第7話

「……なんじゃ。また来たのか? 毎週、毎週性懲りもなくやってきおって。本当に冬ごもりの支度をしている熊に襲われても知らぬぞ。それに、ここは冬になると雪が積もるのじゃからな。寒いぞ。道も凍って滑るのじゃ。ん? 別にお主の心配をしているわけじゃない。勘違いするでないぞ。それと、食事を残してはもったいないから、やむを得ん。これは一緒に頂くが、食べたら帰れ。別に来週も期待したりはしておらんからな」


「ど、どうした? 我の顔を見るなり泣き出しおって。なに? 週の半ばに様子を見に来たが我がおらんで動揺したじゃと? 勤めはどうした? 入社以来初めての有給を取った? 首にするならしてみろと啖呵をきったと……。それはまた随分と強気にでたものじゃな。初めてあった時と比べて顔つきも凛々しく……。そんなことより、なぜ我が居なかったのが気になるとな?」


「心配させたのは悪く思うておるぞ。じゃがなあ、我にも都合があるんじゃ。ほれ、今はいつだ? そう、十月じゃ。またの名を神無月。分かったか? そうよ。ちと出雲までな、用があって出かけてきたんじゃ。なに、いつもはあんなところへなぞ顔を出すものか。参拝者の数と賽銭の額で競いあう場じゃぞ。我の居場所があると思うか?」


「それなのになぜ出かけたじゃと? それはな……お主のせいじゃ。毎週、毎週、しょうこりもなく押しかけてきて改築させろ、別棟を建てさせろとしつこいじゃろう。ほとほとあきれ果ててな。お主の気持ちは嬉しいが、ここに手をかけるのはどぶに金を捨てるようなもの。いいから、最後まで我の話を聞けい」


「慣例的に社を立て替えるときは元の場所で行うことが多いが、管轄範囲なら別の場所に移しても構わんのじゃ。その遷宮についてな、一応、他の神々にも報告しておかぬとうるさいのでな。それで我の管轄範囲は、ほれ、お主を迎えに行った駅までは域内に入っておる。あそこなら生活に必要なインフラもあるし、お主が快適に暮らせるじゃろう?」


「わー、まて、まてまて。ええい。我の両手を握るな。なぜ認めたのかじゃと? このままでは、いずれお主が凍死しそうだったからじゃ。一度助けた責任を果たしておるだけゆえ、勘違いするなよ。それでじゃな。建て替えの際はほんに小さい社でいいからな。お主が住むところの方をおろそかにするなよ。なに? 早速図面を引いてもらうと? 気が早過ぎるじゃろ……」


「……ふう。しかし、遷宮を半年もかけずに終わらせるとはなあ。お主も気ぜわしいやつじゃのう。これ、もちっと力をこめて脛を揉まぬか。おおう、そこじゃ、そこ。はわあ。まったく。ここに参拝してお守りを頂くと不思議と熊に会わないなどと適当な話を流しおって。お陰で域内の見回りが大変なのじゃぞ。なに? 少しは真面目に働けとな。この社畜が何を言う。もう、社畜では無いと? まあ、少しは自己主張ができるようになったようじゃがな」


「鼻の穴をおっぴろげて偉そうにするでない。まあ、確かに賽銭も入ってくるようになったし、信者も増えて助かっておるがのう。そんなことより、今日の手土産はなんじゃ。おう。いちご大福か。これは美味そうじゃ。しかし、我も疲れておるなあ。どうも脚だけでなく腕も上がらん。ほれ、下僕よ。我に食べさせるのじゃ。ほれ、早うせぬか」


「何を恥ずかしがっておる。お主が我の指を舐めた回数と比べれば、ほとんど無きに等しいぞ。なに? こんなにはっきりと吸ったことはないと? そうじゃったかなあ。まあ、よい。一つでは足りん。もう一つ食べさせるのじゃ。ん? お主が先に一つ食べるとな? 早う我に次の大福を……。ん? ぷくく。動くな。いいからじっとしておれ」


「何を真っ赤になっておる。まるで苺のようになっておるな。良い歳をして口の端に餡子をつけておったから、我がとってやっただけではないか。腕が上がらぬからのう。直接口を寄せて舐めただけではないか。それで、なぜ、また大福を口にした? また餡子をつけて……。仕方ないのう。我がとってやろう。んん~」


-完-

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よいか。下僕は素直に我に従うのじゃ。のじゃー 新巻へもん @shakesama

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