帰還

 辺りが明るくなった、気がした。


 じゅーわっ。じゅーわっ。じゅーわっ。

 セミが鳴いている。


「ごめん? 何が?」

 そのぼんやりした声には聞き覚えがあった。

 ドアは開け放たれていて、そこには驚いた顔の太郎がいた。着物じゃない。さっき見た格好のままだった。


「太郎?」

「うん、そうだけど」


 何が起こっていたんだろう。もしかして、夢?

 何にも起きていなかったみたいな、私だけ時間の進み方がおかしかったみたいな、変な感じ。


 タロウは? 口裂け女は? あの、よくわからない化け物達は?


 周りを見ても、そんな痕跡はない。セミは鳴いてるし、空は青いまま。

「鍵、開けてくれたんだ」

「……なんで、開いたんだろう」

 私の手は、ドアに手を掛けっぱなしだった。私が開けたの? 鍵も掛かっていたのに?

「とにかく、僕は帰るね」

 挙動不審な態度を変な目で見ながら、太郎は私の横を抜ける。

 ほら、いつもそう。

 私が閉じ込めたのに、平気なフリして。


「ねぇ、太郎」


 縮こまった、背中。そこに声をぶつけた。

 もう、嫌みったらしくしない。意地悪も、いじめもしない。

 私は変わる。変わりたい。変わるんだ。


「なに?」


 振り返った自信のなさそうな顔。私のことを見ているのか、見ていないのか、わからない。

 もうムカつきはしない。太郎の世界に、ちゃんと私が入るまで、イライラもしない。


「もう、いじめないから」


 それを聞いた、太郎の表情は――。

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学校のスキマ! 堀尾さよ @horio34

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