喉を鳴らした。リンゴンリンゴンと相変わらずうるさく体を鳴らしながら。


 獣が、ぐっと足に力を入れる。飛びかかってくる気配がした。


「やっぱ前言撤回!! 全速力で逃げろぉ!!」

「おいずるいぞラッド! 置いていくなぁ!!」


 負けずに威嚇をしようと傘次郎もばさりと傘を開いて視覚を奪い、獣が一瞬ひるんだ隙に急いで跳ねて逃げる。後ろから追ってくる気配と荒々しい呼吸の音を聞きながら洞窟の外まで出る。

 外ではまだ雨が降っていて、やっと濡れた所が乾いて鳴り響いていた体が静かになっていたラッドをもう一度濡らした。

 今度は何が起こるかと身構みがまえたラッドの体から、勢いよくガスが噴き出した。


「なんだよ今度はもう! なんだか変な匂いする! あ、これで魔法生物が逃げてくれないかな!?」

「余計なこと言ってねぇで走れ走れぇ! ピッタリ後ろについてきてらぁ!」


 木につかまりよじ登り、少し上の場所に逃げたが、登る途中で背負っていた革の袋に食いつかれて中身がばらばらとこぼれ落ちた。傘次郎は大きくジャンプしてラッドよりも一段高い枝にいる。


「グルルル……! グォアアアァ!!」


 木の幹に爪を引っかけて、白い獣が何度も登ってこようとする。何か手はないかとラッドが辺りを見回すが、役に立ちそうなものは見つからない。体からはしゅうしゅうと変なガスが漏れ続けている。


「どうしようジロー! このままじゃいずれ食べられちゃうぞ」

「イチかバチかだが、やるしかねぇな。おいラッド! 手に持ってるそのランプ、あの獣めがけて投げろ!」

「こんなちっちゃいランプの火じゃ、どうにもならないよ!」

「どうにかしてやらぁ! 何もしねえと、それこそどうにもならねぇよ!」


 傘次郎は一つ目でぎりりと下をにらみつけ、ラッドがガラス玉のランプを下に投げるのと同時に木から飛び降りる。傘を閉じて勢いをつけて回転し、白い獣に向かって落ちるガラス玉めがけて自分の体を叩きつけた。


 バリン、と割れたガラス玉の中に閉じ込められていた小さな炎は、ラッドから漏れたガスに引火する。


 ドォン!!!


「うわぁッ!!」

「おわぁぁぁ!!!」


 ラッドは木にしがみつき、白い獣は大きな音と熱に驚いてギャインと鳴いて慌てて逃げていった。爆風で空中に飛ばされた傘次郎が、ばさりと傘を開いてパラシュートのようにひらひらと降りてくる。

 そのままラッドのいる枝に着いて、雨で彼が濡れないようにめいっぱい傘を広げる。


「予想以上に大爆発しやがったな……無事か? ラッド」

「すごかったぁ。ありがとう。君にはいつも助けられてばかりだね」

「おう、約束したからな」


 傘次郎がいなければ、ラッドは旅になど出ていなかった。魔法が使えず、濡れたら変なことが起こるだけの男。気味悪がられるに決まっている。周りから遠ざけられて、家に引きこもって誰とも会わないように過ごしていた。

 それでも、いつか自分を認めてくれるような素敵な女の子と巡り合いたい。いつか来るその日のためにずっと家の中で知識だけをため込んでいた。


 そんな『いつか』を願ってばかりだったラッドの背中を押してくれたのは、傘次郎だった。


 ――雨に濡れたくなけりゃ、傘を差しゃあいいだろう。ほら、掴めよ。行こうぜ。


 傘次郎は、旅に出たあの日にそう言った。何もしないと、何も始まらない。傘次郎がいれば、雨だって気にならない。

 ラッドは出会った時のことを思い出して、しっかりと頷いてから横にいる傘次郎の柄を手に取った。


「魔法生物を追い出したなら、今のうちにあの食材が取れるんじゃないかな。急いで行こう!」

「おうよ。保存できそうなら、いくらかまとめて取っちまえよ」

「持って帰るのに、獣に破られた革袋もわないとね」


 傘次郎を掴んだまま、枝から飛び降りる。

 ラッドの体は、ふわりと優しく、ゆっくりと地面に着地した。




   〇   〇   〇




 つぎはぎにした革の袋いっぱいに持って帰った、街の人に星の卵と呼ばれているらしいそれを、依頼主だった道具屋の女性に渡す。彼女とは、街の中央広場にある噴水前で待ち合わせをしていた。

 広場は賑わっていて、ベンチで本を読んでいる人や、ボール遊びをしている子供たちなど色んな人が自由に過ごしていた。


「うわぁ、こんなに! 嬉しい! お花まで!」

「お姉さんのためなら、お安い御用ですよ」

「ラッドさん、とってもカッコいいし、これからも頼りにしていいかしら」

「もちろん! もちろんいいですよ!」


 ラッドの表情がぱあっと明るくなる。

 モテるための努力が、しっかりと実を結ぼうとしている。傘次郎はラッドの腰に袋に包まれた状態でぶら下がっていた。傘というものがないこの世界で、傘次郎の見た目は使い道の分からない不思議な道具にしか見えない。しばらくはこうやって傘袋に入って移動することに決めた。


「洞窟にいた魔法生物も倒してしまったんでしょう? 本当に素敵な人。旅をしていると聞いたけれど、その、もしよかったらずっとこの街に――」


 道具屋の彼女が頬を赤らめて何か言いかける。

 そこへ運悪く飛んできたボール。子供たちがつい狙いを外して投げてしまったそれが、ばしゃあっとラッドと彼女の横にあった噴水に落ちた。


「きゃあっ」


 子供たちが慌てて走ってきて、ごめんなさいと謝ってボールを拾う。気にしないでと優しく笑う彼女は、ぱちんと指を鳴らして魔法を使い濡れた自分の服を乾燥させた。


 ラッドは、濡れている。

 魔法で乾かさないのかと不思議に思った彼女だが、ラッドの方をみて「ひっ」と短く声をあげた。


「ボボボール、ぶぶぶぉつかりぼぼべぶぼぼぼ?」(ボール、ぶつかりませんでしたか?)


 ラッドの口からぽこぽこぽこぽこと卵が産まれ、落ちたそばからヒヨコが生まれていく。ぽこぽこ、ピヨピヨ。ぽこぽこ、ピヨピヨ。

 卵が出てくるせいでうまくしゃべれず、それでもにこやかに話を続けようとするものだから、逆に不気味だった。


「いやあぁぁぁぁぁ!! 気味が悪いぃぃぃ!!!」

「あばばぼ、ばっべべ!」(ああ、待って!)


 広場にいた他の人たちも、子供たちも、みな叫び声をあげて逃げていった。

 誰もいなくなった広場でヒヨコを生み出し続けるラッドに、傘次郎が声をかける。


「ラッド、旅を続けよう。次は水の近くで女性と会話するのはやめとけよ」

「ばぼう……」(うん……)


 世界に傘を広めたい唐傘お化けと、魔法が使えない残念イケメンの旅は、まだまだ終わりそうにない。

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唐傘お化けは彼女が欲しい! ~異世界に行ったら、誰も傘を使ってませんでした~ 三衣 千月 @mitsui_10goodman

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