第8話 初めての陸上部①
週が明けて月曜日、体育祭明け最初の通常授業の日だ。めちゃめちゃどうでもいいけど『通常授業』って言いにくくない?早口言葉にできるかも...
そんなことを考えながらいつものように自転車を走らせる。早い時間帯に家を出ることで暑さと直射日光を少しでも軽減させる。気休めかもしれないけど...
教室にはだいたい5番目くらいに着く。他の人たちは本を読んだりノートを広げて勉強したりスマホをいじったり...各々おもいおもいに行動している。
私は夢の世界に行ってこようかな。
机の横にリュックをかけて席に座る。座ったら即座に机の前に両手を組んでそこに頭を沈める。うん、冷房が効いてひんやりした机が気持ちいい。少しかいた汗が冷房で冷やされて全身が冷えていく。
・・・
「琴音!おはよ〜」
「ん...穂花、おはよう」
「あはは、琴音ほっぺた右だけ赤いんだけど!」
「あ...」
寝てた時に右の頬だけ机にくっつけてたみたい...
「ねぇ琴音Iineみた?」
「...?寝る前に見たよ?」
「アンタどんだけ寝るの早いのよ...小学生か」
スマホを確認すると、今週の日曜日に遊ぶ3人のグループにメッセージが来ていた。
昨日の23時頃か...
「ごめんその時間寝てた」
「やば、生活習慣よすぎない?琴音ったら健康優良児〜」
「...なんか悪意を感じるんだけど」
「でも動画とか見てたら気づいたら日付越えてるんだもん」
「...寝る前スマホ見るのやめたら?」
「簡単に言うねぇ...とにかく!土曜さ、ハンバーグのほかにマッシュポテトとニンジンのグラッセも作ることにしたから、そういう感じでよろしく!」
「あいあいさー」
そんなこんなで1日の授業は終わり、いよいよ部活の時間だ。とりあえず学校指定の体操着を着て、陸上部の練習場所である校庭の端へ向かった。
そこには部長である紅林先輩と、上級生と思われる人たちが数人談笑していた。
「あのー...陸上部の体験入部に来たんですけど」
「あっ!もしかしてリレー走ってた.....えーっと、そうだ...!望月さん?来てくれたんだ」
「はい...少し興味があったので...」
「そっか。ようこそ!改めて私は3年部長の
「あなた、1年でリレー走ってた子でしょ!よろしくね、あたしは
「ウチは2年の
「私は2年の
「こら真奈、まだ入部するって決まったわけじゃないでしょ」
「あ...すいません涼先輩」
「あはは...」
いっぺんに名前言われても覚えられないよ...
あとこういう時どう反応したらいいんだろう。
「望月さんはなんの競技やりたい?」
「あ、えっと...あんまりちゃんと決まってなくて」
...この土日で考えてはいたけど答えは浮かんでこなかった。自分にはなにが向いているのだろうか...
短距離か長距離か、跳躍競技もあるし、はたまた砲丸投げとか...?
うん、自分が投げてるヴィジョンが全然思い浮かばない...
「そっか、まぁそうだよね。私も2年ぐらい迷って長距離に行き着いたし。種目ありすぎて困っちゃうよねー」
「涼さぁ、それは迷いすぎよ!」
「まぁまぁ、私はいろんな種目できて楽しかったけどね」
「てなわけでこういう人もいるからゆっくり決めていけばいいよ。じゃあ今日は一緒に練習がんばろうね!」
「はい、よろしくお願いします」
「みんな集合!」
監督の号令で女子陸上部全員が集まる。
「えー、6月も中旬になりジメジメした天気が続きます。熱中症に気をつけて水分補給はこまめに摂るように!今週の記録会に出る人はハードワーク厳禁!それじゃあ練習、ウォーミングアップから!」
“はい!”
全員広がっていく、体育の準備運動みたいだ。
「ん?君は?」
「あ、私、望月琴音っていいます。体験入部に来ました...」
「あーもしかして紅林が言ってた子か!」
「あ...たぶん、そうです」
「じゃあとりあえずみんなと一緒に柔軟していこうか」
「はい!」
みんなの動きに合わせながら身体を動かしていく。
屈伸...伸脚...アキレス腱...肩回し...回旋...1つ1つが体育の授業よりもゆっくりで丁寧に行なっている。
終わったら、今度はジョギングをするようだ。
校庭はすでにサッカー部が使っているので、校庭の奥にあるテニスコートの周りを走るらしい。
「あの...リレーで走ってたよね?」
軽く肩を叩かれ急に話しかけられた。
「え...あ、はい。えっと...」
「やっぱり!私リレーの時、第1走者で走ってた柊 《ひいらぎ》
あ、もしかして...!第1走者が1人だけ女子で可哀想だった子だ...!
「私、望月です、望月琴音...。紅林先輩に誘われて、体験入部に来ました」
「望月さん、すごい速かったの覚えてるよ!」
「え...あ、ありがとう。柊さんは、ちょっと可哀想だったね...」
「そうでしょ!?ヒドイよね、あれ!陸上部だからってトップバッター任されたら他のクラス全員男子なんだもん!びっくりしちゃった」
「あはは...災難だったね」
「部長ぐらい速ければなんも問題なかったんだけどねー。私もあれぐらいになれたらなぁ」
「やっぱり紅林先輩ってレベル違うの?」
「そりゃもう!試合で走ってるところはまだ見た事ないけど県じゃ敵なしって聞いたよ!」
「やっぱりすごいんだ...」
「ねね、陸上部入ってくれるの?同学年に同じくらい速い人いてくれると燃えるんだよね〜」
「う...まだ分からないけど、今部活入ってないし、入ろうかなって...」
「えー!部活入ってないでリレー選手だったの!?中学は?何やってたの?」
うわ...意外とグイグイくるんだな、柊さんって...
私を合わせて14人の女子がテニスコートの周りを走る。ウォーミングアップで3周、今1周目を走り終えた。
「えと...サッカーやってたよ。柊さんは?」
「私はずっと陸上部!中学からずっと短距離走ってるよ」
「瀬奈ちゃん、なに話してるの?」
前の方で走ってた子がペースを落として話しかけにきた...
「あっ、瑠衣!あのね、望月さんあんな足速いのに帰宅部だったんだって!」
「そうなんだ〜。あ、はじめまして〜。私、
「あっ...はい、よろしくお願いします月島さん」
「ふふっ、私も1年だから敬語は使わなくて大丈夫よ? 気軽に名前で呼んでもらえると嬉しいな」
「あ、そう...なんだ...よろしく、瑠衣ちゃん」
月島さん、なんだか雰囲気ほんわかした人だな〜、ずっとニコニコしてるし癒やし系っぽい。
「あ!ねぇ、私も瀬奈って呼んで!その代わりに琴音って呼んでいい?」
「う...うん、分かった。いいよ...瀬奈...ちゃん」
「ことね、ことね、琴音...すっごく響きがいい名前だよね!」
「少し珍しいけどいい名前よね〜」
「あ...えっと、2人とも、名前褒められるの、なんか...恥ずかしい。でも私は瀬奈ちゃんも瑠衣ちゃんも女の子っぽくてイイ名前だと思う...よ」
「瀬奈ちゃんの名前は可愛いしカッコいい感じよね〜」
「ほんと?なんかありがと!...確かにちょっと小っ恥ずかしいね...」
瀬奈ちゃんがそういって、3人で笑いあった。
まずはウォーミングアップのジョギングが終わった。
ベストを尽くせば 清水 雅 @miyabivalent
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