ただいま、ママ

 目が覚めると、僕は自室のベッドの上にいた。横に転がっているスマホの待受は「7月21日 05:21」の表示だ。一学期の終業式から、一晩しか経ってない。

 寝直そうにも眠くなくて、何か飲もうと台所へ行くと、ママがいた。卵焼きのいい匂いがしてる。


「早いわね。それともまた、ゲームで夜更かししてたの?」


 黙っていると、ママは僕を見て溜息をついた。


「ゲームもほどほどにね。今日から夏休みなんだから、宿題も早めにすませなさい」


 いつものお小言。だけど不思議と、今朝は嫌な感じがしない。

 ふと、シンディのお父さんを思い出した。これで娘を守れる、って泣いていた。シンディに会いたいな。あっちの世界、魔物はいなくなったのかな。

 うちのママも、僕がピンチになったら、あんな風に泣いたりするのかな。

 それはわからない、けど。


「勇司、聞いてるなら返事をしなさい」


 ママが今こうして、朝早くからご飯を作ってくれてるのは確かだ。


「……ママ」


 唾を飲み込んで、口を開く。ちょっと恥ずかしい、けど言わなくちゃ。


「こんなに早起きして、ご飯作ってくれて……ありがとう」


 ママの手が止まった。

 エプロン紐が結んである背中が、ほんのちょっと震えてる。


「……そんなこと言っても、何も出ないわよ?」


 ママの声は、少し、涙声だった。




【終】

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お小遣い勇者とガチャの魔王 五色ひいらぎ @hiiragi_goshiki

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