8.その弁当箱は保留する

「浮かない顔ですね」ズィーは訊ねた。


「そりゃあ、ね」ジョシュは俯いて言った。


 二人、帰りの列車の中。二日かかるため、寝台列車を使う。その二人部屋には重い空気が流れていた。


 ジョシュの視線は、膝の上の包みにあった。今日の出来事はジョシュの胸に重くのしかかっていた。


「信じてもらえないかもしれないけど、友達だったんだ」


「そうですか」


「それに、ラーバンさんたちのことは家族だって言ってた」


「そうですか」


「ラーバンさんの奥さんだって、あんなにシロムーのことを大事にしてたのに」


「知ってます」


「なんでこうも簡単に、料理にしちゃうんだ」


 膝の上の包みの中には、ガルメラ・ラーバンの作ったシロムー料理が入っている。


「事件はわたし、ズィー・ズーム・ゾーンが解決しました。警察も手間がかからないとわかってすぐにウォングを逮捕しました。この事件はおしまいです」


「そうじゃなくって、なんで、家族を簡単に……」


「死んでしまった者は蘇りません。無駄がなくて合理的です」


「本当にそう思ってる?」


「はい」彼女の言葉に迷いはない。


「そう感傷に浸るあなたの方が変ですよ、助手」


「そんなこと、あるわけがない!」


「それニンゲン、ということでしょうか」


「そうだ」ジョシュははっきりとそういった。


「魔界に慣れたといっていたあなたの言葉、まだまだのようですね。そのうち酷い目に遭いますよ」


「こういうことが、魔界に慣れるってことだったら、僕は嫌だ」


「ふむう」ズィーは腕を組んだ。


「ですが、ただ殺されて、あとは埋葬される、という人生もあっけないとは思いませんか」


「はあ?」


「死んで、魔界一の料理人に、最高の料理にされる。そして、それを最後の友に捧げられる。それはそれで、よいことだと思いますが」


「わけがわからない」


「ふむう。では、これはわたしが預かりましょう」


 彼女は包みを一瞬で取り上げた。


「待って、食べないで!」


 ジョシュの抵抗を彼女は片手で抑えた。ズィーは包みを解いて料理の入ったケースを取り出す。そして、それに、ふっと息をかけると、一瞬で緑色の結晶に包んだ。ズィーの角の色と同じ深い緑色だった。


「これならば一か月は持つでしょう」


「どういうこと?」


「面白い話が聞けたと思ったので。ガルメラとシロムーには悪いですが、封印しました」


「え?」


「これは、あなたに預けます」ズィーは緑色の結晶を手渡す。


「魔界のことをあなたはまだ知らない。これを腐らすにはまだ早いでしょう。いつか、あなたの結論を聞けたらいいですね」


 そういうズィーの表情に、なぜかジョシュは笑みを見たと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したらホムンクルスの体に錬成されたと悲劇の助手と孤独な角付き魔人探偵の魔界探索共同事件簿 杉林重工 @tomato_fiber

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ