まず、靖難の変から南宋建国までを、顕仁皇后を主人公として描ききった手腕に敬意を表します。本邦初といってよいのではないでしょうか。史実に基づき、陰惨な運命をこれでもかと描写し、裾についた血液、脚を伝う血液という表現で十代初めの帝姫たちを見舞った暴力を描き、四十八歳の顕仁皇后が完顔宗賢と肉体で情を交わす場面には二人の間に愛情すらあったのではないかと感じさせる。一人の女としての顕仁皇后の見えなくなった片目は、何を見ようとしなかったのか。