第2話 スローライフのスタート
そんなわけでスローライフを余儀なくされた俺であるが、どうしたら良いのかイメージが掴めないでいた。いきなりすることなんてわかるはずもなく、ただ椅子に腰掛けてぼんやりとするばかりだった。
「やることって何すりゃいいんだよ……」
思わず口から出る本心。そりゃそうだ、何すりゃいいのかわからねぇんだから。
そんなことを思っているとテーブルの上にまた別なメモ紙があらわれた。
「なんだ、また別なもんが……え〜と、『ベッドの下を見てみましょう、その図鑑があなたの役に立ちます』だと?」
メモ紙からの指示、俺はそれを片手にベッドの下を見た。もう疑問とかそんなもんはどうでもよくなっていた。
ベッドの下を探ると確かに図鑑のような本があった。よく図書館にあるようなそんなのかんじの本である。表紙には『これで簡単!スローライフのスタート!』なんて書かれている。とりあえず、ページをめくってみた。
『初心者のあなたへ、まずはこれをしてみてください。
①畑を耕そう!台所の近くの戸棚から種が入った袋を取り出し、裏の畑に蒔きます。そこに畑の近くにあるジョウロで水やりをします。数時間ぐらいで作物ができます。それを収穫してください。あとはよく洗って台所で食べたいように調理してください。
あっ、生でも食べられるから安心してね。』
……数時間で作物ができる?ありえるのか、それは。聞いたことねぇぞ。
だけどまあ、もうどうしようもないし、俺は指示に従って戸棚から種が入った袋を取り出し、裏の畑に向かった。
裏の畑はすでに耕されており、本当に種を蒔くだけだった。広さの単位は正直よくわからないが、あまり大きくはない。家庭菜園とかそんなかんじの広さだ。
そんな畑を目の当たりにした俺は袋の中に手を突っ込んで種を握り締めて蒔き始めた。正直、農作業はしたことがないから加減がわからないが、等間隔で蒔いた。……こんなものでいいのだろうか?
次に畑の近くに井戸と手動式汲み上げポンプ、それに桶があったのでそれを使ってジョウロに注ぎ、畑に水やりをした。井戸を何度か往復したが、特に問題なく終わった。
俺は組み上げた水で手を洗い、顔を洗った。ひんやりと冷たい水が汗を流し落とす。
こうして作業をしてはみたが、自分で解決するんじゃなくて指示通りに動いているだけな気がすると改めて思った。
特に苦労もなく、その通りに動き、時間まで待つ。本当にこれでいいのだろうか?俺が求めていたものはなんだったのだろうか?苦労しても正社員になりたいとか思っていたはずが、今はだらけてしまっているように感じてしまっている。やっぱり俺は──。
自問自答の中で視線を落とすといつの間にか目の前に小さなお客さんがいた。
「こいつは、タヌキ……なのか?」
俺の目線の先にはちょこんと座ったタヌキっぽい生き物がいたのであった。
異世界で初心者が細々と暮らすお話 エスコーン @kamiyam86jaro
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