第10話 世界の脅威だということ
その質問を受けて、俺は黙ってしまった。自分でもなにか言い返さないといけないと思っていたが……返す言葉がなかった。
ミサキが強いことは……一緒に魔王を倒した俺が一番良く知っている。そして、仮にミサキが敵になった時、それを俺に止めることができるかと聞かれると……。
「止めることができない、ということだな」
当然だという感じでそういうベルノルト。フィーナも悲しそうな顔で俺のことを見ている。
「勇者ミサキが反旗を翻すことなどありえない……もちろん、そうなのかもしれません。しかし、可能性がゼロとは言い切れませんよね?」
「……で、でも、ミサキは――」
「言い切れないだろう? 勇者自身の意思が仮に反旗を翻したくなくても、そうせざるを得ない状況になるかもしれない」
ベルノルトのその言葉に俺は思わず混乱する。そんな状況があるのだろうか?
「……そんなこと、あり得るんですか?」
俺がそう言うとベルノルトは呆れた顔で俺のことを見る。
「君たちが倒した魔王。魔王がいなくなったからといって、魔王の配下……つまり、魔族も全て消滅したわけじゃない。事実、魔界という地域は残っているしな」
「……もし、魔族の方たちが勇者ミサキを担ぎ上げるような真似をすれば……可能性はむしろ、高いかもしれませんね」
そんなことを言う二人に、俺は思わず立ち上がって反論する。
「そ、そんなことありません! ミサキが魔族に肩入れするなんて……!」
「……君、勇者ミサキはどんな性格だ?」
「え……。み、ミサキは……優しくて、強くて……」
「そう。優しいのだろう? つまり、困っている存在や弱者を放っておけないのではないか?」
ベルノルトにそう言われて俺はまた反論できなかった。確かにミサキは頼み事を断れないタイプだ。
ミサキならば、かつての敵であった魔族が、仮に助けてくれと言ってきたとして……断れるのだろうか?
「……とまぁ、そういう可能性があるからこそ、ドナツかイローナ……まぁ、ジャフテでもいいが……とにかく! どこかの国家が彼女を管理する必要があるということだ」
「管理って……ミサキをそんな物みたいに……!」
俺がそう言うとベルノルトは鼻で笑う。
「勇者ミサキも、見た目はあんな感じだが、立派な男だろう? こういうことは、理解してもらえると思うがね」
ベルノルトを俺は思わず睨みつけてしまう。しかし、ベルノルトはまるで動じていない様子であった。
と、そんな折に、パンと手を叩く音がする。
「ひとまず、休憩にしませんか? まだまだ、会談は長いですから」
フィーナにそう言われ、俺はベルノルトから視線を反らす。そして、俺は思い知る。
この二人は……かなりの現実主義者だ。俺やミサキが魔王を倒した事実など、踏まえていない。
魔王を倒した俺達……正確にはミサキこそが、今後の世界にとっての脅威であることを十分に理解しているのだと、俺の方がようやく理解したのだった。
ユウシャ会談 味噌わさび @NNMM
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